【オランダ・リポート⑤】スマート検査機器で心疾患を未然に防ぐ試み〜欧州最大級の総合受託試験研究機関・オランダ応用化学研究機構
Japan In-Depth編集長
安倍宏行(ジャーナリスト)
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オランダ全土を駆け巡り、かの国の医療の実態をつぶさに見て回るこのツアー。第5回目(1月23日)の今回は、また一つ興味深い機関を訪問した。
オランダTNO応用化学研究機構(Netherlands Organization for Applied Scientific Research) という。科学技術分野における研究を目的とひて1932年にオランダ議会により設立された欧州最大級の中立の総合受託試験研究機関だ。職員総数は5000人を誇る。組織は5部門で構成されクオリティオブライフ部門、防衛公衆安全部門、科学・産業部門、環境・地球科学部門、情報通信技術部門から成る。今回はクオリティオブライフ部門を訪問した。本部門は、栄養食品分野の受託試験研究を行うことを目的としている。と書くと何だか本当に研究ばかりしている機関のように聞こえるが、実体はかなり違っていた。
ここでもオランダの医療で一番の課題は増え続ける慢性心臓疾患への対応であることが指摘された。人間は70歳を超すと、2~3割が何らかの心疾患を持つという。オランダの場合、大人の人口の1%、およそ13万人が心臓病患者で、2025年には19万5千人にまで増えると予測されている。
患者にとって大きな負担は、血圧や体重の測定と血液検査の為に病院に通わなくてはならないことだ。そこで、TNOは、通院の回数を減らすことや患者自身の自己管理を促すために様々な検査機器を開発し、今回我々にそれらのデモをしてくれた。
まず、血液検査装置。指先から採血した血液を使い、コレステロール値や血糖値など心臓疾患に関係が深い成分の分析を簡単に行うことが出来る。
次に、3Dボディ・スキャン。PC内蔵カメラを使い、体型の写真を撮るだけで、身長、腹囲などが簡単に測定できるのが特徴だ。
最後は、血圧計。心拍と血圧が簡単に測ることが出来る。
測定結果をPCやスマホに蓄積され、継続的に自己管理に利用される。そうすることで、健常者は、慢性疾患を未然に予防することが出来るし、すでに罹患している人は、異常値が出たら医師に相談するかどうかの判断が迅速にできる。日常的に検査のためだけに通院する必要がなくなり、患者側も病院側も負担が減る。
今後の課題だが、まずはデータの信頼性をどう担保するかという問題があろう。様々なスマート検査器、様々なアプリが普及することで、膨大なデータが蓄積されるが、そのメタデータを誰が、どう評価し、どう分析するか、今後の課題となる。医療機関なのか、民間企業なのか、判断の分かれるところだ。
次に、検査通院が減るため病院の収入が減るという問題が浮上する。これに対しては、検査などにかけていたマンパワーと時間を、高度医療の研究・開発・臨床に振り分け、収益性を上げることで対応できよう。
TNOは公的な機関でありながら、製薬会社、食品会社、医療機器会社などと連携し、60にも上る企業を設立して国民の健康を守るために活動しているという。先に書いた医療系大学もそうだが、ビジネス化を絶えず念頭に置いているところがいかにもオランダらしい。
日本でもスマート医療検査器が普及し始めているが、データをどう疾病の予防や治療に生かしていくのかの議論が深まっていない。今後の課題として指摘しておきたい。
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