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.経済,ビジネス  投稿日:2015/6/29

[遠藤功治]【“ルノーの財布”であり続けるのか?】~大手自動車会社の決算と今後の課題 日産自動車 2~


遠藤功治(アドバンストリサーチジャパン マネージングディレクター)

「遠藤功治のオートモーティブ・フォーカス」

執筆記事プロフィール

最近日産がらみの話題が少なく寂しい思いをしている方は多いかもしれません。まあどこかの大手メーカーのように、役員が麻薬疑惑で逮捕される、そんな話題が出るよりはましでしょうが、そうは言っても日産の名前を日本メディアの記事から最近見たことと言えば、ゴーン社長の10億円超の年収と、ルノーに対するフランス政府の議決権引き上げによる影響、この2点ぐらいでしょうか。

その後者の件、所謂“フロランジュ法”を巡る話題です。ルノーの筆頭株主はフランス政府、それがルノーの議決権を引き上げようとした訳です。去る4月30日、ルノーの株主総会にて採択されたのがこのフロランジュ法。これは2年以上株式を保有する投資家の議決権を2倍に引き上げる、というものです。これに対して、ルノー経営陣は反対を表明、株主総会には現行制度存続を求める議案を提出、どこかのProxy fight(委任状争奪戦)にも似て、結果に大きな注目が集まりました。

結局、フランス政府はルノー株を一時的に買い増して、ルノー経営陣の案を否決に持ち込みました。これでフランス政府のルノーへの議決権は、従来の15%から28%に上昇することとなりました。日産もルノーに対して15%を保有する大株主ですが、議決権は一切ありません。結果、筆頭株主であるフランス政府の力が益々強まり、間接的に日産の経営に対する影響力も強まるのではないか、という懸念の声が上がった訳です。ちなみにルノーは日産の43.3%を保有、日産はルノーの連結子会社です。

ご存知の通り、1999年、倒産寸前であった日産はルノーと提携、その際、ルノーから約8,000億円の資金を得て大リストラを敢行、ルノーから送られたゴーン社長のもと、日産リバイバルプランを通して再生を果たしました。この8,000億円という資金はどこから来たのか、大半はフランス政府、元はと言えばフランス人の税金です。よって、まずこの8,000億円を完済することが求められます。原則は配当金による返済となります。現在まで日産は、ルノーに対して、累計で約6,800億円の配当金を支払ったと試算されます。つまりあと1,000億円強で完済する訳です。前述の通り日産の今期の配当予想は一株当たり42円。ルノーに対する今期の配当総額は約700億円ほど、故に、来期2017年3月期には、8,000億円に対する返済という意味では、完済する訳です。

筆者が決算指標の他社比較で、配当金を大きく取り上げたのはこの為です。まだまだ業績的には不満の残る水準で、他社と比べても殆どの指標で劣っている日産ですが、こと配当金に関しては断トツにトップであると。これはルノー、しいてはフランス政府に対する返済が、経営の優先順位トップであることを示します。

仮に返済が終了したとして、次に来るのは、資本関係の変更かもしれません。利益水準や資本の厚さ、技術的水準など、経営指標を比較した場合、殆どの分野で日産はルノーに勝っています。しかし、提携以来、その資本比率や議決権の無さなど、日産にとっては不利な形が続いています。お互いがイコールパートナーであれば、相互の出資・議決権の水準は同じになるべきでしょうが、当然、日産がルノーに救済された連結子会社であり、借金がまだ残っているのは事実、まだイコールパートナーでは無い訳です。

それを全て完済するのが目先あと少し、この際、出資比率をイコールにするか、ルノーが持ち株会社を作り、その下に日産とルノーを並行に並べるか、様々なオプションがありますが、何らかの変更が必要かと思うのは筆者だけでしょうか。ただ一方で、フランス政府がどのような姿勢なのか。フランス政府が引き続き厳然たる影響力をルノーに持ち続けておきたい、そのためには、出資比率の大きな変更は認めないし、ルノーの筆頭株主としての地位を手放すことはしない。日産に議決権は与えない、云わばルノーにとっての財布としての立ち位置を引き続き求める、ということになるのかもしれません。日産における今後の注目点その1です。

(この記事は、

【配当性向はダントツでも利益は低水準】~大手自動車会社の決算と今後の課題 日産自動車 1~

の続きです。

【国内市場は二の次、米中市場最優先のわけ】~大手自動車会社の決算と今後の課題 日産自動車 3~

に続きます。本シリーズ全3回)

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