北の核・ミサイル開発阻止は困難
植木安弘(上智大学総合グローバル学部教授)
「植木安弘のグローバルイシュー考察」
北朝鮮への制裁強化安保理決議、核・ミサイル開発を阻止できるか
国連安全保障理事会(安保理)は3月2日、全会一致で北朝鮮の核・ミサイル技術の更なる開発を阻止すべく経済制裁を強化する決議2270号を採択した。サマンサ・パワー米国連大使は決議採択後、「安保理が課した制裁では一番強いもので、この中にはこれまでに課されたことのない措置も含まれている」とこの決議の意義を語った。
日本の吉川元偉国連大使は、50か国以上がこの決議のスポンサーとなり、これまで北朝鮮の核・ミサイル開発を擁護する国が一か国とも出なかったことを指摘し、各国による決議の履行の重要さを強調した。
この決議採択で一番注目されるのは、制裁強化措置に中国が同意したことだ。これまでの4つの制裁決議では多くの落とし穴があり、当然ながら中国の政治的に微妙な立場を反映していたが、今回の制裁決議はこれまでの決議よりより厳しい内容を含んでいるだけに、中国が北朝鮮の政治指導者に対してより真剣な圧力をかけることの必要性を強く感じていることを表している。これは昨年以来の中朝間の緊張関係からみても読み取れる。ただ、中国も極度な圧力はかけにくいこともあり米中の交渉が長引いたと思われるが、対米関係を重視する姿勢だけではないことが今回の中国の対応から読み取れる。
制裁内容で注目されるのが、抜け穴と思われる部分を塞ぐ努力がなされ、北朝鮮の資金源となる石炭、鉄鉱石や貴金属の鉱物資源の輸入禁止や貨物船の寄港に際しての臨検の義務、政府や企業、個人への資産凍結や渡航禁止の拡大、各種金融取引への厳しい制限が課されたことである。
北朝鮮は弾道弾ミサイル発射を衛星打ち上げとしているが、これはこれまでの安保理決議違反行為であることが確認され、移転が禁止されている通常兵器がさらに拡大された。また、北朝鮮の軍や警察の訓練官や顧問の滞在を禁止することが確認され、核拡散に繋がりうる高等物理学や航空エンジニアリング、高度なコンピューターシュミレーションなどの分野における研究者などへの教育支援も禁止されている。
ただ、民生への悪影響を避けるため、民生用と思われる鉱物資源の輸入や北朝鮮の民間機への国外での燃料販売と供給は認めるなど、一定の配慮は施している。
北朝鮮は核開発やミサイル技術の向上に意欲を示しており、制裁強化でこれを阻止することができるとは考えにくい。北朝鮮は既に国家資源を核やミサイル開発に相当費やしており、開発をある程度遅らせることはできても、既に持っている技術や能力を皆無にすることはできない。
しかし、中国の対北朝鮮政策により実質的な変化がみられることは、北朝鮮の指導者も完全に無視することはできないであろう。問題は、この変化が北朝鮮を対話の道に引き出すことができるかどうか、また、北朝鮮指導層の政治力学に何らかの影響を与えることができるかどうかである。
短期的には、北朝鮮はこの経済制裁強化措置に反発して、特に韓国に対して挑発的な行為に出てくることが予想される。これに対しては日米韓の結束をベースにした対応が必要だが、北朝鮮の核・ミサイル開発がさらに進む場合には北朝鮮への外交、軍事戦略を含めた各方面での政策転換も視野に入れる必要があるかも知れない。
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この記事を書いた人
植木安弘上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授
国連広報官、イラク国連大量破壊兵器査察団バグダッド報道官、東ティモール国連派遣団政務官兼副報道官などを歴任。主な著書に「国際連合ーその役割と機能」(日本評論社 2018年)など。