[岩田太郎]【寝屋川市中1殺人事件:居場所ない子を輪番制で泊める体制を】~困窮世帯には経済的支援の検討も~
岩田太郎(在米ジャーナリスト)
「岩田太郎のアメリカどんつき通信」
大阪府寝屋川市の中学1年生、平田奈津美さん(享年13)と同級生の星野凌斗君(享年12)が無残な姿で発見され、家出状態だった2人を放置して結果的に犯罪に巻き込まれることを許した親に非難が集まっている。今年2月に起きた川崎市中1殺害事件で上村遼太君(享年13)が犠牲になった時も、親が子をネグレクトした結果だとの声が高まったことは記憶に新しい。まず家庭環境を詳しく検証し、親と社会が何をどうすれば殺害が防げたかを広く分かち合わなければならない。同時に、どれだけ親の落ち度が明らかであっても、平田さんと星野君の親を責めたところで、2人は戻ってこない。責任を明確にした後は、彼らの残された姉妹が立派な大人に育つよう、社会が親を全力でサポートすべきだ。それが平田さんや星野君の最高の供養になる。
それにしても、上村君、平田さん、星野君、そして数えられないほどの他の子供に共通するのは、家庭が安心できる居場所ではないということだ。平田さんと星野君の場合、深夜に友人に連絡して「泊らせて」と頼み、断られても、「家の前におるで、6時に帰るから」「帰ったら怒られる」と繰り返した。涙が出る。
普通、断られれば「今晩はしゃあないから、怒られんの嫌やけど、うち戻ろか」という流れになると想像するのだが、2人はよほど自分の家が嫌だったのだろう。どちらの家にも帰らず、山田浩二容疑者(45)の餌食になった。平田さんは、事件以前から野宿を頻繁に繰り返していたと伝えられる。両親が彼女の話を傾聴してやり、気持ちを理解しようとする努力が足らなかったことがうかがえる。
この事件で思い出したのが、筆者の14歳の息子の親友で、わが家を含む6〜7軒の友人宅を順番に泊まり歩いている I 君だ。彼は、家が校区から遠いということもあるが、頻繁に友だちの家で夜を過ごす。ほとんど家に帰らない。食事もシャワーも友人宅で済ます「ジプシー少年」だ。
あまりにしょっちゅうやって来るため、ある友人のお母さんがキレて、出入り禁止にしたほどだ。だが、それでもその友人と I 君は、今でも仲良し。人徳だ。
彼は予告もなく現れるが、息子が、「お父さん、今晩I君泊めてもええか」と聞く頃には夜も遅く、よほどのことがない限りOKすることにしている。
しばらく観察するうちに気付いたのだが、息子を含むI君の友人たちは、どの家でも、そうした手法でI君を泊めてもらえるよう親に頼み込んでいる。さらに、男の子2〜3人のグループで友人宅に頻繁に輪番で宿泊して「慣れ」を作り上げることで、突然の宿泊要請への親たちの抵抗感を下げている。事実、筆者もそうしたことに備えて食料を余分にストックするようになった。食べ盛りの子が、いつ数人泊まりに来ても、対応できる体制が各家庭にできている。
つまり、友人たちは I 君の家庭事情を思いやり、一生懸命に考えて、集団で彼に安全な居場所を提供してやっているのだ。息子の姉である16歳の娘は嫌がるし、はっきり言って迷惑なことも多いが、筆者がI君の宿泊を断らないのは、そうした息子や友人の心意気と「男の友情」にほだされている面がある。
殺害された平田さんに比べると、I 君は本当に恵まれている。友人に守られているからだ。深夜に騒がしくして、筆者を含む親たちに「お前ら、静かにせえ」と怒鳴られようとも、彼は友人の親がいる安全な場所で夜が過ごせるのだ。
こうしたインフォーマルで気軽な家庭開放の「制度」が、上村君や平田さんや星野君と同じ境遇にある他の子供たちにも拡げられないだろうか。もちろん、子を放任する親が、責任や世話を、家を開放する他の親に押し付けてよいと言うのではない。また、どの家でも迷惑のタネがしょっちゅう来るのは御免だろう。
「輪番制」にすれば負担や抵抗感も減るし、子供同士の友情も深まる。家に戻りたくない・戻れない子が深夜に徘徊することを許して犯罪に巻き込まれることの防止になるし、何より、地域全体が安全になる。国や自治体が、自宅を開放する家庭に、子の大学進学時、返却不要の奨学金を支給するのも一策だろう。
放任する親の子も、わが子の大事な友。新たな上村君・平田さん・星野君を作らず、社会全体の安全につながるなら安いものだ。また、困窮する親には子への関わりを増せるよう、食事・補習・見守りを現物支給する経済的支援制度で肉体的・時間的・心理的余裕を提供し、親子関係の改善と増進を容易にすべきだ。