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.経済,ビジネス  投稿日:2015/6/25

[遠藤功治] 【タイヤバルブのガリバー、高収益謳歌】~“キラリと光るダイヤモンドの原石企業” 岐阜県編 1~


トップ画像:タイヤ内部に装着されたTPMS送信機(太平洋工業株式会社HPより)

遠藤功治(アドバンストリサーチジャパン マネージングディレクター)

「遠藤功治のオートモーティブ・フォーカス」

執筆記事プロフィール

地方創生企業のご紹介、地方できらりと光る、自動車関係企業をご紹介しているシリーズ、今回は、岐阜県大垣市に本社がある自動車部品企業、太平洋工業を取り上げます。世界主要国の大半で既に装着義務化となったTPMS(Tire Pressure Monitoring System)の日本最大手メーカーですが何故か、日本のみこの法制化が進んでいません。タカタのエアバッグリコールなどで車の安全基準に注目が集まる中、タイヤの空気圧を検知する装備であるTPMSの義務化も避けて通れないと思うのですが、何故か国交省は“検討中”を繰り返すのみ。

大垣は岐阜県西部、滋賀県に接し、日本列島のほぼど真ん中、岐阜県では県庁所在地の岐阜市に次ぐ、人口約16万人の都市です。東海道本線の主要駅、10年ほど前までは、東京駅を午前零時少し前に出発する大垣行きの普通列車があり、大垣に翌朝早く到着する便利さもあり、学生のみならず、一部出張族にも使われていました。

西に向かって少し行けば関ヶ原、南には養老渓谷などもあり、近年では名古屋や岐阜のベッドタウンという性格も。市内を揖斐川や長良川など多くの河川が流れる水の都でもあります。松尾芭蕉、奥の細道の終点の地としても知られます。産業では、当社のみならず、カンガルー便で有名な西濃運輸や、プリント配線基板の大手、イビデンの本社などもあり、また、養老鉄道・樽見鉄道といったローカル線の起点で、鉄道マニアにも人気の地です。

ただ、人口は近年頭打ち、駅前には大きな商店街が広がり、再建された大垣城などもあるのですが、昼間の商店街には人通りが少なく、やや活気に欠ける市内、移動手段は圧倒的に車であって、駅の周辺は必ずしも賑わってはいない、典型的な中京地区郊外の中堅都市といった印象です。

大垣駅から車で10分ほど行きますと、太平洋工業の本社に到着します。本社ビルと隣接する工場、プレス成形の音が聞こえてきます。太平洋工業は売上高の約90%がトヨタ向けという自動車部品メーカー、主にタイヤバルブとプレス成形品を主力とする東証1部上場会社です。

株価は現在、上場来高値を更新中ということもあり、時価総額は約700億円、2015年3月期の売上高はほぼ1,000億円、営業利益は約70億円と、過去最高益更新の企業です。主力製品のタイヤバルブとはまさにその名前通りで、タイヤに空気を入れる口の所のバルブです。当社はこの分野で国内100%シェアと独占、海外でも20%強のシェアを握っています。

タイヤバルブの構造ですが、タイヤホイールから出ている筒状のバルブな中に、バルブコアと言われる金属の芯が入っています。これがタイヤバルブの心臓とも言える精密部品であり当社創業の部品です。空気を入れる際には弁が開き、通常はその弁が閉じていて空気が漏れない働きをします。構造はシンプル、それほど特殊なハイテク部品でもないとの印象はありますが、それがまたシェア独占の一因ともなります。

つまり、“残存者利益”とでも言いましょうか。この部品にはゴムやバネがついており、プレスや鍛造、ゴムの精錬・加工など、幅広い技術が必要です。以前は複数企業が生産していた部品ですが、当社が組み立てまでの一貫生産を構築、自動車・タイヤ各社からの受注を拡大、スケールメリットを享受する一方で、他社が脱落していき、最終的には当社のみが残り、比較的古く償却負担が一巡した設備で数億、数十億個の生産規模を確保することで、圧倒的な低コストを実現、新規参入を困難なものにしています。結果、17%という自動車部品としては他に例を見ないような営業利益率を確保しているという企業です。

 

【空気圧低下警告装置が義務化されない日本】~“キラリと光るダイヤモンドの原石企業” 岐阜県編 2~ に続く。本シリーズ全2回)

タグ遠藤功治

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