無料会員募集中
.経済  投稿日:2014/1/22

[安倍宏行]【オランダ・リポート③】オランダの産官学共同で作り上げる「持続可能なビジネスモデル」に見る、医療費削減の試み〜多くの大学病院が赤字と言われる日本こそ参考にしたい


Japan In-Depth編集長

安倍宏行(ジャーナリスト)

執筆記事プロフィールWebsiteTwitterFacebook

 

オランダ全土を駆け巡り、かの国の医療の実態をつぶさに見て回るこのツアー。前回前々回に続き、第三回目の今回は、2日目(21日)のリポート。

21日の朝、マーストリヒト条約で有名なこの地にある企業、シナプス(Synapse)を訪問した。2009年に設立されたシナプスはマーストリヒト心臓血管研究所の一部門であり、マーストリヒト大学ホールディングスに属する企業でもある。同大学では研究部門の中で将来的に商業ベースで軌道に乗る可能性のあるところを株式会社化しているのだ。

シナプスが商業化を目指す分野は、止血(hemostasis)と血栓症(thrombosis)予防である。血液が凝固するメカニズムとそれを妨げる物質=抗血小板物質(antiplatelet)の研究を通し、血友病(hemophilia)などの治療に役立てる研究を行っている。そうした研究を通して同社が開発中なのが、簡易型血液成分分析装置である。

gazou390日本でもワンコイン検診のケアプロ(注1)などのベンチャーがあるが、シナプスが開発中何は、簡単に自己採血した血液の成分を分析し、スマートフォンに結果を転送するものだ。データを蓄積すれば自ら経過観察できる。様々な医療機関や研究機関に販売するビジネスモデルを考えており、3年以内に商業化を目指すとしている。

まだ装置の名称すらない段階だが、コストが抑えられれば十分マーケットはあるように感じた。なにより、医療系大学に所属する研究機関が、絶えず商業化を意識して運営されているということに少なからず驚くと同時に、果たして日本の医大でこのような取り組みがあるのだろうか、と考えてしまった。

日本の大学病院はほとんどが赤字と言われているが、こうしたオランダの取り組みは大いに参考になろう。

次に訪問したのは、マーストリヒト・スタディ(The Maastricht Study)という研究機関だ。主に糖尿病(diabetes)の研究に注力している。糖尿病は全世界で拡大しており、深刻な問題となっている。世界で糖尿病で死亡する患者の数は130万人にも上る。オランダだけで2013年に2型糖尿病患者は75万人、それが2025年には100万人に増加し、その治療コストは、1.4兆円(1ユーロ=140円)に上ると予測されている。2型糖尿病患者の75%は心臓疾患で死亡しており、平均寿命で通常より6年短いという。様々な合併症を引き起こすため、より効果的な治療法と予防が急務である。

gazou391 gazou389わが国でも、糖尿病の疑いが強い人が全国に890万人、可能性を否定できない人1320万人と合わせて2210万人もの人がいると推定されている。(平成19年国民健康・栄養調査による)年間1万4千人が死亡し、糖尿病による腎臓障害で人工透析を始める人が年1万5千人もいるし、視覚障害の発生も年3千人いるという。

政府は糖尿病有病者の減少を目標にしており、2010年の1080万人を1000万人にまで引き下げる計画だ。運動不足や食習慣などが原因となる場合が多いことからメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群:metabolic syndrome)の減少が叫ばれているわけだが、糖尿病と関連付けて考えている人がどれだけいるだろうか。

マーストリヒト・スタディでも強調されていたのは、民間企業との連携だ。製薬会社はもとより、食品会社、医療機器メーカーなどとも協力関係にあるという。医学もビジネスと無縁ではいられない。膨れ上がる医療費という社会的コストを如何に減らすか。産官学共同で作り上げる、持続可能なビジネスモデルで解決しようとしているオランダの例は大いに参考になろう。

(注1)ケアプロ http://carepro.co.jp/

 

【あわせて読みたい】

タグ安倍宏行

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."