バイデンとハリス 絶妙なコンビ
大原ケイ(英語版権エージェント)
「アメリカ本音通信」
【まとめ】
・副大統領候補ハリス氏にトランプ大統領はTwitterで攻撃。
・ハリス氏のモチベーションは社会構造を立て直すという「野心」。
・バイデン氏は物怖じせず自分に忠言できる強い女性を選んだ。
見た目や血筋ではわからない、初の黒人女性民主党副大統領候補カマラ・ハリスはトランプの再選にどのような影響を及ぼすのか?
ジョー・バイデン前副大統領が今秋の大統領選挙にあたり、副大統領候補としてカリフォルニア州上院議員のカマラ・ハリスを指名した途端、ドナルド・トランプ大統領はさっそくツイッターと記者会見で彼女を攻撃しだした。
この4年でトランプ大統領が打ち出した政策、つまり移民を厳しく取り締まり(ハリスの両親は移民)、「ブラック・ライブズ・マター(黒人の人権を守れ)」を訴えるデモ隊を特別警察を使って攻撃する法と秩序重視(ハリスはカリフォルニア州司法長官として黒人に対しても法令遵守に厳しかったことで知られる)、さらにはセクハラやレイプを訴え出た女性をカネにものを言わせて封じこんで来た(ハリスは初の黒人女性副大統領候補)など、ハリスの存在そのものが、トランプに異議申し立てしているようである。
そこでトランプの口から飛び出した罵詈雑言がお決まりの、nasty(不快な、イヤな)とdisrespectful(失礼な、無礼な)だった。トランプが「ナスティー」と形容してきた相手は、ヒラリー・クリントン前国務長官や、ナンシー・ペローシ下院議長らなので、これは「強い女性」という意味だ。
一方の「ディスリスペクトフル」は女性が男性に対し同等の立場で発言した時に使われる。トランプが自分に忠実であるという理由で司法長官に指名したビル・バーや、セクハラ容疑が濃厚だったにもかかわらず最高裁に指名したブレット・キャバナーがそれぞれ、承認のための上院諮問委員会で返答に詰まるほど、ハリスに鋭くも穏やかな口調で詰問されたことを指している。
写真)ブレット・M・カヴァナウ氏(左)の宣誓式(2018)
カマラ・ハリスの生い立ちや学歴、経歴や活動を知らないと、とかく彼女の容姿や血筋に目が行きがちなのかもしれないが、アメリカでこれだけ#MeToo運動や、#BlackLivesMatterのデモ活動が盛り上がっていることを考えれば、彼女が美人かどうかや、人種的にどうカテゴライズされるのかを論じるのは時代遅れで滑稽というものだ。一つ言えるのは、どんなアイビーリーグ大学にも容易に受かったであろうハリスがわざわざハワード大学を選んだのは、自らを「ブラック」だと位置付けているからである。
「野心的だ」と批判されるが、ハリスが立身出世を目指すモチベーションは常に「黒人女性として自分に降りかかる問題を社会構造を立て直すことで解決する」、つまり自分さえ良ければ他人はどうでもいいという気持ちがないからこその「野心」だ。そして今回はジョー・バイデン候補が77歳という高齢であることから、万一の場合に即、大統領として振る舞えることが必要とされる。ここに野心も向上心もない遠慮がちな女性を求めるのは筋違いだろう。
民主党の予選で、大統領候補同士のディベートの席でハリスはバイデンを誰よりも鋭く攻撃したとして、トランプから批判されている。これは公共教育機関の人種格差是正の方法として「バシング」、つまり経済的格差のある地域の児童をバスで移動させて通学させるのが政府の役目かどうかを争った時に、ハリスが「私もバシングのおかげで公平な教育を受けられた世代の1人だ」と発言したことを指している。挙げ句の果てにはハリスがバイデンを「レイシスト(人種差別主義者)」呼ばわりしたとまで言っているが、これもトランプ側にでっちあげで、ディベートの際、ハリスは「私はあなたがレイシストだとは思っていません」と明言している。ケンカ腰の言い争いに見えたにしても、つまるところは2人とも政府が率先して人種差別是正をすべきだという方針であることには変わりない。
このように初回のディベート聴衆の前で批判されたバイデンだったが、実は亡き息子のボーを通じてハリスの評判や人柄をよく知っていた。ハリスがカリフォルニア州の司法長官だった時、ボー・バイデンはデラウェア州で司法長官を務めており、リーマン・ショックを招いた銀行や住宅ローン会社によって、マイホームを奪われた人たちのために多額の賠償金を勝ち取ったのがハリスだった。全米の司法長官らの協力と、全米一サブプライム・モーゲージに被害が多かったカリフォルニアのために、ハリスが大手銀行を相手に妥協せず、全力で交渉を続けたからこそ180億ドルという賠償金が支払われることとなったのだ。
写真)ボー・バイデン氏(左)
出典)Wikimedia Commons パブリックドメイン
つまり、バイデンは自分が大統領になった際にも、物怖じせず自分に忠言できる強い女性を選んだのであり、既にだいぶ前から心は決まっていたのだろうと推測できる。
だが、こうやって副大統領の選出が騒がれているのも一時だけで、これまでに副大統領候補の選択が大統領選の勝敗を決めたとされる事例はない。だが2人揃っての記者会見を見る限り、バイデン&ハリスのコンビは民主党をまとめるのに必要な絶妙な組み合わせのようだ。
トップ写真:カマラ・ハリス氏
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この記事を書いた人
大原ケイ英語版権エージェント
日本の著書を欧米に売り込むべく孤軍奮闘する英語版権エージェント。ニューヨーク大学の学生だった時はタブロイド新聞の見出しを書くコピーライターを目指していた。