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.国際  投稿日:2026/10/31

イスラエル総選挙、ネタニヤフ氏の去就は世界のエネルギーに響くか


執筆:宮家邦彦( キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2026#43

2026年10月26日-11月1日

【本稿のポイント】

・ネタニヤフ首相の去就は中東情勢だけでなく世界のエネルギー供給にも影響し得る。ホルムズ海峡をめぐる状況は基本的に変わらず、中東情勢の行方はこの結果待ちだと考えられる。

・米保守系論客Bret Stephensは、西洋文明の「3つの柱」を真実の探求、個人の尊厳と価値、法の支配とし、トランプ政権の行動がその価値観を壊していると論じた。

・ロシアのエリート層は、米露ウクライナの三者協議再開が戦争の早期終結につながるとは期待していない。終結を望みつつも、プーチン大統領に異議を唱えず、その決断を待っている。

 

今週筆者が最も注目するのはイスラエル総選挙だ。確かに、先週末にはブラジル大統領選の決選投票もあった。現大統領再選も大きなニュースではあるが、中東情勢だけでなく、世界のエネルギー供給にも大きな影響を及ぼすという点で、ネタニヤフ首相の去就の方が国際政治的インパクトははるかに大きいかもしれない。

 

このイスラエル総選挙に加えて、来週は米国の中間選挙もある。だからという訳でもなかろうが、今週は水曜日と木曜日のプライムニュースに、何と二晩連続で生出演することになった。同番組とのご縁も既に十数年になるが、こんなことは初めてである。長くやっていると、こんなこともあるんだなぁ、有難いことだ、とつくづく思う。

 

それはさておき、まずは今週読んだ評論の中で最も気になったコラムをご紹介しよう。

 

◆米保守系論客が説く西洋文明の「3つの柱」とは何か? 

米保守系論客Bret StephensはNew York Timesのオピニオン欄に概要を次のように書いている。

 

  • 西洋文明の基盤となる「3つの柱」は、①真実の探求(The Quest for Truth)、②個人の尊厳と価値(The Worth and Dignity of Every Human Being)、および③法の支配(The Rule of Law)である。

 

  • マルコ・ルビオ国務長官らトランプ政権の高官が「西洋文明の防衛」を声高に訴えているが、ロシアからの燃料購入、汚職、法の手続きの軽視など、同政権の行動は「西洋文明」を支える根本的な価値観を破壊している・・・。

 

要するに、Stephensが主張する「伝統保守派の西洋文明観」は、第二期トランプ政権の外交の支柱ともいわれる、ニュー・ライト派(新右派)が提唱する「文明主義(Civilizationism)」とは全く異なる価値観らしいのだ。なるほど!されば、ヴァンス副大統領が心酔している(?)「Civilizationism」なる概念はどんなものなのか?

 

このテーマを取り上げたのが今週の産経新聞World Watchコラムだ。米国中間選挙の結果がこうした「文明主義」的思想に如何なる影響を与えるのか?今筆者の最大の関心事は、この点にある。同じくこの点が気になる読者各位におかれては、今週木曜日掲載の同コラムを是非ともご一読願いたい。

 

◆ロシアのエリート層は米露ウ三者協議の再開に期待しているのか? 

さて次は、吉岡明子主任研究員によるロシア関連コーナーだが、今週は同研究員がまとめた「米露ウの三者協議再開に期待しないロシアのエリートたち――ロシア・メディアより」を以下の通りご紹介する。ロシア知識人の苦悩が行間から滲み出ているようで実に興味深かった。

10月21日、ロシアのサンクトペテルブルクでプーチン大統領とウィットコフ米大統領特使が会談した後、クレムリンは、米国の仲介によるウクライナとの三者協議再開に、プーチン大統領が原則として同意したと発表した。イラン戦争の開始を受けて2月以降中断されていた米露ウの三者協議の枠組みに、ロシア側は11月10日前後にも復帰する意向を示している。

 

一方、プーチン大統領は従来の要求を維持しており、ウクライナの領土問題に加え、ロシアの安全の保証や欧州全体の安全保障体制についても協議するよう求めている。

 

こうしたなか、ロシアのエリート層の間では、今回の交渉再開が戦争の早期終結につながるとの期待は乏しいようだ。ロシアの独立系メディア「ヴョルストカ」が、政府高官やクレムリンに近い関係者らに、交渉の行方や戦争への認識について取材している。

 

記事からは、長期化する戦争への疲れや不満がエリート層の間でも広がっている一方、彼らがプーチン大統領の方針に異議を唱えてまで戦争終結を求めようとはしていない現状が浮かび上がる。

 

先日、筆者(吉岡)が直接話を聞いたカーネギー・ロシア・ユーラシアセンターのアレクサンドラ・プロコペンコ上級研究員は、プーチン体制下でエリート層は政治的な主体性を意図的に奪われ、体制の方針に適応する能力はあっても、自ら政治的な変化を起こす能力を失っていると指摘した。戦争の終結を望みながらも、自ら行動を起こすのではなく、プーチン大統領の決断を待つという今回の記事の証言は、こうした分析とも重なる。

※「ヴョルストカ」は、ロシア政府による独立系メディアへの弾圧を背景に、国外を拠点として活動するロシアの調査報道メディアである。ロシア国内にも独自の取材網を持つ。

 

◆「『交渉は毎回“建設的”だというが、何の成果もない』――ロシアのエリート層は、米国との新たな交渉ルートに進展を期待せず」、10月22日付「ヴョルストカ」(*一部要約)

 

クレムリンは、ウクライナ、米国との三者協議に復帰することに同意した。しかし、ロシアのエリート層は、この新たな交渉の試みが戦争の早期終結につながるとは期待していない。

 

ある情報筋は、モスクワが今回の交渉を通じて、ディーゼル燃料だけでなく穀物の輸出など、いくつかの経済問題の解決を図りたいと考えていることを示唆した。外務省に近い関係者も、トランプとゼレンスキーの現在の対立が一時的なもので終わったとしても、今回のディーゼル合意のように、ロシアが経済的利益を得られることを期待している。

 

大統領府の国内政治部門の職員も、交渉が早期終戦につながるとは考えていないものの、ロシアは今回の米国とウクライナの対立を利用して、予算収入の増加や戦場での優位を得られる可能性があると指摘している。

 

一方、エリート層の誰もが、現在のモスクワとワシントンの接近によってロシアが長期的な政治的利益を得られると考えているわけではない。クレムリンと協力関係にある政治コンサルタントの一人は、米国によるウクライナへの圧力が、かえってゼレンスキーの国内での支持を固め、その立場を強める可能性もあると考えている。

 

ある政府高官も、外交交渉が近く成果を上げるとは考えていないと語った。モスクワとワシントンの接近について長い間語られてきたにもかかわらず、実質的な成果は今のところ何もないからだ。

 

「率直に言って、みんなもう諦めの境地に達するほど疲れ果てている。もう2年近く、トランプはどうやらわれわれの味方らしい、交渉は建設的だ、と言い続けているが、実際には何の成果もない。われわれは戦争を続け、あらゆる災難に見舞われながら、祖国とともに苦難に耐えている。大統領がそう決めた以上、われわれは従う。それだけのことだ」

 

この高官によれば、ロシアの権力内部には、いわば『和平派』と呼べる勢力が存在する。そこには、国内の世論動向を担当する大統領府の国内政治部門や、長期化する戦争の影響を最も強く受けている政府の財政・経済部門、さらに大企業が含まれるという。

 

こうした勢力は拡大している。しかし、戦争に対する公然とした異議申し立ては、依然として見られないという。「これは、それぞれが自分なりに選んだ現実主義的な対応だ。しかし、もうこの船から降りることはできない。戦っている連中が、もう十分だと思うまで待つしかない」

 

この高官は、ロシアの政府高官たちが戦争の終結を望んでいるとしても、それはプーチンが提示する条件とは異なる条件で戦争を終わらせようとする意思があることを意味しない、と結論づけた。

 

◆欧米の外交専門家が今週注目するイベント 

続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

 

10月27日 火曜日 

独首相、シンガポール、日本、韓国訪問開始(全5日間)

ドイツ大統領訪中(4日間)

アブダビ皇太子、カナダ訪問を終える(2日間)

北欧理事会(北欧5カ国議会連携機関)会合(フィンランド、3日間)

 

10月28日 水曜日 

ASEAN国防大臣会合(2日間、フィリピン)

ロシア大統領、ロシア・アフリカ首脳会議を主催(2日間)

 

10月29日 木曜日 

カナダ首相、カナダ・EU首脳会議を主催(2日間)

ウクライナ・オレシュキー市での停戦が発効

 

10月30日 金曜日 

スイス大統領訪中、中国国家主席と会談

 

11月1日 日曜日 

ブルガリアで大統領選決選投票

 

◆ホルムズ海峡とイラン情勢は今後どうなるのか? 

最後はガザ・中東情勢だが、ホルムズ海峡をめぐる状況は基本的に変わらず、米中間選挙前の対イラン攻撃再開もなさそうなので、全てはイスラエル総選挙の結果待ちというところか?先週も書いた通り、仮に中間選挙後「イラン再攻撃」をやっても、イランはそれを機に「待ってました」とばかり、湾岸アラブ諸国の原油・天然ガスのタンカーや関連施設を大規模攻撃するだけで、メリットは小さい。トランプ氏は一体どうするつもりなのだろう・・・。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 

(タイトル、本稿のポイントの文責:Japan In-depth編集部)   

 

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写真:開票速報会場のネタニヤフ氏
出典:Alexi J.Rosenfeld/gettyimages

 




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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