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スポーツ  投稿日:2016/11/28

隠しても人には全部見えている


為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)

ある時から、人間というのは逆の一面を表に出しているものだなと思うようになった。みんなに笑われて道化師を演じる人の内側は傷つきやすかったり、クールに認識されている人間の内側が感情的だったり、大人になるにつれ一番痛いところを守るからなのかわからないが、そんなふうに感じるようになった。

昔アメフトの先輩が、球技の文化のいいところは、徹底的に相手のコンプレックスをいじりまくることで、いつしか本人が全部をさらけ出すようになることだと言っていた。確かに一番見せたくないところをさらけ出してしまうとあとは怖いことがなくなる。

幸いにして私の人生は、競技柄人前で自分をさらけ出すことが多く、また人物を鋭く見抜くような人も周りにいたから、自分を隠せないという局面が多々あった。何か発言するたびに、一つ一つの後ろにある考えを見透かされ、えぐるように突っ込まれ、またそれが図星であるから顔から火が出るほど恥ずかしい思いをした。今も自分が発信をする時には、あの人はきっと気づいているだろうなという考えがちらつくので、仮にいい人を演じる時でも少しばかり恥ずかしさを覚えながら演じている。

自分を隠しきれていると思っている人がいるが、分かる人から見るとこういう人は全部見透かされている。うちの子供が、こちらにわからないようにものを隠そうとするが、丸見えになっているあれと似ている。ひとつひとつの言葉の奥にあるその人の本当の感情が透けて見えている。何を隠したいかも、どう見せたいかも、どんな人間であろうとしているかも、また自分のどこが嫌いかも、全部見えている。見えているとおそらく目の前で告げられたことがないから隠せていると思っているのだろう。 

経験上、早々に参ったをして、自分の本性をさらけ出しておいた方が後々楽だし、何かとやりやすい。隠す人は、本当に見透かしてくる人を恐れるし、また見透かしている人は隠す人を傷つけないようにしたりするのに疲れるからか、あまり付き合わなくなる。だから言葉は悪いが、隠す人は隠せる程度の相手としか付き合えなくなっていく。

最も認めたくないものを認めればいいだけだと言ったのは、確か加藤諦三さんだったろうか。はしかと同じで人生の早いタイミングで参ったをした方がいいと思う。遅いとこじらせる。

 (為末大 HP より)


この記事を書いた人
為末大スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役

1978年5月3日、広島県生まれ。『侍ハードラー』の異名で知られ、未だに破られていない男子400mハードルの日本 記録保持者2005年ヘルシンキ世界選手権で初めて日本人が世界大会トラック種目 で2度メダルを獲得するという快挙を達成。オリンピックはシドニー、アテネ、北京の3 大会に出場。2010年、アスリートの社会的自立を支援する「一般社団法人アスリート・ソサエティ」 を設立。現在、代表理事を務めている。さらに、2011年、地元広島で自身のランニン グクラブ「CHASKI(チャスキ)」を立ち上げ、子どもたちに運動と学習能力をアップす る陸上教室も開催している。また、東日本大震災発生直後、自身の公式サイトを通じ て「TEAM JAPAN」を立ち上げ、競技の枠を超えた多くのアスリートに参加を呼びか けるなど、幅広く活動している。 今後は「スポーツを通じて社会に貢献したい」と次なる目標に向かってスタートを切る。

為末大

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