ゴーンと司法
.国際  投稿日:2016/3/23

最高裁判事後継者指名巡りバトル 米国のリーダーどう決まる? 番外編


大原ケイ(米国在住リテラリー・エージェント)

「アメリカ本音通信」

米連邦最高裁判所のアントニン・スカリア判事が先月急死したことを受けて、オバマ大統領が後継の候補を指名した。アメリカの憲法には「最高裁判所の裁判官に欠員が出た場合、大統領が指名して、上院議会が承認する」とはあるが、それ以上の細かい規定は何もない。

今、共和・民主の両党は11月の大統領選挙に向け、どちらも候補者を絞る予備選でバトルを繰り広げているが、民主党はそろそろヒラリーに落ち着き、一丸となって、大統領職だけでなく、同時に行われる上下議会選挙で議席を増やさんと着々と草の根運動も同時進行させている。

それとは裏腹に、共和党はこのままドナルド・トランプを大統領候補として立てるのか、夏の党大会で下克上を起こしてトップランナーである彼を引きずり下ろすのか、はたまた獲得選挙人数で2位につけているテッド・クルーズを代わりに推すのか、あるいは第3党から独立候補を出して戦うのか、まったく出口の見えないカオスのただ中にある。

スカリア死亡のニュースが流れた直後から、共和党の議員や党幹部たちは「“レイムダック”となったオバマ大統領に3人目となる最高裁判事を決めさせるのではなく、アメリカ国民の意志を反映するにも次期大統領が指名するのを待つべき」となんの根拠のない理由で上院での承認拒否を宣言した。だが、実際に「レイム・ダック」というのは11月の選挙で次期大統領が決まってから、年明けの正式就任までの期間をいうので、オバマ大統領がレイム・ダックになるにはまだ後半年以上も残されている。

米連邦最高裁判所の裁判官は現在8人、うち4人が保守で4人がリベラル。このままでは、各高等裁判所から上訴されてきた訴訟はすべて暗唱に乗り上げたままとなる。

オバマ大統領が選んだメリック・ガーランドは、これまでリベラルな女性判事を2人指名した時も、候補として名前の挙がっていた人。20年近くも首都ワシントンを含む地域の高等連邦裁判所で判事を務めた経験を持つベテランで、保守・リベラル問わず人望が厚い。ユタ州のオリン・ハッチ上院議員(共和党)に至っては、ガーランドの名前を出して「オバマがガーランドのような中庸派を指名すればすぐにでも承認するのだが」と言っていたくせに、手のひらを返したように、今は誰も承認しない、と宣言している。

これは実に巧妙な人選であるともいえる。オバマはガーランドが承認されない可能性があることを百も承知している。どうせ共和党が邪魔立てするのだからと、もう1人、超リベラルでマイノリティーで、今後も色々な選択肢のある若い人や、法曹界以外でのキャリアのある人や、上院議員が仲間を否認しにくいように上院議員から弁護士の資格を持つ者や、最高裁4人目の女性やLGBTの候補を選ぶこともできた。そこへ出してきたのが、年齢も高めの白人男性ときた。

当のガーランド判事は、ホワイトハウスのローズガーデンで行われた指名スピーチでは感極まった涙声で、指名された悦びや承認の暁には生涯をかけて取り組む仕事だと信じているとアピールした。ここで中道派の彼を承認しないのであれば、次期大統領のヒラリー・クリントンが指名する判事は、もっともっとリベラルな人物になってもオバマは知らないぞという含み。

ずっと承認を先送りして、クリントンがいざ大統領となったらいきなり承認しようとすれば「レイム・ダック」論はなんだったのか、ということになる。もう逃れられない時期になってから否認しようとガーランド判事の過去の判決例から、なにかケチをつけられる案件はないかを探そうにも、その経歴は20年分もある。こうなると、意地でも承認に反対する共和党の言い分は子どもがダダをこねているようにしか聞こえない。

そうでなくとも、共和党員はトランプを追い落とそうと手を尽くすのに忙しい。その間にもオバマ大統領はキューバ訪問で着々と自分の「レガシー」を築きつつある。これも皆、共和党の身から出た錆というものか。


この記事を書いた人
大原ケイ英語版権エージェント

日本の著書を欧米に売り込むべく孤軍奮闘する英語版権エージェント。ニューヨーク大学の学生だった時はタブロイド新聞の見出しを書くコピーライターを目指していた。

大原ケイ

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