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.国際  投稿日:2020/5/1

トランプ“目の敵”人物図鑑 その2 ニューヨーク州知事アンドリュー・クオモ


大原ケイ(英語版権エージェント)

「アメリカ本音通信」

【まとめ】

・ニューヨーク州のコロナ対策を統率するクオモ州知事の評判良い。

・2世同志のトランプ氏とクオモ氏は主張が相反している。

・クオモ知事はトランプ氏にケンカを売られても州民を守るために懸命。

 

4月末の時点でニューヨーク州の新型コロナウィルス感染者数は約30万人、死者約1万7000人と米国内でも最悪のレベルで、全米の3分の1の数字に匹敵するが、ニューヨーク州のコロナ対策を統率するアンドリュー・クオモ州知事の評判はすこぶる悪くない。

ロックダウンにより、自宅で過ごす大勢のニューヨーカーを相手に毎日のように行われる記者会見で、これまで一貫して逼迫する医療体制の実情を訴え、PCR検査数、罹患率、感染者数、入退院者数、死者数を包み隠さず公表し、病院でのPPE(防護用品)が足りているのかいないのか、そして科学的根拠に基づいた今後の見通しを述べ、州民の信頼を勝ち得た

その記者会見の内容はひんぱんにホワイトハウスのドナルド・トランプ大統領の主張と相反するが、クオモは昔からトランプに嫌われていることを重々承知している。実は2人ともニューヨーク市のクィーンズ区の出身で、父親の家業を継いだ二世という共通点がある。

アンドリュー・クオモの父親は1983年から1994年までニューヨークの州知事を務めたマリオ・クオモ。彼も一時期は大統領候補とも目された人物だった。アンドリューは2代目とはいっても、父親と比較されながら州知事選挙を勝ち抜かなければ州知事の座につくことはできなかった。ビル・クリントン政権時代に住宅都市開発省の長官を務め、その後ニューヨークの司法長官として当選し、2012年から州知事。

一方のドナルド・トランプも実は一代で財を成した不動産王ではなく、父親から不動産と多額の資産を受け継いだ2代目ボンボンだ。トランプ父子が手持ちのアパート入居で人種差別で有罪となった過去も、銀行からの借金を何度も踏み倒してカジノを経営し、破産宣告に至った過去も、クオモ父子のよく知るところだろう。

今回の諍いは、それぞれの記者会見やSNSでの発言で展開されている。カリフォルニア州に出遅れる形でニューヨークのロックダウンを宣言したクオモ知事は、早期の段階から3万台の呼吸器が必要になると訴えたにも関わらず、トランプの指示のもとで米緊急事態管理庁からは400台しか送られてこなかった、「そんなんで『よくやった』と肩をたたけというのか?」と皮肉を言った。

さらに、その緊急事態管理庁がニューヨーク州やその他カリフォルニア州やワシントン州の州知事と張り合って、各州に運搬される途中のPPE物資の差し押さえまでやっていたことがわかっている。トランプがこんな意地悪をするのも、これらの青い州でこの秋行われる大統領選挙で決してトランプが選ばれることはないとわかっているからだ。

このケンカはSNS上でも展開され、クオモ州知事が記者会見中に「文句ばかり言ってないで仕事したらどうだ」とトランプがツイートしたかと思えば、クオモも「今この昼間にテレビで私を見ているぐらいなら、そっちこそ腰を上げて仕事したらどうだ?」と混ぜっ返す一幕も。

さらにはニューヨーク市内のコンベンションホールに準備したベッドがCovid-19の感染者にほとんど使われていない状況について、トランプがこれをなじると、クオモも負けずに、それはトランプが命名したホワイトハウス側の対策チームによる予測で講じた対策で「あなたの言う通りにしたのが愚かだと言うなら、申し訳ありませんねぇ」と皮肉を言った。

さらにトランプが「こうやって施設も設備も送っているのに感謝が足りない」というツイートに対し、「どうすればいいんですか?花束でも送るとか?大統領としての仕事をしてくださってどうも。その経費もあなたが個人で出したわけではないですが、そりゃどうもありがとうございました」と返した。

▲写真 トランプ大統領 出典:Flickr; The White House

大統領再選への材料として、どうしても夏には国内のコロナ禍を収束させ、経済を上向きにしたいトランプは、十分な検査もなされず、これからニューヨーク州以外の地方にも感染が広がっていくのを承知で、自分には各都市のロックダウンを解除する大統領権限があると、ハッタリをかましたが、クオモは「この国に王様はいない」と政治覇権を争っている時ではないと一刀両断。そこで険悪な空気になるかと思えば、クオモ州知事がホワイトハウスに出向いて、PCR検査の強化について合意するなど、クオモ知事もケンカを売られているのはわかっているが、州民を守るために懸命だ。

一方のトランプは、最近の記者会見で「消毒液を飲めば、体内のウィルスも退治できるんだろう? 紫外線を体内に当てるのも有効らしい」と国民が真に受けて命を落としかけない爆弾発言をかまし、ひんしゅくを買っている。

トップ写真:アンドリュー・クオモ知事 出典:Flickr; Delta News Hub


この記事を書いた人
大原ケイ英語版権エージェント

日本の著書を欧米に売り込むべく孤軍奮闘する英語版権エージェント。ニューヨーク大学の学生だった時はタブロイド新聞の見出しを書くコピーライターを目指していた。

大原ケイ

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