今スポーツ市場では何が起きているのか 観戦市場8,743億円に見る「深化と二極化」
執筆:松永裕司(Forbes Official Columnist)
【本稿のポイント】
・スポーツ関心層は63.7%と昨年に続いて減少したが、スタジアム観戦市場は前年比13.9%増の8,743億円に拡大した。
・観戦者数は微増にとどまり、市場の伸びは観戦者1人あたりの年間支出(57,397円)の増加によるもので、飲食費は15.7%増、グッズ費は21.9%増と伸びた。
・スポーツ関連メディア市場は3,192億円と過去最高を更新し、うちインターネット有料配信が1,154億円を占めて2020年の369億円から約3倍になった。
スポーツ関心層が減少する一方で、スタジアム観戦市場は前年比13.9%増の8,743億円に拡大した。三菱UFJリサーチ&コンサルティングとマクロミルの「2026年スポーツマーケティング基礎調査」(速報版)の数字から、観戦市場の「深化」、配信の台頭、ファンの関心が国際舞台へ移る動きを、Forbes Official Columnistの松永裕司氏が読み解く。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングとマクロミルが7日、「2026年スポーツマーケティング基礎調査」(速報版)を公表した。2004年から続く23回目の調査で、15〜69歳の2,000人が対象。ここに一見、矛盾する数字を見ることができる。スポーツ関心層の減少が見られる一方で、スタジアム観戦市場は前年比13.9%増の8,743億円に拡大。この市場の実態を、数字を紐解くことで、少し精査してみよう。
この速報版によると「することも見ることも好き」「することが好き」「見ることが好き」を合わせたスポーツ関心層は63.7%、昨年に続いて減少。「見ることが好き」(「することも見ることも好き」を含む)は52.1%と約2ポイント下がり、「することも見ることも関心はない」は36.3%と、2024年の32.2%から4ポイント強増加した。
それでも観戦市場が前年比13.9%増と伸びたのは、観戦者数が増えたからではない。過去1年に競技場で観戦した人は20.0%と、0.4ポイントの微増にとどまる。伸びたのは観戦者1人あたりの年間支出(57,397円、前年比13.9%増)で、1回あたりの支出も13,106円(前年比8.7%増)に増えた。
さらに内訳に注目したい。チケット代は4,322円(2.2%増)とほぼ横ばいだが、飲食費は2,876円(15.7%増)、グッズ費は1,566円(21.9%増)と大きく伸びた。観戦者は試合そのものだけでなく、現地で過ごす体験により多く投じているとわかる。無関心層が広がる一方で、通うファンは頻度も単価も上げた。ここには運営側によるスタジアム・グルメなどの体験向上や、グッズの希少性など企業努力も窺えるものの、市場の成長はファンの「深化」によって支えられている図式が見える。
◆「する」から「見る」へシフトか…
ただし、スポーツ参加市場全体(1兆6,999億円)は前年比0.9%減で、ほぼ横ばいだ。観戦が膨らむ陰で、用品購入市場は21.3%減の2,841億円、施設利用・会費市場は7.6%減の5,415億円へと縮小した。スポーツ市場全体を俯瞰すると、観戦の伸びを「する」ための支出の減少が打ち消した形だ。
もっとも、スポーツを「する」人が減ったわけではない。何らかのスポーツを行っている人は41.1%と、2.4ポイント上昇。行っているスポーツではウォーキング(17.6%)に続き、「トレーニング・エクササイズ・ピラティス」が7.5%で2位に入った。今後やりたいスポーツでも10.6%と、4.4ポイント伸びている。ただし今年は種別名を「体操・トレーニング・エアロビクス」から変更しており、単純比較には注意が要る。
◆配信が押し上げるメディア市場のランドスケープ
注目したいのはスポーツ関連メディア市場だ。市場規模は3,192億円と過去最高を更新した。
うちインターネット有料配信が1,154億円(36.2%)を占め、2020年の369億円から6年で約3倍の成長。利用率は10.7%(1.0ポイント増)で、有料放送サービスの利用率は7.4%(1.0ポイント減)に低下(ただし有料放送の市場規模は919億円で、2020年の852億円から縮小してはいない)。米市場で顕著だったケーブル離れと、いわゆるOTT(動画配信サービス)の台頭という潮流と同様の動きが、利用率の面では日本市場でも表れ始めている。
配信で普段よく視聴するスポーツは、プロ野球が58.7%で最多。メジャーリーグ35.7%、Jリーグ28.2%、海外サッカー・国際試合27.7%と続く。プロ野球、Jリーグと国内人気2大スポーツに加え、日本選手が多く活躍するMLBも、配信利用者の視聴対象として上位に入った。
利用していないが今後使いたいという層も、配信で5.0%、放送で4.8%おり、潜在的な需要は、いまなお残る。今年3月の野球の国際大会ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では、国内の配信権がNetflixに独占され、地上波中継はなかった。スポーツの放映権争いはさらに激化している。スポーツ庁と総務省の検討会(5月に初会合)では、国民が無料で視聴できる機会を確保するユニバーサル・アクセス権なども議論されているが、世界の市場原理に抗うことは困難だろう。放映権が世界的競争下にある点を理解した上で、日本のリニア(地上波)テレビのCM料金も見直しが必要な時代となっている。つまりOTTやストリーミング放送の出現は、ライブで視聴しなければならないスポーツ・コンテンツにとって世界的には追い風となっており、広告代理店にスポーツ中継の鍵を握られている日本のテレビ局は、権利獲得の苦境に立たされており、この構造的な問題の是正に迫られている。
◆ファンの重心は国際舞台で活躍する選手へ
ファン人口の推計では、サッカー日本代表が2,000万人(9.8%増)に回復、メジャーリーグは1,201万人(11.8%増)と増加傾向が続く。対照的に、国内のプロ野球は2,061万人で7.1%減、Jリーグは814万人で9.6%減だった。
好きなスポーツ選手は、大谷翔平が9年連続の1位だが、支持率は2024年の29.2%から22.8%へ下がった。2位は山本由伸、3位は三笘薫、4位は石川祐希、5位はダルビッシュ有で、上位5人はすべて海外で活躍する選手である。
サッカー日本代表ファンの推計が2,000万人である点からも、スポーツ市場におけるナショナリズムの求心力は強い。海外の第一線で活躍する選手がファンから熱い支持を集めるのは必然であり、メディアもその潮流を追従している。プロ野球においては、2022年に三冠王を達成した東京ヤクルトスワローズの村上宗隆が今季ホワイトソックスへ移籍したのに続き、今季同じ三冠を達成した阪神の佐藤輝明も、球団が10月19日にポスティングでのメジャー移籍を容認したと発表した。国際舞台へのシフトをいかに内需につなげるかは、今後の日本スポーツ市場において大きな課題だ。
最も好きなスポーツは野球(19.9%)が23年連続で1位、2位はサッカー(10.0%)だった。注目は3位のバレーボールで、6.4%と1.3ポイント上昇し、よく観戦するスポーツでも13.6%と伸びた。相撲も6.3%で、よく観戦するスポーツの5位に入っている。競技ごとの浮沈はあっても、「見る」楽しみの中心には依然として野球がある。
◆日本のスポーツビジネスの潮流は…
こうしたデータを紐解くだけで、日本スポーツビジネスの今後の課題は、その輪郭がはっきりと見えてくる。
第一に、スポーツ関心層の減少に、どう歯止めをかけるか。スポーツが日常に溶け込んだ生活スタイルをどう設計するかという課題には、各事業者の取り組みが不可欠だろう。人口減少が喫緊の課題となる中、待ったなしである。その回答のひとつとなりうるのは「1人あたりの体験価値」を伸ばす策。飲食やグッズなど現地消費が伸びる以上、会場での過ごし方の設計が収益を左右する。
第二に、「する」市場の縮小は需要の消滅を意味しない。用品や施設は縮んだが、トレーニングや個別レッスンのように、成果や指導を求める領域には伸びしろがある。ここでも日常生活との地続きな設計を求められそうだ。
第三に、ファンの接点は放送から配信へ、国内から海外へと広がっている。国内のリーグや球団は、配信を通じて海外の強力なコンテンツと比較される前提で、魅力を設計する必要があろう。そうでなければ、日本スポーツ産業の国内空洞化時代がやって来る可能性は否定できない。
簡易的なリポートではあるものの、スポーツビジネスに少しでも関わる者は、こうしたデータに必ず目を通しておくべきだろう。こうしたデータの読み取りを軽視し、感覚で進もうとする傾向が強い点は、日本のスポーツビジネスにおける弱点と言えるだろう。
【よくある質問(FAQ)】
Q1:「OTT」とはどのようなサービスですか?
A:インターネット回線を通じて動画などを配信するサービスの総称です。
Q2:「ユニバーサル・アクセス権」とはどのような考え方ですか?
A:国民的関心の高いスポーツ行事を、有料サービスに加入しなくても無料放送などで視聴できる機会を確保するという考え方・制度です。
Q3:「ポスティング」とはどのような制度ですか?
A:日本のプロ野球選手が、所属球団の容認のもとでメジャーリーグ球団との契約交渉を行えるようにする移籍制度です。
Q4:「リニア(地上波)テレビ」とはどのようなものですか?
A:放送時刻に合わせて番組を視聴する従来型のテレビ放送のことです。
(本稿のポイント、リード、FAQの文責:Japan In-depth編集部)
トップ写真:ヴィッセル神戸 vs 鹿島アントラーズ ― 第99回天皇杯 決勝
出典:Photo by Gettyimages
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この記事を書いた人
松永裕司Forbes Official Columnist
NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 「あらたにす」担当/東京マラソン事務局初代広報ディレクター/「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Directorなどを歴任。
出版社、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験から幅広いソリューションに精通。1990年代をニューヨークで、2000年代初頭までアトランタで過ごし帰国。

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