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.政治  投稿日:2015/8/25

[大野元裕]【セキュリティ・ジレンマに陥る危険】~米・中の軍事力バランスをよく見て議論を~


大野元裕(参議院議員)

執筆記事

現下の安全保障議論が、非常に極端なところで交わされているように見えるのは、小生だけであろうか。平和を叫んでいれば戦争には巻き込まれないという主張はナイーブで、様々な手段に自らの国益を委ねる国際社会の現実から目を背けている。その一方で、自国の置かれた安全保障環境への危機感を煽ることにより、必要限度を超えた自衛を主張する輩もまた、現実と向き合っていない。

安全のために必要な防衛力を整備する必要はある。しかし、軍事的優勢を確保することで他国に自国の意思や安全を強要しようとする国が乱立すれば、逆に深刻な結論が待っていることにならないか。過度な防衛がかえって紛争を導く、いわゆるセキュリティ・ジレンマの問題である。

ならばミサイル防衛はどうか。現下の東アジアの情勢を見れば、北朝鮮や中国の保有するミサイルは我が国に対する脅威を構成している。北朝鮮や中国が「撃つわけない」というあまりにナイーブな主張に、日本国民の命を委ねることは無責任である。このような考え方に立てば、東アジアに展開する米軍のイージス艦は、まさに弾道ミサイルに対する「盾」であり、集団的自衛権を行使してイージス艦を守るという主張には一定の根拠があるように見える。

その一方で、軍事力が相対的なものであることにも留意すべきである。前述のセキュリティ・ジレンマを避けるためには、敵対するかもしれない国々が日本の安全保障措置を過度な軍備増強と受け止めることなく、必要な防衛力整備と理解させ、緊張のエスカレーションを安易に招くべきではない。この意味で、我が国が維持してきた武力行使の三要件にある、必要最小限で他に代替選択肢がないという歯止めは、緊張を招かない先人の知恵であったと考えられる。

今回の法制においても、政府はこの要件を維持するとしている。ならば、先に述べた集団的自衛権を行使して東アジアに展開する米軍イージス艦を守るという主張は、必要最低限で他に選択肢がないケースに当たるのだろうか。

現在配備されている、あるいは来年までに横須賀に配備される予定の米軍のイージス艦艇を見てみると、表の通りとなる。この内、弾道ミサイルにもっぱら対処するイージス艦がBMD艦である。その一方で、弾道ミサイル対処能力は持たないが、巡航ミサイルや航空機攻撃に対処するのがCEC艦だと考えていただければいい。更に、弾道ミサイルと巡航ミサイル両方に対応できるのがIAMD艦である。

更に、来年にはSM-6ミサイルがCG-62、DDG-52及び65が配備されると、射程は水平線の向こうの370kmに伸び、ベースライン9(BL9)は自衛艦のコンピューター処理能力の35倍になると言われている。また、近い将来とも言われるSPY-6レーダーが装備されると、同時に追いかけることができる飛翔体の数は、200個から1200個以上になるともされている。

政府の言うとおり、新たな法制が厳格に必要最小限で代替選択肢がない場合のみ、集団的自衛権を行使することを前提としているとすれば、そもそも単独で航行することはないと総理が言っているBMD対応イージス艦を自衛隊が守る必要はない。それに加えて、イージス艦と言っても、CEC艦やIAMD艦は自らを巡航ミサイルから防衛可能である。それどころか、米側の技術の進展により、現在の自衛隊のイージス艦は、米艦の代替選択肢にならない。

政府は北朝鮮や中国のミサイル技術の進展ばかりを取り上げて危機感を煽るが、それを上回る米側の技術についても冷静に見る必要がある。中国の軍事力の伸張には懸念する点が多いことも事実ながら、双方のバランスの中で、セキュリティ・ジレンマに陥り我が国を逆に危険におとしめることがないような現実的な議論の中で、安全保障を語ることも重要ではないだろうか。


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