[古森義久]【アメリカ・対テロ戦争の成功】~テロ激減の理由とは~
古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)
「古森義久の内外透視」
イスラム過激派のテロにどう対処すべきかはいま全世界的な課題となったが、アメリカが対テロ戦争と国内治安強化により自国内のテロを大幅に減らした実績はあまり語られていない。アメリカがそれまでの歴史でも最大規模の国際テロの被害を受けたのはいうまでもなく2001年9月11日だった。ニューヨークやワシントンでの同時多発テロだった。イスラム過激派のテロ組織アルカーイダによる犯行で、少なくとも3000人の民間人が殺された。
当時のブッシュ政権は自国へのテロの切迫した危険を減らすために、まずテロ集団の本拠だったアフガニスタンを軍事攻撃で叩き、自国内の対テロ取り締まりを画期的に強めた。国内治安を保つためには国民の権利や自由をも一部、制限するような「愛国者法」を施行した。自国民の間でもテロに少しでも関連のありそうな人物に対しては当局に電話やメールを傍受できるような権限を与えた。入国管理も一気に厳重にした。
アメリカはその後、イラクのフセイン政権をも攻撃して、打倒した。フセイン政権は9・11テロとの直接の関連は立証されなかったが、それまで世界各国のテロ犯やテロ組織を支援していたことは事実だった。ブッシュ政権のこのイラク攻撃はその後、各界から非難を浴びたが、それでもなおアメリカにとっての国際テロを激減させる効果をあげていたのだ。
テロとは政治や宗教の目的のために、相手国の国民に恐怖(テラー)を感じさせ、その政府の政策を特定な方向へ変えさせるために、事前に準備をして、一般民間を無差別に殺傷する暴力行動である。アメリカの連邦捜査局(FBI)はそんな定義づけをしている。
そのテロ活動がその後のアメリカでは一気に減ってしまったのだ。アメリカ司法当局の発表によると、同時多発テロの翌年の2001年から2013年までの13年間にアメリカ国内で起きたテロ事件は合計214件で死者は61人だった。その同じ13年間に全世界ではテロ事件は総計72185件、死者は170000人以上だった。なんと超大国のアメリカでのテロ件数は全世界のわずか0.3%にまで落ちてしまったのである。
ちなみに国際テロが盛んになった1970年代の10年間、アメリカでのテロは合計1470件、死者184人だった。この時期、全世界でのテロは合計9840件、死者は7000人だった。アメリカ国内でのテロは全世界のテロの15%をも占めていたのだ。
さあ、この数字から浮かびあがる教訓はやはりテロには軍事面、法律面で断固とした戦いを挑むことのようである。