中国に秘密に雇われたアメリカ学者はノーベル平和賞にも関与した
執筆:古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
【本稿のポイント】
・オハイオ州立大学は2026年8月31日、元教授らの中国側機関との関係を連邦機関に開示しなかった疑いで、司法省と210万ドルの和解に合意した。
・同大学は2019年に研究者の「千人計画」参加を把握しながら、NASAとNSFへの通知は2023年だった。
・千人計画をめぐっては、ハーバード大学のチャールズ・リーバー教授が2021年12月に虚偽陳述などで有罪評決を受けた例もある。
アメリカ国内での中国側スパイの活動が摘発されているが、なかでも注視されたのはオハイオ州立大学の著名教授が中国政府の海外人材獲得の秘密徴募組織「千人計画」に長年、加わりながらその事実を隠して、アメリカ連邦政府機関の研究資金を受け取っていたという事例だった。
オハイオ州立大学は連邦捜査局(FBI)などの摘発を受けて、その過去の不正を認める形で連邦政府に210万ドル(約3億3千万円)という巨額の賠償金を支払った。この事件は今年8月末に公表されたが、なおその後、FBI長官が議会で中国のスパイ活動の危険を強調した。そのうえにこの中国の秘密計画に参加していた学者が2007年のノーベル平和賞にも寄与したとされていた事実が明らかとなり、なお話題の輪を広げることとなった。
アメリカ連邦政府の司法省がオハイオ州立大学との間で8月31日に交わした問題の「解決合意文書」は以下の骨子を事実として記していた。
▽同大学教授の衛星測地学や海面地球力学の専門の℃.K.シュムは2014年ごろから中国政府の対外人材徴募組織の「千人計画」に加わり、中国政府から高額の資金を得て、中国側の大学や研究機関に協力していたが、その事実を秘密にしていた。
▽シュムは同大学の研究活動としてアメリカ連邦政府の航空宇宙局(NASA)や全米科学財団(NSF)からの高額の研究助成金を得ていた。アメリカ政府の公的資金を得る研究者は他の国家機関の資金を得ることは禁止されている。
▽シュムは「千人計画」への関与を2019年にはオハイオ州立大学当局に簡単に報告したが、同大学はアメリカ政府へのその実態の報告という法的義務を2023年まで怠っていた。同大学は同年にはシュムを教授職から解任し、シュムの下にいた研究員ユー・ザンをも解雇した。
▽オハイオ州立大学はこの違法行動を認める形で連邦政府に210万ドルの「和解金」という名称の事実上の賠償金を支払い、その事実を自主的に公表した。
中国の「千人計画」は共産党政権が自国の軍事にもからむ高度技術を他の諸国から取得するために、各国の優秀な学者や技術者を巨額の報酬を出して、秘密裡に雇う野心的なプログラムとして
知られている。アメリカではハーバード大学の化学生物学部長だったチャールズ・リーバー教授が「千人計画」にひそかに加わり、同大学やアメリカ連邦政府機関からの給料と研究資金を得ながら中国側からも毎月5万ドルの給料と年間150万ドルの研究助成金を受け取っていたことを2021年に暴かれ、逮捕されて有罪となった。
しかし今回のシュム元教授についてはアメリカ側の各メディアなどの調査により、同元教授が2007年のアル・ゴア元副大統領の気候変動防止への貢献という名目でのノーベル平和賞受賞に協力していたことが広範に報道された。シュム教授はゴア氏の努力に寄与したとされ、正式の受賞者とはならなかったが、「協力者」として公式の場でも紹介されていた。
なおシュム元教授は中国系のアメリカ人学者としてオハイオ州立大学に長年、勤務してきた。
【よくある質問(FAQ)】
Q1:「千人計画」とは何ですか?
A:中国の共産党政権が、自国の軍事にもかかわる高度な技術を他国から取得するため、各国の優秀な学者や技術者を巨額の報酬で秘密裏に雇う計画として知られています。
Q2:オハイオ州立大学は、なぜ210万ドルを支払ったのですか?
A:同大学の教授が千人計画への関与を隠したまま、米連邦政府機関の研究助成金を受け取っていた問題で、司法省との間で2026年8月31日に交わした「解決合意文書」に基づき、和解金を支払いました。大学は2019年に教授から簡単な報告を受けながら、連邦政府への報告を2023年まで怠っていたとされます。
Q3:C.K.シュム元教授とは、どのような人物ですか?
A:衛星測地学や海面地球力学を専門とする中国系アメリカ人の学者で、オハイオ州立大学に長年勤務していました。2007年のノーベル平和賞の受賞に協力した「協力者」として、公式の場でも紹介されていたと報じられています。
写真)ワシントンD.C.にて、習近平国家主席の訪米に抗議する人々
(この記事は日本戦略フォーラム 2026年10月28日掲載の記事の転載です)
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

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