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.国際  投稿日:2016/8/7

次期国連事務総長選 混迷の第2回仮投票


植木安弘(上智大学総合グローバル学部教授)

「植木安弘のグローバルイシュー考察」

次期国連事務総長選の第二回仮投票が8月5日に行われたが、混迷する結果となった。

7月29日に行われた第一回の仮投票でトップで躍り出た元ポルトガル首相で国連難民高等弁務官を10年務めたアントニオ・グテレス氏が、第二回投票でもトップに留まったが、2票の「奨励しない」が出た。「奨励する」は11票、「意見なし」は2票だった。第1回では、「奨励しない」はゼロだった。奨励しない票に常任理事国が入っていると選ばれなくなる。仮投票は、「奨励する」、「奨励しない」、「意見なし」で行われる。

第2位には、セルビア外相のヴュク・イェレミッチ氏が8(奨励する)-4(奨励しない)-3(意見なし)で、前回の3位から2位に浮上したが、奨励しない票が第1回の1票から4票に増えた。第1回投票で2位につけた元スロベニア大統領のダニロ・トゥルク氏は、7-5-3で第4位と順位を落とした。

アルゼンチン外相で元国連事務総長官房長を務めたスザナ・マルコーラ女史は、奨励票を1票伸ばし、8-6-1で第3位につけたが、奨励しない票も2票増えた。女性候補者の中で有力とみられていたブルガリアのユネスコ事務局長のイリーナ・ボコヴァ女史は7-1-7で、奨励票は2つ落とし、意見なしが3票増えた。奨励しない票が1つ減ったが、まだ1つ残っている。全体では5位と順位を2つ落とした。

元ニュージーランド首相で国連開発計画(UNDP)のヘレン・クラーク女史は、6-1-8で第6位となり、前回よりも奨励票を2つ落とした。クロアチア外相のヴェスナ・プーシッチ女史は第2回投票前に立候補を辞退した。残りの5人の可能性はほぼないとみられる。

常任理事国のロシアは、東欧出身者を望んでいるとされており、上位には、セルビア、スロベニア、ブルガリア出身者がいるが、ボコヴァは親ロシアとみられており、米国の支持が得られそうもない。米国は国連の行政経験が豊富なマルコーラを支持していると報道されているが、ロシアの支持を得られそうもない。現在の冷えた米ロ関係からみて、両国が全面的に支持する候補者は選出される可能性が極めて低い。奨励しない票を得なかった候補者が出なかったことで、次期事務総長選は混迷の様相を見せてきた。

女性候補者も厳しい状況にある。上位につけているマルコーラとボコヴァが困難となると、次はクラークだが、これもロシアが支持しない可能性がある。女性の事務総長誕生への期待は萎みつつある。

男性候補者の中で、上位のグテレス、イェレミッチ、トゥルクの争いになるか、それとも米ロが推す候補者を含めて数名の候補者を安全保障理事会が推薦し、総会で票争いをするか、それとも米ロから支持を得られそうな第三者が新たに立候補するか、先が見えなくなってきた。


この記事を書いた人
植木安弘上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授

国連広報官、イラク国連大量破壊兵器査察団バグダッド報道官、東ティモール国連派遣団政務官兼副報道官などを歴任。主な著書に「国際連合ーその役割と機能」(日本評論社 2018年)など。

植木安弘

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