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.政治  投稿日:2015/5/5

[安倍宏行] 【「地方自治の死」を受け入れるのか?】~統一地方選2015総括~


 

安倍宏行(Japan In-depth編集長/ジャーナリスト)

「編集長の眼」

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低投票率に喘いだ2015統一地方選。よくて40%台、30%台のところも多かった。これは民主主義の危機というより、地方自治の危機だ。有権者は、自分たちの住む町の自治はどうでもいい、と言っているに等しい。

そうした中、今回千葉県議選に無所属で挑戦した水野ゆうき候補(元我孫子市議会議員)の選挙戦をつぶさに見た。現職自民党候補と新人民主党候補(元我孫子市議3期)との三つ巴の戦いだったが、低投票率にもかかわらず無所属の水野候補が1位の自民党候補におよそ1,000票と迫る健闘を見せ、民主党候補を落として当選した。低投票率下では、組織のない無所属候補は不利というのが政界では常識だが、この無所属候補の健闘は一体何を意味するのか?

一つには唯一の女性候補であったこと。さらには若さ。そして外見。いろいろ上げる人はいよう。しかし、つまるところ、地道に地域に密着し活動していた政治家を住民はよく見ていた、と言うことではないだろうか。聞くと水野氏はほぼ毎日毎朝夕、駅頭をやっているという。それだけなら他にもやっている政治家はいそうだが、議会報告等を配布したり、何より市民が困っている課題に積極的に取り組んだりして、着実に実績を上げていた点が大きかったように思う。(注1)

東京都渋谷区の区長選も似た構図だ。「同性パートナー条例」が争点として報道されたが、当選した長谷部健氏は区議を3期務め、その間、様々な実績を上げて区民に浸透していた。自民党や民主党推薦の候補を破って当選した。国政政党や特定の組織の支援がない場合、いくら若かろうが、イケメンだろうが美人だろうが、空中戦だけでは勝てない、ということだ。様々な地域密着型の政治を行い、地上戦もしっかりとやって地元での知名度を確固たるものにしてこそ、勝利することが出来る。これは渋谷区の隣の港区などでも同様の構図だった。複数の女性候補の戦いを、「ミスコン」などと一部メディアが騒いでいたが、何の実績もないアイドル候補はちゃんと落選している。結局、実績のある元区議(民主党)がトップ当選した。

また、メディアにも取り上げられた「土日・夜間議会改革!」をスローガンに3人の候補を千代田区議選に送り込んだ「地方議会を変える国民会議」だったが、結果は全員落選。「普通の人が議員になれるように」「兼業議員を当たり前に」という改革プランには賛同する有権者はいたろうが、候補3名が出そろったのが告示直前、仕事中は選挙活動を行わない、というルールを厳格に守り通した結果、対立候補の固定票・組織票を崩すまでには至らなかった。これまた単にスローガンだけで勝てる程地方選は甘くないという現実を見せつけた。

いずれにしろ、無投票当選が過去最高となった今回の統一地方選の結果を私達市民は真摯に受け止め、自分の問題として考えねばならない。候補者のなり手がいないような状況が今以上に広がることは「地方自治の死」を意味する。ひいては国政にも重大な影響を及ぼすだろう。

こうした状況を変えるには、まず、公職選挙法を女性、若者、サラリーマンらが立候補しやすいよう改正する必要があろう。また、メディアが地方政治により光を当て、人々の暮らしと政治の在り方について報道することも求められる。なによりまず私達有権者が、自分たちの命を守る為に、自分たちの住む町でどのような政治が行われているのか、興味を持つことだろう。すべてはそこから始まる。

 

(注1)県が手賀沼に一方的に運び込んだ、高濃度放射性物質に汚染された他の市のごみ焼却灰の扱いに対し、市議会議員として反対決議を可決させ、事態の進捗をSNSなどで積極的に市民に情報発信した事や、Facebookを使っての市の情報発信を実現させたことなど。

 


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