「言動パターン」の繰り返し――イラン、中国、ロシアに見る強権の駆け引き
執筆:宮家邦彦(キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2026#31
2026年8月3-9日
【本稿のポイント】
・米大統領は7月31日に対イラン攻撃再開を示唆したものの、翌日にはSNSで「合意のフレームワークが合意に達した」と投稿し、攻撃を再び見送るいつもの「言動パターン」を繰り返した。
・中国では次期党大会(2027年秋)に向けた「北戴河会議」が始まったとみられ、習総書記の4期目継続の可能性や、粛清が進む人民解放軍幹部人事の行方が注目される。
・9月20日のロシア下院選・統一地方選を前に、反戦派のナジェジュジン氏やリベラル野党「ヤブロコ」が「外国の代理人」指定や候補者名簿の登録拒否といった手口で選挙戦から締め出されている。
先週「休止(on a hold)」されたはずの「米軍の対イラン攻撃」について、米大統領は再びビビったようだ。7月31日、キャンプ・デービッドで開かれた「閣議」で「我々は彼らに非常に激しい打撃を与えることになるが、いずれどこかの時点で彼らは『もうこれ以上は耐えられない』と言うことになるだろう」と述べたからだ。
ところが、どうだ。翌8月1日には、不思議というべきか、予想通りというべきか、同大統領は「合意のフレームワークが合意に達した」「我々はイランおよびその他の中東諸国から攻撃を控えるよう求められた」などとSNSに投稿。更に3日には、米国と「良い内容の文書に署名」するのはイランにとって「最後のチャンス」だとも述べた。
要するに、ペルシャ湾岸諸国の要請を受け、イランへの攻撃を再び見送り、協議を継続するという、いつもの「言動パターン」を繰り返したのだろう。イラン側も、米側が主張する攻撃停止合意は「新たなウソにすぎない」と軍関係者が反論している。この先も同じ「言動パターン」が続くのだろう、これ以上はアホらしくて書かないが・・・。
今週もう一つ気になったニュースは中国がらみ。日経電子版は中国で「北戴河会議」が始まった模様だと報じている。「北戴河」といえば中国共産党指導部と引退長老らが重要問題を話し合う非公式の会議で、中国版「軽井沢」だと思えば良い。次期指導部を決める党大会は来年秋だから、当然党幹部人事も話し合われるのだろう。
ポイントはズバリ習総書記の4期目があるか否かだが、習氏は22年10月の党大会で「総書記は2期10年」という慣習を破り3期目に入った。筆者個人的には「生涯現役」を貫くのではないかと思う。仮に、今回の北戴河会議で最高指導部の人選などを協議するとしても、政治指導部にあまり大きな変化はないかもしれない。
むしろ気になるのは解放軍幹部の人事だ。習指導部は汚職を理由に党や人民解放軍の幹部の粛清を進めており、中央軍事委員会のメンバー7人のうち、今残っているのは確か2人だけだと記憶する。まあ、本当に機微な情報が簡単に漏れてくるとは思えないが、かと言って、無視もできない。毎年夏になると、中国はこんな具合である。
さて次は、吉岡明子主任研究員によるロシア関連コーナーだが、今週は同研究員がまとめた「9月の選挙に向け“危険分子”の排除が加速――ロシア・メディアより」を以下の通りご紹介する。筆者もロシアの選挙には強い関心があるので興味深く読んだ。
先週、ロシアでは議会下院(国家院)が最後の本会議を終え、いよいよ9月20日の下院選および統一地方選(知事選や地方議会選)に向けた選挙キャンペーンが本格化している。
現在下院には、与党「統一ロシア」以外に4つの野党が議席を持つが、そのいずれもがプーチン体制に基本的には従順な「体制内野党」と称される政党に過ぎない。そもそもロシアでは、反戦を訴えるナジェジュジン氏の運動や「ヤブロコ」など「本当の野党」ともいえる政党は、選挙戦の前に締め出されるのが通例となっている。こうした中、『統一ロシア』は支持率30%前後にとどまっているにもかかわらず、今回も議席数を大きく減らすことなく『勝利』が演出されるものとみられる。
今週は、反体制的政党が選挙戦から如何に「締め出されている」かについて、ロシアの独立系メディア「メドゥーザ」と有力紙「独立新聞」からそれぞれの記事を紹介したい。
なお、記事中で記される「外国の代理人(スパイと同義)」への指定や「過激派シンボルの提示」「ロシア軍に関する“フェイク情報”流布」による拘束は、今のロシアでは反体制派を取り締まる格好の手口となっている。
また、当局から圧力を受ける「ヤブロコ」は1993年に結成されたリベラル系野党。民主主義や人権、法の支配を掲げ、ウクライナ侵攻にも一貫して批判的な立場を取ってきた。支持率は3~4%程度にとどまり、現在は下院に議席を持たないものの、今回の選挙では体制に不満を持つ人々の受け皿になる可能性が指摘されていた。
◆「ナジェジュジン氏への圧力と下院選を“完全な無菌状態”にしたい治安機関」7月15日、メドゥーザ(要約)
7月10日、当局はボリス・ナジェジュジン元下院議員を「外国の代理人」に指定した。彼は2024年大統領選への立候補表明によって大きな注目を集め、署名収集会場には何時間も続く長蛇の列ができた人物である。彼は当時、唯一「反戦」を掲げる候補だった。しかし中央選管は当時、「有効でない署名が多すぎる」として最終的に立候補を認めなかった。
その3日後の7月13日、ナジェジュジン氏はモスクワで拘束された。同日中に釈放されたものの、「過激派シンボルの提示」の行政違反で調書が作成された。2023年11月、自身のテレグラム・チャンネルで故アレクセイ・ナワリヌイ氏の写真が映った動画へのリンクを投稿したことがその直接の理由とされる。しかし、実際には、彼が9月の下院選への立候補を表明したことが背景にあると考えられる。情報源によると、「ナジェジュジン排除キャンペーン」は治安機関(シロヴィキ)の発案とみられる。一方で、大統領府の内政ブロックは、小選挙区からの単独
立候補を予定していたナジェジュジン氏については、「ヤブロコ」に対してほどには危険視していないとの声もある。
その「ヤブロコ」の著名メンバーらは、次々と「外国エージェント」に指定されたりロシア軍に関する「フェイク情報」流布の容疑で逮捕され、地方でも党員らが相次いで有罪判決を下されている。
◆「ヤブロコ、地方における拠点を次々と失う――選管と裁判所がヤブロコの選挙参加を阻止」8月2日、独立新聞(要約)
「ヤブロコ」は、選挙への道を次々と閉ざされているようだ。
カレリア共和国では、ペトロザヴォーツク市議会選でヤブロコの候補者名簿を認めなかった市選管の判断を市裁判所が支持したほか、カレリア共和国議会選でも同党の候補者名簿が取り消され、上訴が続いている。
同党は、サンクトペテルブルクの市選管からも、財務報告書への署名権限の不備を理由に候補者名簿の登録を拒否されている。
今年の州議会選挙で「ヤブロコ」が議席維持の拠点と位置付けていた地域は、サンクトペテルブルク、カレリア共和国、プスコフ州の3地域だった。しかし、登録手続きが先に終わったサンクトペテルブルクとカレリアではすでに候補者名簿が認められず、残るはプスコフ州のみとなっている。
(注:ロシア国家院選挙法では、少なくとも一つの連邦構成主体の議会で議席を持つ政党は、次回国家院選で候補者擁立の際に有権者署名が免除される。そのため、ヤブロコのような野党にとって、今回の地方選は2031年国家院選への足場として極めて重要な意味を持つことが、この記事の背景にある。)
続いては、これも、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。今週は「夏枯れ」のようであるが・・・。
8月4日 火曜日 EU内務大臣会合(リモート)、大量移民問題を協議
イスラエルとレバノンの高官協議(イタリア)
8月5日 水曜日 米州機構常設委員会、ニカラグア問題を協議
台湾、年次軍事演習「Han Kuang 漢光」を実施
8月6日 木曜日 ミャンマー最高指導者、タイ訪問(2日間)
8月7日 金曜日 コロンビア大統領就任式
8月 パキスタンが実効支配するカシミールで議会選挙
最後はガザ・中東情勢だが、先週ハイライトだと書いた「イスラエル米首脳会談」については情報が殆ど洩れてこない。これは「あまり上手く行かなかった」兆候かもしれない。この点については先週のJapanTimesに書かせてもらった。筆者の読みは「二人とも戦略らしい戦略を打ち出せずに、今の時点では何も決められない」というものだ
った。実はこれこそトランプ政権の現状そのものであり、この状態が変わらない限り、戦争の出口は簡単には見出せないだろう。
筆者が懸念するのは、ここに来て、中東におけるすべての交渉の可能性を破壊してきた「和平の敵」が蘇ってくることだ。
中東地域で和平の可能性が出てきた場合に必ず出てくるのが、和平反対強硬勢力による勝手な動き。これが「和平の芽」を摘んでしまうことを今まで何度も経験してきた。
パレスチナとの停戦では、イスラエルの強硬派が必ずと言って良いほど事件を起こす。イランとの話し合いでも、時に革命防衛隊による「関東軍」的暴走によって和平の気運が消えてしまう。
ワシントンの対外強硬派も、イラン、イスラエル、パレスチナの強硬路線を口実にさらなる強硬姿勢を主張する。こうして各国の強硬派は相互に共存共栄する傾向があるのだ。
こういった状況が再び生まれることを筆者は強く恐れている。「狐と狸の化かし合い」は今も続いているようだ・・・・。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
(本稿のポイントの文責:Japan In-depth編集部)
トップ写真)President Trump Arrives At Los Angeles International Airport
出典)Chip Somodevilla / スタッフ / GettyImages



























