[古森義久]【南シナ海、中国の軍事的影響圏に覆われる】~海自制服組トップ、アメリカで懸念表明~
古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)
「古森義久の内外透視」
日米同盟も制服同士の第一線ではずいぶんと強固になったものである。アメリカ側の首都ワシントンで改めて実感させられた。日本側で平和安保法制審議をめぐり、自衛隊が米軍との協力を強めてはならない、というような野党側の主張がなお繰り返される状況とはコントラストを描く現実のようなのだ。
この実感の契機は7月29日、海上自衛隊の武居智久海上幕僚長によるワシントンの有力研究機関「カーネギー国際平和財団」での講演だった。海上幕僚長といえば、いうまでもなく海上自衛隊の制服組のトップである。
その武居氏がアメリカ海軍のジョナサン・グリナート作戦部長の招待で訪米し、同部長らとの会談の後、一般向けに講演をしたのだ。自衛隊制服組、つまり他の一般諸国でいえば軍人のアメリカ訪問や米側一般向けの講演については当コラムでも7月19日に【統合幕僚長、中国人記者の挑発を一蹴】〜安保法制の目的は「日米同盟の強化」~という報告で伝えたばかりだった。
[古森義久]【統合幕僚長、中国人記者の挑発を一蹴】〜安保法制の目的は「日米同盟の強化」〜
今回の武居氏は統合幕僚長よりはもちろん下の立場とはいえ、海の部隊の最高司令官なのだ。
ワシントンではそもそも自衛隊幹部が一般向けに講演をすること自体が長年、皆無だった。海上幕僚長の講演というのはおそらく武居氏が初めてだろう。私もワシントンでは長年、日米の交流を観察してきたが、日本の自衛隊の人たちが制服で一般の会合などに出てくること自体がまずなかった。この点では日本国内の状況と同じだった。
だが近年はアメリカ側でも自衛隊の認知が広がり、自衛官たちが民間のセミナーとかパーティーとかにユニフォーム姿で出てくることが増えてきた。だが今回の武居海幕長の講演ではワシントンでは見たこともないほど多数の制服の日本人自衛官たちが登場した。もちろん米海軍の士官たちも同様の制服姿で肩を並べる。日本の自衛隊も日米関係の舞台での立ち位置がずいぶんと変わったものだと痛感させられる光景だった。
この講演の会場も日米双方の関係者ら140人ほどが列席し、満員の状態となった。その背景にあるのは自衛隊への米側を含めての一般の認知の広がり、そして日米同盟の下での部隊同士の協力態勢の強化だといえる。
武居氏は「戦いの海から繁栄の海へ」と題するこの講演で日米同盟の重要性や制服同士の連携の強化の意義を流暢な英語で語った。だが真の主題は中国の南シナ海などでの国際規範破りの膨張的な活動への警告のようだった。中国という国名をはっきりあげて、その南シナ海での埋め立て作戦に対しその結果の人工島が「もし軍事的に使用された場合、南シナ海全域は中国の軍事的な影響圏に覆われることになる」と述べ、強い懸念を表明したのだった。この点では日本の国会などでの与党側指導者たちへの中国への言及のためらいとは対照的に明確な中国批判だった。