[Ulala]【フランスで犯罪多発のわけ】~EU内の個人犯罪予備軍の脅威~
Ulala(ライター・ブロガー)
「フランス Ulala の視点」
フランス、パリで、1月7日、風刺週刊紙シャルリー・エブド本社銃撃事件から丸1年に当たる日に、警察署襲撃が試みられ、1人の男が射殺された。男の着衣から自爆用ベルトのワイヤのようなものが出ていたうえ「アラー・アクバル(神は偉大なり)」と叫んだため、警官が発砲を判断したという。その後の捜査で自爆用ベルトは偽物と判明したが、「ドイツのSIMが入った携帯」、マジックで手書きされた「ダーイシュ(ISのアラビア語名の略称)の旗」と、同じく手書きで「フランスがシリアで行っている軍事行動に対する報復が犯行の目的」と言う主張が書かれた紙が、持ち物から発見された。
男は当初、2013年にフランスで起こした窃盗の記録の指紋から、モロッコ生まれと名乗っている人物とされていたが、現在は、チュニジア国籍の、タレク・ベルガセム(25)であると報じられている。その後の調査で、リュクサンブルグでの犯罪経歴があったり、スイスに渡った形跡があったり、去年の12月にはドイツの複数の難民収容施設に滞在していたりしたことも判明。その際、複数の名前や異なる国籍で登録されていることが分った。
男は、施設の壁に「イスラム国」のシンボルも描いていたことも報道されてはいるが、パリでの襲撃は単独の行動であり、どこからかの指示を受けて起こしたわけではないとの見方だ。
そして、この事件が落ち着き始めた11日に、また「アラーとダーイシュの名において行った」とされる事件が起こった。フランス南部マルセイユで、クルド系トルコ人の高校生(15)がユダヤ系男性教師(35)に刃物で襲いかかり軽傷を負わせたのだ。少年は中流家庭に育ち、成績も優秀。素行もよく、精神的に不安定なこともなかったと言う。家族も過激化の兆しに気付いておらず、ネットを通じて過激思想に傾倒したのではないかと見ている。これらの事件を受けてマニュエル・ヴァルス首相は、「孤立した個人の行動が危険に過激化している」と懸念を示している。
パリの事件の場合、装備の不十分さや計画性のなさから、すでに事件の当日にテロとは関係がないと発表がされており、ドイツに居たのも、仕事を探すためにヨーロッパ中を回っていたからとも考えられる。しかし、これだけヨーロッパ中を簡単に移動していることに不安を感じる人もおり、今後は、欧州連合(EU)が一部の加盟国で認めている「移動の自由」についての制限についても議論が高まるかもしれない。
そしてマルセイユについて言えば、あと1週間で16歳の誕生日を迎えるというまだ高校生の少年が、大型の刃物を振りかざして人を襲ったと言うことは衝撃的で、しかも、マルセイユでは去年からすでに同様な事件の発生は3件目という多さなのだ。ユダヤコミュニティー内では不安が高まっており、「フランスにいるよりイスラエルに居た方が安全だ」とインタビューに答える人もいるほどである。
一連の事件から見えるのは、難民に紛れてテロリストが外からやってくる可能性があるのも事実だが、それと同時にフランス国内や欧州連合(EU)内にいる個人の犯罪者予備軍も脅威であると言う事だ。
テロリストとは関係ないのにも関わらず、もともと犯罪者になりうる状態の人物が、犯罪を犯す理由に「ダーイシュ」を持ち出すことで、以前よりも増して事件が増えるのではないだろうか。そしてそのような雰囲気が伝染病のように蔓延し、思いもよらない身近なところで被害が発生するのではないかと気がかりではある。
こういったことを受けて、フランスでは今後も地域活動への積極的参加など、孤立しないで周辺の環境とコンタクトを取る積極的な態度を求められたり、さらに学校でのネット使用に関して、子供への指導が増えていったりしている。フランス全体が混沌とした状態であるとも言え、まだまだ、最低限の警戒はしておく必要はありそうだ。