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.国際  投稿日:2016/2/19

「気化」するか、トランプ人気 米大統領選クロニクル その1


古森義久(ジャーナリスト・国際教養大学 客員教授)

「古森義久の内外透視」

アメリカの大統領選挙が熱気を高めてきた。今年2016年11月8日火曜日の投票に向けて、いまや予備選が各州で催され、メディアの報道も、一般国民の話題も、もっぱら大統領選挙である。

私はいま首都ワシントンでこの選挙の展開をジャーナリストとして追っているが、振り返るとその体験ももう40年となった。アメリカで初めて大統領選挙に触れて、その報道にあたったのは1976年秋だったのだ。

1976年の選挙は当時の現職の共和党ジェラルド・フォード大統領と民主党の新人ジミー・カーター候補の対決だった。私はこのとき毎日新聞のワシントン駐在特派員として赴任してまもなくだった。

この選挙を自分の体験として第1回目とすれば、いまの選挙は11回目となる。前回の2012年までの10回のうち、8回はアメリカにいて、予備選や全国党大会、そして最終投票を目撃してきた。思えば長い長い年月だった。

そんな取材体験をいまの選挙戦に活かして考察をしてみたい。ただし過去の体験は重要だが、その過去の虜になる危険もある。アメリカという国も社会も、そして政治も選挙も、間断なくダイナミックに変わっているからだ。過去のメカニズムは現代には適用できないケースはあまりに多い。だがその一方、過去の体験からの教訓が現代の読み方で有用になるケースもあろう。そのへんのバランスを意識しながら、過去の自分のアメリカ大統領選体験を回顧してみたい。そしてその回顧を現在に当てはめてみたい。そんな考えからこの連載を進めたい。

さてアメリカの大統領選挙は世界でも例がない長丁場の苛酷な政治レースである。今回をみても、1月のアイオワ州の党員大会から11月の投票日までまる10ヶ月である。しかも実際の選挙キャンペーンはアイオワ党大会の前から始まる。ゆうにまる1年、あるいは1年半の戦いなのだ。この間、民主、共和両党、場合によっては無所属の候補者たちが多数、しのぎをけずる。

この選挙戦はボクシングとマラソンの同時進行を連想させる。長い距離を走りながら競合する相手を叩き、倒そうとする。実に残酷で無慈悲な争いなのだ。なにもここまで相手を攻めて、自分を駆り立てることもないのにと思わせるほどだ。その徹底ぶりはみずからをいじめるマゾヒズムという表現をも思わせる。

だがその目的は世界に冠たる超大国の元首を最も民主主義的、最もオープンで公平な方法で選ぶということだろう。その背後にはアメリカ民主主義の伝統や誇りがそびえている。中国の国家元首がどう選ばれるのかを考えれば、このアメリカ民主主義の特性の価値がわかるだろう。

さてこの長く厳しいアメリカ大統領選挙で私が長年、頻繁に聞いてきた言葉の一つにVolatile (ボラタイル)というのがある。「変わりやすい」とか「揮発性の」という意味である。候補者の人気が激しく上がり、下がる、というわけだ。いま絶頂の人気も液体が気化するように揮発してしまう、ということでもある。その変動ぶりはRoller coaster(ローラー・コースター)とも評される。遊園地を超スピードで上がり、下がりしながら疾走するジェット・コースターのことだ。

今回も民主党のヒラリー・クリントン、共和党のドナルド・トランプという二人の先頭走者がどんなローラー・コースターぶりや揮発性をたどるのだろうか。

帰趨を制する“一言の重み” 米大統領選挙クロニクル その2 に続く)

 


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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