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スポーツ  投稿日:2026/10/19

全国的に知られていない、名古屋・久屋大通が示したアジア大会の“もう一つの表彰台と祝福”


執筆:松永裕司(Forbes Official Columnist) 

【本稿のポイント】

  • ONE ASIA WORLD(OAW)は名古屋・久屋大通公園に設けられたアジア大会の公式ファンゾーンで、関係者プレビューを除く16日間の来場者は累計36万3000人に上った。
  • メダリストセレブレーションには国内413人、海外29人の計442人が登壇し、「しゃちほこニュース」の取材43件のうち銀・銅の選手が4割超を占めた。
  • 海外選手の参加は29人(6.6%)にとどまり、競技外の「祝う場」の設置、天候への対応、海外選手が参加しやすい導線の整備が次大会への課題。


Forbes Official Columnistの松永裕司氏は、2026年9月19日から10月4日まで名古屋・久屋大通公園で開かれたアジア大会公式ファンゾーン「ONE ASIA WORLD」の実像を、来場者数やメダリストの声から読み解く。16日間で累計36万3000人が来場し、442人のメダリストが登壇した。金メダルだけでなく銀・銅の選手も祝福された一方、海外選手の参加は6.6%にとどまったとして、この記録を次の開催地と日本開催大会に引き継ぐ必要性を指摘している。

現在、アジアパラ大会が24日まで開催中だが、それに先立ち9月19日に開幕した2026年アジア大会(愛知・名古屋)は、去る4日に16日間の幕を閉じた。しかし競技会場の外に、全国的にはあまり知られていない「もう一つの舞台」があった。名古屋・久屋大通公園に設けられた「ONE ASIA WORLD(以下OAW)」だ。パリ五輪でエッフェル塔前のトロカデロ広場に設けられた「チャンピオンズパーク」に着想を得た、メダリストとファンが交流するためのエリアだ。都内に戻るとメディアも含め、驚くほどこの舞台を知らぬ者が多いので、これを紐解いてみたい。

OAWには何人が集まったのか?

関係者プレビュー(230人)を除く16日間のOAW来場者は累計36万3000人、1日平均で約2万3000人。最多は開幕日の5万人で、閉会日が3万5000人、開幕日を除くシルバーウィーク中は2万5000~3万7000人で推移した。

大会中盤には谷もあった。9月24日は1万人、28日と29日は8000人まで落ち込んだ。いずれも平日で、雨天と重なった点が響いた。そこから来場者は右肩上がり。10月1日に1万4000人、3日に3万人、閉会日には3万5000人。8000人から4倍以上への回復には、週末と閉会日が重なったことに加え、大会の熱が競技日程の後半に向けて高まったことも影響した。

悪天候の最中にも、舞台は止まらなかった。メダリストセレブレーションは9月21日から10月4日までの14日間、国内413人、海外29人、合計442人のメダリストを迎えた。来場者が8000人だった28日にも、国内57人、海外3人の計60人が登壇。閉会日を除けば期間中で最多。来場者の多寡にかかわらず、選手は舞台に立った。なお閉会日だけで国内125人、国内参加者の約3割がこの日に集中した。

一方、メディアの動きには別の傾向がみられた。

取材は関係者プレビュー日に国内50件、開幕日に国内39件と序盤に集中、その後は日ごとに5~27件の範囲で推移。海外メディアが国内を上回った日は9月23日と30日の2日で、30日はタイとシンガポールの選手が登壇した日と重なる。

競技の外で選手は何を得たのか?

連日OAWのミックスゾーンで取材を敢行したローカルメディア「しゃちほこニュース」がまとめた43件の感想は、20を超える競技にまたがる。そこで目立つのは「見られること」への驚きと喜びだ。

フェンシング女子フルーレ団体で金メダルの辻すみれは、観客席が埋まることはまずない競技で、これほどの歓声を受けたのは初めてだと語った。セーリング混合470級で金の磯崎哲也も、普段は会場で観客に見てもらえない競技だと話し、祝福と交流を喜んだ。スポーツクライミング男子ボルダー金の安楽宙斗は、競技を知らない人まで自分の名前を呼んでくれたことで、「競技をやっている意味ある」と感じたという。

ここに、スポーツのもう一つの価値が見える。

競技の価値は、試合会場の観客数だけでは測れない。マイナー競技の選手にとって、競技外で「知られる」「応援される」経験は、競技を続ける動機そのものになる。ボクシング男子55kg級金の山口瑠は、メダルを獲得した翌日に祝福され、ようやく実感が湧いたと語った。この「実感」を街が用意できたことの意味は小さくない。

興味深いのは緊張の質である。

カヌーの福田りん、フェンシングの辻すみれ、レスリングの鈴木絢大の3人は、試合よりも緊張したと答えた。一方、同じレスリングの曽我部京太郎とラグビー7人制の古賀由教は、緊張するのは試合のほうだと答えている。eスポーツの神谷凌は、メダリストが登場するランウェイを歩くのは人生で初めてだと話した。競技の外にも「本番」がある。選手にとって、競技と同じ重みをもつ体験になった人もいたようだ。

もう一つ見逃せないのは時間だ。

レスリング男子グレコローマン97kg級金の仲里優力は、時間が足りなかった、みんなと話したかったと振り返った。同60kg級銅の鈴木絢大も、サインや握手の求めが多く、時間があっという間だったと話す。選手とファンの接触時間をどう設計するかは、次の大会の重要な論点になる。

企業の視点からすれば「選手の価値を可視化する場」だ。スポンサーが選手に求めるのは、競技成績だけでなく、人柄や発信力、ファンとの距離の近さだ。ファンと選手が直接触れ合うセレブレーションは、その価値が最も伝わりやすい場面の一つといえる。競技団体や企業は、こうした場での選手の振る舞いを、日頃の強化や支援の評価軸に加えてよいのではないか。

祝福は金メダルだけのものか?

データからは「金メダルだけの祭りではなかった」ことも読み取れる。43件の取材のうち、金は25件、銀は7件、銅は11件。4割以上が銀・銅の選手だ。

レスリング女子57kg級で銅メダルを獲得した藤波朱理は、開会式で旗手を務めた。準決勝で敗れ、公式戦の連勝は155で止まった。涙を流した翌日、笑顔を見せた彼女は「忘れられない大会になった」と振り返り、「負けた後も応援してくれる人のことを絶対に忘れない。2年後のロス五輪で最高の景色を見たい」と再出発を誓った。メダルの色や勝敗にかかわらず、応援してくれる人の存在を実感できる場がある。その価値は、勝敗の物語を「敗北」で終わらせないという点で、スポーツ全体の裾野を広げる。

今大会の選手たちの言葉は、喜びの形もさまざまだ。7連覇に貢献したソフトボールの上野由岐子は「一緒に盛り上がれてすごく楽しかった」と満喫した様子を見せた。陸上の中島佑気ジョセフは、ミックスゾーンで「反省するところは反省しつつ、マイルリレーで金を取れたことを素直によろこびたい」と語った。

なお、今回の登壇者は国内が圧倒的に多く、取材に応じた43件のうち日本の選手は39件、約9割を占める。裏を返せば、海外の選手の声はまだ十分に拾えていなかった。国内外の声を同じ重さで記録できるか、次の課題だ。

OAWの課題と残すべき遺産は何か?

参加者442人のうち、海外選手は29人、わずか6.6%にとどまる。確認できる海外参加は、チャイニーズタイペイ、ウズベキスタン、カザフスタン、インドネシア、タイ、シンガポールの6つの国・地域だ。アジア大会に参加する国・地域は45を超える。

参加した海外選手からは、好意的な声が聞かれた。タイのeスポーツ選手は、これほど温かく迎えられるとは思っていなかったと語り、アーチェリー金のヌリサ・ディアン・アシュリファ(インドネシア)は、観客の熱気に驚いたという。

メディア取材は、国内293件に対して海外70件。海外の割合は約2割で、選手の参加率を上回る。選手の参加を増やせれば、海外に届く力はさらに伸びる余地がある。

第一に、競技施設の外に「祝う場」を設けること。都心の公共空間で、勝者を市民が迎える仕組みは、都市のブランド価値にも直結する。第二に、天候に対応した設計だ。来場者数は曜日や天候に左右された。選手が主役であるなら、人が少ない日の演出や告知こそ工夫の余地がある。第三に、海外選手が参加しやすい導線の整備だ。

最後に、今回は来場者数、参加者数、選手の声が記録として残った。この記録を次の開催地に渡せるか、そして日本開催大会にどう活かせるか…2026年大会の本当のレガシーになる。メダルの数は大会が終われば歴史になる。祝福の数も、次の資産につなげるべきだ。

【よくある質問(FAQ)】

Q1.アジア競技大会とは何ですか?
A.アジア・オリンピック評議会(OCA)が主催し、OCAに加盟する45の国と地域から選手団が参加する大会です。名古屋市のポータルサイトによると、第20回大会(愛知・名古屋)の会期は2026年9月19日から10月4日です。愛知県の資料には、開催周期は4年に1度(夏季オリンピックの中間年)と記されています。

Q2.日本ではこれまでどこで開かれましたか?
A.愛知県の資料には、過去大会の例として、日本開催の1958年の第3回東京大会と1994年の第12回広島大会が挙げられています。

Q3.ONE ASIA WORLDにはどんなエリアがありますか?
A.愛知県の公式観光サイトによると、久屋大通公園、オアシス21、サカエ ヒロバスを舞台とする大会公式のセレブレーション・ファンゾーンで、HOSPITALITY LOUNGE、CHAMPIONS ROAD & STAGE、LIVE SITE、CROSSROADS FESTIVAL、PLAYGROUND、PHOTO SPOT、CHAMPIONS WALLの7エリアで構成されます。HOSPITALITY LOUNGEのみ有料で、メダリストセレブレーションは日本オリンピック委員会の公式行事と位置づけられています。

Q4.パリ五輪の「チャンピオンズ・パーク」とは何ですか?
A.フランス観光開発機構の公式サイトによると、2024年7月29日から8月10日まで、エッフェル塔の足元のトロカデロ広場に設けられた大規模な祝祭エリアです。毎日16時30分から23時30分の間、全てのメダリストが一般の人々と交流する場になると紹介されています。

Q5.アジアパラ競技大会とは何ですか?
A.アジアパラリンピック委員会(APC)が主催し、APCに加盟する45の国と地域から選手団が参加する大会です。名古屋市のポータルサイトによると、第5回大会(愛知・名古屋)の会期は2026年10月18日から24日です。

(本稿のポイント、リード、FAQの文責:Japan In-depth編集部)

 




この記事を書いた人
松永裕司Forbes Official Columnist

NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 「あらたにす」担当/東京マラソン事務局初代広報ディレクター/「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Directorなどを歴任。


出版社、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験から幅広いソリューションに精通。1990年代をニューヨークで、2000年代初頭までアトランタで過ごし帰国。

松永裕司

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