トヨタ・ダイハツ・スズキ新三角関係 その3
遠藤功治(アドバンストリサーチジャパン マネージングディレクター)
「遠藤功治のオートモーティブ・フォーカス」
3 遅々として進まないトヨタの新興国開拓
そんなに小型車領域でトヨタがダイハツを取り込みたい理由は、低コストで開発・生産した車を、一定の利潤を伴って新興国で販売し、プレゼンスを上げて今後の持続的成長を維持したい、まさにこの一点に尽きます。トヨタの新興国での存在感は、タイとインドネシアを除けば、非常に小さいと言わざるを得ません。
トヨタの主な新興国でのシェアは、タイが33%、インドネシアが32%(ダイハツと合わせると約50%)ですが、残りは全て1桁、中国が4%、インドが4%、ブラジルが5%、ロシアが6%余りとなっています。比較的シェアが高いタイは、ピックアップトラックが多かったこと、進出が早かったこと、元々国自体が日本に友好的であること、などの理由で従来からトップシェアを維持しています。
インドネシアはダイハツ、及び現地のアストラとの共同事業、ダイハツが主導で開発した低コスト車を早い段階から生産、ダイハツ主導による小型車事業として、マレーシアと並び、数少ない成功事例となっています。ただ、前述のようにその他の新興国となると、中国・インド・ブラジル・アルゼンチン・トルコ・東欧・ロシアの各地域に工場進出し、その現地での歴史も全て10年以上あるにも関わらず、この全地域でシェアは5%以下なのです。
これは何故なのか。答えは簡単で、現地で高いシェアを取れるような売れ筋モデルが少ない、ということにつきます。上記各国でそれぞれ車種や価格水準、デザイン、重要視される機能、販売手法等は違うのですが、ほぼ共通なのは、低コストで販売できる車づくりの重要性でしょう。とにかく小型車を低コストで作れない、よって割高になり価格競争力が無い、売れる車が無いので販売網の構築が進まない、結果販売力が弱いままであるという、このいたちごっこです。
それでも着実に改善していれば良いのですが、何故か遅々として進まない。中国やロシア、ブラジルなどは、現地経済の低迷や政治的問題など、一企業の枠を超える問題であるとも言えますが、これはその国で販売している全メーカーに言えること、相対的なシェアを見ると全くと言っていいほど上向いていないことを考えれば、やはりトヨタ側に問題ありきなのでしょう。
特にその話題のインドに至っては、進出して20数年間、インドのシリコンバレーと呼ばれるバンガロールに広大な工場を持ち、幾多の新型車を世に送り出してきたにも拘らず、2015年のシェアは僅か3.6%と、2014年の4.5%から更に低下している有様、市場でのプレゼンスが殆ど無いという状況です。
ところが今後の自動車市場の成長はどこなのかというと、トヨタが弱い新興国、特に、インド・中国・南米・アフリカであるというのが事実です。世界の自動車販売台数は、2016年で約8,500万台前後ですが、2020年で1億台を超えると言われています。各地域での景況感に左右されるのは当然ですが、今後5年間でほぼ1,500万台程度の増加となることが期待されます。
世界の中で、最大の自動車市場は中国で、その規模は約2,400万台。2020年には3,000万台に到達するかどうか、この先5年間で500万台程度の増加でしょうか。中国に次ぐのが米国で今年は1,750万台前後。米国の景況感が最近悪化、それもサブプライム問題の再燃で先行き不透明感が漂いますが、先進国の中では唯一の人口増加国、この先5年間で100万台程度の増加はなお可能とみます。
そして世界大3位の市場が日本の約500万台。消費税の引き上げ、若者を中心とする人口の減少、東京一極集中など、自動車保有に関連する項目は全てマイナス要因。市場は長期的に縮小方向です。さてこれに続くのがドイツ・イギリス・フランス・イタリアなどの西欧各国ですが、今後需要は良くて横ばいでしょう。
そして次がインドですが、現状の300万台規模が5年後には500万台規模へ、そして2025年には1,000万台へと飛躍的に伸びると言われています。堅調な経済、中国を超える人口、依然超低い自動車の保有率を考えると、この成長は十分可能でしょう。以下、インドネシア・ブラジル・ロシア・アフリカ市場の回復・拡大などが、今後の自動車販売拡大の中心となります。
ただ最も成長スピードが高い市場はインド、将来中国市場をも上回る可能性を残すものの、トヨタが最も苦手とする市場なのもインド、だからでしょうか、頻繁にスズキとの提携によるインド市場開拓が必須という話が出て、今回も財務的にやや厳しさを増すスズキと資本提携、という記事になったものと思われます。火の無い所に煙は立ちませんが、ことはそうは簡単ではありません。
(4日連続12時に配信。トヨタ・ダイハツ・スズキ新三角関係 その1
トヨタ・ダイハツ・スズキ新三角関係 その2 の続き。その4に続く)
あわせて読みたい
この記事を書いた人
遠藤功治株式会社SBI証券 投資調査部 専任部長兼シニアリサーチフェロー
1984年に野村證券入社、以来、SGウォーバーグ、リーマンブラザーズ、シュローダー、クレディスイスと、欧米系の外資系投資銀行にて活躍、証券アナリスト歴は通算32年に上る。うち、約27年間が、自動車・自動車部品業界、3年間が電機・電子部品業界の業界・企業分析に携わる。 その間、日経アナリストランキングやInstitutional Investors ランキングでは、常に上位に位置(2000年日経アナリストランキング自動車部門第1位)。その豊富な業界知識と語学力を生かし、金融業界のみならず、テレビや新聞・雑誌を中心に、数々のマスコミ・報道番組にも登場、主に自動車業界の現状分析につき、解説を披露している。また、“トップアナリストの業界分析”(日本経済新聞社、共著)など、出版本も多数。日系の主要な自動車会社・部品会社に招かれてのセミナーや勉強会等、講義の機会も多数に上る。最近では、日本経団連や外国特派員協会での講演(東京他)、国連・ILOでの講演(ジュネーブ)や、ダボス夏季会議での基調講演などがあり、海外の自動車・自動車部品メーカー、また、大学・研究機関・国連関係の知己も多い。2016年7月より、株式会社SBI証券に移籍、引き続き自動車・自動車部品関係を担当すると供に、新素材、自動運転(ADAS)、人口知能(AI)、ロボット分野のリサーチにも注力している。
東京出身、58歳