[藤田正美]日本に「出口」はあるのか〜「不良債権問題はないが、経済を成長させるエンジンの馬力がない日本」が陥る「長期停滞」のリスク
Japan In-Depth副編集長(国際・外交担当)
藤田正美(ジャーナリスト)
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先日、都内某所で興味深いシミュレーションをした。テーマは、「アベノミクスに出口はあるのか」ということだ。
安倍政権が2012年末に成立して、金融緩和と財政出動で今年の日本経済は明るさを取り戻しているように見える。しかし、このアベノミクスの第1の矢と第2の矢は、いずれも持続的なものではない。実際、アメリカのFRB(連邦準備理事会)は、2013年12月になって金融の量的緩和を縮小する方向に一歩踏み出した。毎月850億ドルの証券を購入していたのを1月から750億ドルにすると表明したのである。
アメリカの場合、11月の雇用統計が市場予想を上回るなど雇用状況が改善していることが大きい。しかしそれでもバーナンキFRB議長の発言には「留保」が目立つ。たとえば失業率が6.5%を下回っても、現在のFF金利(事実上のゼロ金利)を維持するとしたのは、失業率の低下が雇用の増加というより、労働市場に参加した人が減ったためと見ているからだ。それにインフレ率も目標の2%には達していない。
それでもアメリカの場合は、実体経済は回復の方向に向かっている。少なくともそう見える。しかし日本やEUはどうだろう。日本については、悲観論に傾いているエコノミストも少なくない。要するに、日本の経済が自立的な成長軌道に戻り、2%程度のインフレと3%を超える名目成長率を達成するというシナリオにはならないという見方である。
さらにEUは「もう一波乱ありそうだ」とするエコノミストもいる。それは銀行の不良債権問題がまだ片付いていないからだ。2014年はECB(欧州中央銀行)がユーロ圏の銀行を検査することになっている。銀行の監督をこれまで各国中央銀行がやっていたのを、一本化するからだ。いわゆる「銀行同盟」である。
問題は、この中で不良債権を抱えた銀行をどうするかという問題が表面化することだ。潰すのか、他行に買収されるか、それとも資本注入をするか、いずれかの手を打たねばならない。潰すにしても買収されるにしても、その銀行のある国にとっては、なかなか受け入れがたい選択になる。現政権にとって政治的に難しいということだ。資本注入できればいいが、国自体が資金繰りが困難なところに、銀行のために資金を調達するのは容易ではない。しかもその国の国債を保有しているのは、その銀行なのだ。
日本は不良債権問題はないが、経済を成長させるエンジンの馬力がない。たとえば家電業界はすっかり成長力を失っているように見える。自動車業界はまだ強いとはいえ、輸出で稼ぐには限界があるし、国内販売が大幅に増えることは考えにくい。医療や介護を「成長産業」と捉えることは可能かもしれないが、そのお金を誰が負担するのかという問題は残る。実際、閣議決定されたばかりの2014年度予算でも社会保障関連費は30兆円を超えた。しかも今後しばらくは増え続ける一方なのだ。
こんな中で、EUも日本も「長期停滞」に陥るリスクがあるという見方が出ている。そこから抜け出すためには、金融緩和の強化と財政出動をしなければならないとされるが、その副作用が気になるところだ。先のシミュレーションでも、最後は長期金利の高騰という「副作用」に政府が悩まされる結果となった。2014年が13年を上回るような年になるのかどうか、そう楽観的ではいられない。
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