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IT/メディア  投稿日:2026/11/2

ニールセンリポートが紐解くAI活用率98%の先にある問い 「速さ」より「精度」が求められるマーケター


執筆:松永裕司(Forbes Official Columnist) 

 

■ 本稿のポイント

  • 2026年の調査でマーケターのAI活用率は98%以上に達し、議論は「活用の是非」から「アウトプットへの信頼性と精度」へと変化。
  • 消費者のAI利用拡大によりAEO/GEOの重要性が増す一方、AI回答の誤りや新チャネルのROI測定困難が課題に。
  • 誰もがAIを使い迅速な意思決定を行える現代において、今後の勝敗を分けるのは出力結果の検証力と測定の「精度」。

 

AI活用率が98%に達した現代のマーケティング業界において、焦点は「速さ」から「精度」と「信頼性」の確保へとシフトしている。AI生成情報の誤りや新チャネルのROI測定問題が浮上する中、データ検証と成果測定の重要性について、最新の調査結果をForbes Official Columnistの松永裕司氏が読み解く。 

 

「AIを活用しているか否か」を問う意味は、もはや陳腐だろう。

ニールセンが2026年に6カ国のマーケター1,200人を対象に行った調査では、業務にAIをまったく活用していないと回答した人は1.6%。むしろ、まだ1.6%も存在するほうが、私には驚きだ。98%以上とほぼ全員がAIを活用する世界で問われるのは「活用か否か」ではなく「どこまで信頼を置くか」だろう。

■広告業界でも「主役」となったAI

ニールセンのAd Intelによると、米国では1カ月間に約1万8,000本の広告クリエイティブがAIに言及、あるいはAIを前面に出していた。AI大手6社の2026年上半期の米国での広告出稿額は5億ドルに迫り、前年同期の2.6倍となった。フランス、ドイツ、イタリア、英国の4カ国でも、AI関連企業の広告費は2026年上半期だけで2025年通期の2倍に膨らんだ。AIはもはや単なる道具にとどまらず、広告主として、また広告の題材としても市場で存在感を高めている。

興味深いのは、活用の事実と信頼度は別問題だという点。AI生成の提案を全面的に信頼し、実行するマーケターは全体の33%。最も多いのは「信頼するが人間のレビューは必須」という55%だ。

国別に見ると、差は大きい。全面信頼の比率はインドの47%に対し、イタリアは25%、フランスは21%にすぎない。フランスでは6割超が、AIの出力には必ず人の目を通すと答えた。ただし、国別の回答者は1カ国あたり200人程度で、誤差が含まれる可能性はある。私のインド人同僚は、一緒にテレカンしながら書き上げたメールをAIに校閲させ、修正された文面を即送信。これには少し驚かされた。

この使い方は、調査が尋ねた「メディアプランニング、測定、クリエイティブの意思決定におけるAIの提案」とは用途が異なり、調査の数字と同列には比べられない。それでも、「速さ」が慎重さを押し切る場面はあるだろう。一方、調査では過半数のマーケターが人間の確認を手放していない。

AIを活用している領域は、測定・分析が68%、クリエイティブ制作が64%、メディアプランニングと最適化が62%、予測が57%と、いずれも過半数だ。業務にAIが活用されているからこそ「そのアウトプットは信頼できるのか」は経営課題になりうる。ただ、確認する側が出力の根拠を検証できなければ「人間が確認する」運用も承認の儀式にすぎない。

測定ツールに求める優先事項で「精度」を挙げた人は、2025年の21%から2026年には47%へと倍増し、首位に。コスト効率(22%→33%)や透明性(21%→31%)も上昇したが、速さ(23%)は4位で、精度の伸びは突出している。米国では56%と最も高い。米国の広告費全体も、2026年上半期は前年同期を16%上回った。AI大手6社の出稿額とは別の、市場全体の数字だ。支出が膨らむほど、誤った数字に基づく判断のコストも大きくなる。

精度は、競争情報の現場でも問われている。ニールセンが紹介する事例では、あるクライアントブランドが、仏独伊英4カ国の6つの媒体にまたがる5,000万ドル規模のカテゴリー広告費を精査した。対象は、銀行など競合各社の2,000超のクリエイティブである。AIでメッセージのテーマを分類し、出稿額と掛け合わせたところ、同ブランドが競う主要なテーマへの広告費が、2025年1〜7月に2024年の同期間から12%増えていた。出稿量だけでなく「何を言っているか」まで数値化できる点が、この種のツールの価値だ。競合の動きを正確に読めるかどうかは、まさに精度の問題でもある。

■消費者はすでにAIを信頼していない

もうひとつの構造変化が、消費者側のAI活用である。ニールセンのMedia Impactによれば、一部の主要な消費者向けAIモデルの活用時間は、2026年上半期に47%増えた。米国の消費者の50%が、ブランドや商品のおすすめをAIに月1回以上尋ねている。コンテンツ探しにAIを使う人は52%で、ブランド探索を上回る。

何が推薦され、その回答がどんな情報に左右されるのか。AIは、ブランドと購買意図の「ゲートキーパー」になりつつある。そのためAEO(回答エンジン最適化)やGEO(生成エンジン最適化)といった領域の専門知識が、マーケターに欠かせなくなった。GEOを有効なマーケティング手法と見るマーケターは全体で50%、米国では53%で、国別ではインド61%、英国55%に対し、イタリア42%、フランス39%と温度差がある。

ただ、ここには落とし穴がある。広告やマーケティングの手段が増え、AIチャットボット経由の発見、AIエージェント経由の購買、クリエイターやストリーミングなどの新しい接点が出てきた。従来の測定の仕組みがそれらに追いついておらず、「その施策でいくら売れたのか」「費用に見合ったのか」が分からない。こうして、新しいチャンネルの効果を測れない事実を、デジタル広告のROI測定の主な課題に挙げた人は28%に上った。

さらに、別の業界調査(eMarketerとPartnerize)によれば、AI経由の発見に結びつく収益を信頼できる方法で測れるマーケターは、わずか15%。期待を寄せて投資しながら、成果を測る物差しは整っていない。これが現在地だ。AIが推薦する側に回る以上、枠を買えば露出が約束されるという従来の発想は通用しにくい。何を根拠に選ばれるのかが見えないまま予算を積むことへの不安が、精度重視へのシフトを後押ししている面もあろう。

AIの信頼性にも課題がある。ニールセン傘下のGracenoteが2026年初めに米国のAIチャットボット利用者4,003人に行った調査では、75%がAIの回答を確認していた。同社の別の分析では、ある大手LLMに映画・TV作品2,600タイトルの情報を尋ねたところ、約2割にあたる506タイトルで、検証対象とした情報がすべて誤っていた。いずれも自社部門の調査で、割り引いて読む必要はある。

■精度・確度がマーケターにとっての試練

本リポートが示す提言は次の通りだ。

第一に、自社ブランドのAI上の「見え方」を点検すること。生成AIや買い物エージェントが自社の商品を認識し、推薦し、購入まで導けるかを確認。広告費を積む前に、まず「見つけてもらえる状態」かどうかを知る点が先だ。公式サイトの情報、商品データ、第三者による評価といった足元の資産の見直しは、GEOに予算を振り向ける前にできる有効な一手になりうる。第二に、AIの提案に「根拠を示させる」こと。AI生成のプランにはデータの出典を明記させる。

これに加え、私は第三の点を挙げたい。測定への投資をAI投資と同時に行うことだ。成果を測れない施策は、次年度の予算会議で真っ先に削られかねない。

本リポートはニールセン自体が発行しており「精度と検証済みデータが重要」という結論は、同社の製品群と重なる。検証済みデータと測定が、同社の事業の柱だからだ。残念ながら、調査対象はインドや欧州主要国、米国。今回、日本は含まれていない。日本のマーケターが自社の状況に当てはめる際は、鵜呑みにせず、自社のデータで精度を検証することが重要である。

それでも、核心のメッセージは揺るがない。

AIはあらゆる意思決定を速くするが、速さだけでは差別化にならない。誰もが同じ速度で走り出した今、勝敗を分けるのは、その出力をどこまで検証でき、成果をどこまで測定し、精度を高められるかだ。

今後、どれほど確度・精度を高められるかが、マーケターにとっての試練とさえ呼べそうだ。

【よくある質問(FAQ)】

Q1. AEO(回答エンジン最適化)とは何ですか? A1. AEO(Answer Engine Optimization)とは、検索エンジンやAIがユーザーの質問に対して直接提示する「回答」の中に、自社の情報やデータが引用・選出されるよう最適化するマーケティング手法のことです。

Q2. GEO(生成エンジン最適化)とは何ですか? A2. GEO(Generative Engine Optimization)とは、ChatGPTなどの生成AIモデルがユーザーとの対話の中で、特定のブランドや商品を自然に参照・推薦するように情報構造を整える取り組みを指します。

Q3. LLM(大規模言語モデル)とは何ですか? A4. LLM(Large Language Model)とは、大量のテキストデータを学習し、人間のように自然な文章の生成や質問への回答、文章の要約などを行う人工知能(AI)の基盤技術です。

Q4. ハルシネーションとは何ですか? A5. AIが事実とは異なる情報や、根拠のない嘘の回答をあたかも正しい情報のように生成してしまう現象のことです。

(本稿のポイント、リード、FAQの文責:Japan In-depth編集部)

 

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出典:Photo by Gettyimages 

 




この記事を書いた人
松永裕司Forbes Official Columnist

NTTドコモ ビジネス戦略担当部長/ 電通スポーツ 企画開発部長/ 「あらたにす」担当/東京マラソン事務局初代広報ディレクター/「MSN毎日インタラクティブ」プロデューサー/ CNN Chief Directorなどを歴任。


出版社、テレビ、新聞、デジタルメディア、広告代理店、通信会社での勤務経験から幅広いソリューションに精通。1990年代をニューヨークで、2000年代初頭までアトランタで過ごし帰国。

松永裕司

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