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.国際  投稿日:2015/4/8

[相川梨絵]【懸念される感染症と子供の栄養】~台風直撃のバヌアツ事情 3~


相川梨絵(フリーアナウンサー/バヌアツ共和国親善大使)

「相川梨絵のバヌアツ・ニュース」

執筆記事プロフィールBlog

バヌアツ人の健康状態、衛生面などを保健省ジョージ・タレオマネージャに伺いました。サイクロン被害から1週間はコミュニケーションツールが寸断して状況がつかめませんでした。2週目以降から徐々に状況がわかり、今は、対策を考えている段階だそうです。

現在、48箇所の避難所があり、6000人の子供が避難生活を強いられています。自然災害対策本部が病気の人はいないか、水や食料は届いているかモニタリングしている段階です。子供たちやママたちの直接被害は少ないですが、感染症など一度出ると急速に拡大するので懸念しているのとのこと、また、メンタル面のダメージも心配していました。

これは、教育関係者も同じです。多くの学校は3月30日から始まりました。しかし、すぐに授業を開始するのではなく、まずは子供たちの精神的なショックを和らげるため、スポーツや音楽などのプログラムを1ヶ月ほど続け、その後少しずつ通常のプログラムに戻していくそうです。しかし、まだまだ、再開のめどが立っていない学校もたくさんあります。校舎が壊れてしまった学校、机やいすが半分以上壊れてしまった学校など。そんな学校では、午前と午後にわけて学校を再開したり、青空教室にしたりしています。サイクロン以前の日常に戻ることが、子供たちを安心させることにつながると思います。早く学校が普通に再開されることを祈ります。

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個人的に一番の心配は、感染症でした。ここは、タレオ氏にズバッと聞くと、蚊を媒体としたマラリヤ、デング熱の発症者はなしとの報告でした。蚊帳を配布し、予防に力を入れたいということでした。また、サイクロンが来る前から麻疹がはやっていたのですが、被災後すぐにワクチン接種を再開させたこともあり、サイクロン後の発症報告はないとのことでした。ここまでは、安心な情報です。

一方、心配なこともあります。エキペという村を通ったとき、川で水浴びをしていたママの腕に野球ボール大の傷がぐじゅぐじゅしていました。たぶん、YAWS(森林梅毒)と呼ばれる感染症でしょう。そのそばにいた子供の背中にも大きなこぶが3つありました。たぶん、このママのものがうつったと思われます。日本からの医療チームもこのエキペで診療をした時に、YAWSらしき症状の患者さんがいたとおっしゃっていました。YAWSは感染力が強く、衛生状態が悪いとあっという間に広がってしまいです。しかし、薬を飲めば治る病気でもあります。

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タレオ氏からこの話が出なかったので、もしかしたら、保健省では、エキペで流行しているかもという事実を把握していないのかもしれません。後日、保健省担当の日本人ボランティアに対策をしてほしいと伝えましたので、近日中に調査に入ると思います。

次に、心配なのが子供たちの栄養面です。これまでの記事でも書いたように、バヌアツの農作物は全滅しました。多くのバヌアツ人は、現在、米しか食べていない状況です。この状況が植物が育ち収穫できるまでの期間、早くても3ヶ月続くと言われています。3ヶ月間米だけで、子供たちの健康被害は起こらないのでしょうか?

この質問には、栄養士のチームが、各村の現状を分析している段階という回答でした。現時点では、ビタミン剤などの配布は考えていないようで、状況をみて対処するとのことでした。しかし、話の雰囲気から、栄養面に関しては楽観視しているように感じました。

今回のサイクロン災害に関する対策は、各国の大きな支援も入り、とても迅速に、効率よく行われているという印象でしたが、保健分野においては、少し、後手の感じがします。もともと、発展途上国のバヌアツでは、医師不足、医療環境の悪さがあります。医療関係者の教育もまだまだ足りません。有事の時の組織のシステムもしっかりしていません。せっかく海外から薬の支援が届いても、使ったことがないものは、現地人看護師が処方できず無駄になっているという問題も起こっています。

今は、海外からの医療チームが来て、ヘルプしてくれていますが、彼らが帰ったときにバヌアツ独自でやっていけるのでしょうか。タレオ氏は言います。今必要なものは、①壊れてしまった病院、ヘルスセンターなどの医療施設の環境を整える②薬や医療器具③人材④お金だそうです。

人材を考えると、一時的でなく長期的な支援が必要となりそうです。また、バヌアツ自身も支援に頼るだけでなく、今回の経験からしっかりした医療従事者を育て、システムを構築しなければなりません。バヌアツの医療がこれを機にステップアップするか、今後バヌアツが強くなる鍵がここにあるのではないでしょうか。

※トップ画像/日本の医療チーム

※文中画像上/学校の教室:机の板の部分がなくなってしまい、屋根が壊れてビニールシートで補修されている様子 画像下/感染症が心配されるエキペの村

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