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.経済  投稿日:2015/7/7

[高田英樹] 【真価問われる「経済・財政再生計画」】~社会保障費の増加を抑え込めるか~


 

高田英樹(財務省)

執筆記事プロフィール

※本稿は個人としての見解であり、筆者の所属する組織の見解を代表するものではありません。

6月30日、いわゆる「骨太の方針」が閣議決定された。今回の「骨太」の大きな特徴は、新たな財政健全化計画を盛り込んだことだ。政府は現在、2020年度までに基礎的財政収支(プライマリー・バランス:PB)を黒字化するとの財政健全化目標を掲げており、それを達成する具体的な道筋を示す計画を今夏に策定するとしていた。それが、この「骨太」に盛り込まれた、「経済・財政再生計画」である。

計画は、①デフレ脱却・経済再生、②歳出改革、③歳入改革の3つの柱から成る。このうち最も重要とされているのが、第一の柱である経済再生だが、これについてはすでに、成長戦略等が進められている。今回、最大の焦点になったのは、歳出改革についてどのぐらい踏み込んだ内容が定められるかにあった。

歳出改革の中核を成すのは、社会保障改革である。近年の財政悪化の最大の要因は、財源が十分に確保されないまま、高齢化の進行等により社会保障費が伸び続けてきたことにある。しかも今後、高齢化はさらに進む。現在、日本の人口の中で一番大きな塊である団塊の世代が、ほぼ全員65歳を超え、年金受給年齢に入ってきている。団塊の世代は、2020年には70歳、2025年には75歳を超える。そうした時期が来るまでに、社会保障制度をより効率的で持続性の高いものにしておかなければ、制度が維持不能となるおそれがある。

計画には、社会保障改革についてかなり広汎なメニューが書き込まれている。例えば、後発医薬品の数量シェア目標が強化され、2018年度から2020年度末までのなるべく早い時期に80%以上とすることとされた。また、医療・介護提供体制の改革や、負担・給付の適正化等についても、昨今議論されている項目のほとんどが盛り込まれたといってよいだろう。しかし、大半の項目については、「検討する」という書き方となっており、今後、これらをどのように実行していくかが重要だ。

そして、社会保障関係費の実質的な増加を、2018年度までの3年間で合計1.5兆円程度に抑える旨の「目安」が明記された。これは、従来、毎年1兆円規模と言われていた社会保障費の「自然増」を、毎年平均0.5兆円程度に圧縮することを意味する。また、社会保障関係費を含む国の政策的経費(一般歳出)全体の「目安」については、3年間の実質的な増加を1.6兆円程度とすることとされた。このうち1.5兆円は社会保障関係費であるから、それ以外の経費はほとんど伸ばさないことを意味する。

こうした数値的な基準を設けることについては、政府部内でも異論があったようだ。しかし、何ら数値的な基準がなければ、財政健全化の「具体的な道筋」を示す計画とはなかなか評価されにくいだろう。これらの数値は、厳格な「枠」ではなく、あくまで「目安」との位置付けであるが、それでも、こうした手がかりがないと、毎年の予算編成で厳しく歳出を抑え込んでいくことは難しい。

また、歳出に縛りをかけすぎると、経済成長の妨げになるとの議論もあるが、今回の「目安」は、良くも悪くも、そこまで財政緊縮的なものとはいえないだろう。社会保障関係費も、マイナスにするわけではなく、高齢化による伸びに対応する分については、増加を認めているし、消費税率の引上げに伴う社会保障の充実分も、別途認められる。何より、現在、歳入の4割を借金に頼り、本来あるべき水準よりもはるかに大きな歳出を続けている日本の財政運営全体が、十分に「拡張的」であるといわざるをえないのではないか。

ともかく、計画という道筋は引かれた。しかし、より重要なのは、これから5年間で、それをしっかりと実現していけるかどうかだ。それにより、日本の真価が問われることになる。

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