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.経済  投稿日:2017/3/9

日産ゴーンは去ったのか? その2


遠藤功治(株式会社SBI証券)

「遠藤功治のオートモーティブ・フォーカス」

 

【まとめ】

日産、利益率でトヨタ、ホンダの後塵拝する

・アライアンスの相乗効果見えない

・次期大統領、経営関与の可能性

 

見えないスケールメリット

今一つ大事なのは、1000万台クラブなどと言って、スケールメリットを追う最大の理由は、これにより利益を最大化したいから、に他ならない。自動車会社は顧客が最も喜ぶ車を作るために存在するのであって、金を数えるためにあるのではない、という会社経営者もいるので、そういう人たちには言い方を反対にしてもよい。良い車を多く作り、多く売れたので、結果としてスケールメリットを最大限に享受できた、結果、利益も最大化したと。

現実はどうか。既に公表されている今期第3四半期決算までの実績値を見てみる。他社同士を比較するため、日産の場合は中国分を比例連結ではなく持分法利益として計算する。また、トヨタは会社全体の営業利益の中に、自動車部門と金融部門が、ホンダは自動車、二輪車、汎用製品、金融の4部門が、日産は自動車と金融の2部門のセグメントに分かれているので、ここでは自動車部門のみを抽出して比較することにする。

次表は第3四半期までの9ヶ月累計の各社業績を示したものである。会社全体の利益のうち、自動車部門のみの営業利益は、トヨタが約1兆3,200億円、ホンダが約4,460億円、日産が約3,365億円であることがわかる。その営業利益率は、トヨタが7.2%、ホンダが5.9%、日産が4.4%である。9ヶ月間累計の自動車部門の利益を、9ヶ月累計の世界販売台数で単純に割ったものが、右端の1台当たり営業利益となる。

昨年4月から12月の累計実績なので、三菱自とのシナジーなどは殆ど皆無、また日産の数値には、日産自身の台数以上に、調達などルノーとのシナジー効果が多く入っている筈である。さて読者は、この表の各社数値をどう見られるだろうか。日産の販売台数はホンダを42万台上回っているが、自動車の営業利益は1,000億円以上下回っている。日産の営業利益率も、1台当たりの営業利益も、ホンダのそれを大きく下回っている。

トヨタの販売台数は、日産の2.4倍、ホンダの2.1倍だが、自動車部門の営業利益は、日産の3.9倍、ホンダの3倍である。よってトヨタの営業利益率は、日産やホンダを大きく上回る。そう、確かにトヨタはスケールメリットを十分享受しているように見えるが、日産はホンダよりも規模が大きいにもかかわらず、利益額も利益率も圧倒的に少ない。これはどうしたことか。1999年以来、ゴーン会長が追求してきたスケールメリットが、収益に必ずしも直結していないことになる。

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勿論、三菱自の買収効果はまだ全く反映されていない。今後に乞うご期待ではあるが、1999年以来続けてきたルノーとの相乗効果は、17年経った現在も、少なくともトヨタやホンダとの比較に於いて、その優位性を発揮出来ていないように見える。倒産直前の状況からここまで業績を改善させてきたのだから、ゴーン会長の今までの手腕に賛辞を送ることに吝かではないが、言われているほどのアライアンスの相乗効果、スケールメリットがあったかと聞かれれば、答えは明らかに“NO”であろう。

話は長くなったが、ゴーン会長の今後の経営課題、第1のPriorityは、世界販売台数でトヨタと並ぶというのだから、経営指標のベンチマークもトヨタ並み、少なくとも視野に入る水準まで改善されなければならない。それ無しに、ルノーと日産と三菱自の販売台数をただ単純に足して、世界一になったとしても、その数値には何の意味も無いということは、ゴーン会長が一番ご存知であろう。

 

アライアンスの敵は次期大統領?

社長から離れたゴーン会長、第2の達成必須項目だが、ある意味、第1の仕事よりも手ごわいかもしれない。それはルノー・日産・三菱自アライアンスの最終形を作り上げることである。そしてその最大の難敵が、フランス政府だということである。2014年から15年にかけて、フランス政府が日産の経営により関与しようと画策したことは記憶に新しい。株式を2年以上保有する株主には、2倍の議決権を与えるというフロランジュ法なるものを駆使、フランス政府は一時、ルノー株を15%から20%近い水準まで買い増した。

ルノーは日産の43.4%の株式を保有するが、そのルノーの筆頭株主はフランス政府である。今回、日産の新社長となった西川氏がフランス政府との交渉役となり、日産がルノー株を買いますなどして、フランス政府による経営介入を阻止した経緯がある。

そのフランス、まもなく大統領選挙を迎える。下馬評は極右政党・国民戦線のルペン党首と、独立候補のマクロン元経済産業大臣である。どちらになってもゴーン会長にとっては難しい相手である。マクロン元大臣は前述の“フロランジュ法”を巡って攻防戦をした政府側の中心人物で、彼が大統領になれば、再度、ルノー・日産の経営に関与しようとする可能性がある。

これはトランプ米国大統領の政策と似ており、フランス国内の雇用を守るべく、ルノーがフランス国外に工場を移転することを阻止し、日産ブランド車をルノーの工場で生産させるなどしてルノーの工場稼働率を上げ、より雇用を創出するという政策である。

一方のルペン党首も、France 1st政策を取り、英国同様、EUからの脱退を主張する。日産は英国がEUから脱退することで、英国内のサンダーランド工場における今後の生産維持につき、英国政府からの手厚い保証を求めたとされる。仮にフランスもEUから脱退すると、今度はルノーの生産が打撃を受けかねない。

また、ルノーは東欧諸国に拠点を持つが、フランスがEUから脱退することで、部品調達が難しくなり為替変動リスクも出現する。日産にしろルノーにしろ、EUから脱退した英国とフランスが欧州における主力工場であり、高関税の影響や部品調達が困難さを考えると、工場の運営事態に大きな悪影響が出かねない。

また一方で、財政赤字を改善させるため、フランス政府によるルノー株売却という全く違うシナリオも描くことができる。この放出株を日産が購入し、現在の不平等条約と言われるルノーと日産の間の出資比率や議決権の状況を、大きく変更するオプションも残る。

いずれにせよ、ゴーン会長のルノーでの任期である2018年までには、より具体的な結果が見えてくるものと思われる。

その1の続き。全2回)

*文中表©遠藤功治


この記事を書いた人
遠藤功治株式会社SBI証券  投資調査部 専任部長兼シニアリサーチフェロー

1984年に野村證券入社、以来、SGウォーバーグ、リーマンブラザーズ、シュローダー、クレディスイスと、欧米系の外資系投資銀行にて活躍、証券アナリスト歴は通算32年に上る。うち、約27年間が、自動車・自動車部品業界、3年間が電機・電子部品業界の業界・企業分析に携わる。 その間、日経アナリストランキングやInstitutional Investors ランキングでは、常に上位に位置2000年日経アナリストランキング自動車部門第1位)。その豊富な業界知識と語学力を生かし、金融業界のみならず、テレビや新聞・雑誌を中心に、数々のマスコミ・報道番組にも登場、主に自動車業界の現状分析につき、解説を披露している。また、“トップアナリストの業界分析”(日本経済新聞社、共著)など、出版本も多数。日系の主要な自動車会社・部品会社に招かれてのセミナーや勉強会等、講義の機会も多数に上る。最近では、日本経団連や外国特派員協会での講演(東京他)、国連・ILOでの講演(ジュネーブ)や、ダボス夏季会議での基調講演などがあり、海外の自動車・自動車部品メーカー、また、大学・研究機関・国連関係の知己も多い。2016年7月より、株式会社SBI証券に移籍、引き続き自動車・自動車部品関係を担当すると供に、新素材、自動運転(ADAS)、人口知能(AI)、ロボット分野のリサーチにも注力している。

東京出身、58歳

遠藤功治

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