[古森義久]【安倍首相はまた謝罪するのか?】~4月29日米議会で演説~
古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)
「古森義久の内外透視」
安倍晋三首相が4月29日に予定するアメリカ議会上下両院合同会議での演説では「侵略」や「植民地支配」への「お詫び(謝罪)」を具体的に述べることへの期待が伝えられる。中国、韓国、そしてアメリカの一部からの要望だとされる。
果たして安倍首相はまた日本の過去を謝罪すべきなのか。だが日本の首相によるこの種の謝罪がもう不毛だとする意見がアメリカ側にも存在することはあまり知られていない。
アメリカ側ではオバマ政権周辺のリベラル派の学者などの間には「安倍首相はこの際に改めて日本の戦争行動への謝罪を表明すべきだ」という意見が確実に存在する。オバマ政権も日本の謝罪を明確にした「村山談話」は有益だったと述べて、暗に安倍首相もその表明を踏襲することを促す感じもある。
しかしアメリカ議会上下両院で多数を占める共和党議員たちの多くは日本の歴史認識問題に関してはオバマ政権とは異なるスタンスを示し、安倍首相に謝罪表明を期待する向きはきわめて少なくみえる。民間でも大手紙のウォールストリート・ジャーナルは最近の評論で「日本はもう過去の戦争行動への謝罪を述べる必要はない」との見解を載せた。リベラル系の日本研究学者ジェニファー・リンド氏も「日本はもう謝罪しないほうがよい」という意見を発表した。
しかし日本の戦争についての謝罪に関するアメリカ側の学術研究ではオークランド大学の日本研究学者ジェーン・ヤマザキ氏が2006年に出版した「第二次大戦への日本の謝罪」という書が注視される。ヤマザキ氏は1965年の日韓国交正常化以降の日本の国家レベルでの謝罪の数々を列挙しながら「主権国家がこれほどに過去の自国の間違いや悪事を認め、外国に対して謝ることは国際的にきわめて珍しい」と述べた。そしてアメリカはじめ他の諸国は国家としての対外謝罪は最大限、拒むのが普通であり、その理由として以下の諸点をあげた。
・過去の行動への謝罪は国際的に自国の立場を低くし、自己卑下となる
・国家謝罪は現在の自国民の自国への誇りを傷つける
・国家謝罪はもう自己弁護できない自国の先祖と未来の世代の評判を傷つけ る
さらにヤマザキ氏はとくに日本の戦後の謝罪について以下の点を強調していた。
・日本は首相レベルで何度も中国や韓国に謝罪を表明してきたが、歴史に関 する中韓両国との関係は基本的に改善されていない。国際的にも『日本は十分に謝罪していない』とか『日本は本当には反省していない』という指摘が多い
・謝罪が成功するには受け手にそれを受け入れる用意が不可欠だが、韓国や中国には受け入れの意思はなく、歴史問題で日本と和解する気がないといえる
以上のヤマザキ氏の指摘は同書の出版から10年近くが過ぎた現在でもまったく正確だといえる。そしてその指摘に従えば、安倍首相は今月末のアメリカ議会での演説で謝罪を表明しても、なんの効用もないことになる。戦後70年、日本側の過去への対処に関しても、もう根本からの前向きな新アプローチが必要なのではないだろうか。