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.テクノロジー,.社会  投稿日:2026/8/5

印西市に日本の経済成長の現場を見た


執筆者:杉山大志(キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹)

【本稿のポイント】

・千葉印西変電所は2024年6月5日に運転を開始した、東京電力パワーグリッドにとって24年ぶりの超高圧変電所であり、国内初のデジタル変電所。

・新京葉変電所とを結ぶ地下送電トンネルは、通常調査・設計に2〜3年、施工に6〜7年かかるところ、設計を1年、施工を3年3カ月に短縮。

・印西市周辺では大和ハウス工業の工業団地やGoogleのデータセンターが物流倉庫群と一体化。米国での住民反対とは対照的に、この立地で特に問題はなさそう。

千葉県印西市では、超高圧変電所と地下送電トンネルが急ピッチで整備され、それを支える基盤の上にデータセンターや巨大物流倉庫が次々と誕生しています。この現代インフラの現場は、装飾を排し機能だけを追求した造形美と、急増する電力需要に間に合わせるための粘り強い技術精神に満ちています。「失われた30年」と言われた日本で、至る所に建設が進み新しい産業が育っていくさまを、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山大志氏が記録しました。(Japan In-depth編集部)

 

千葉県印西市のデータセンター集積地を視察する機会があった。データセンターが次々に建ち、それを支える変電所と地下送電線が新設された現場を、ぜひ一度見てみたいと思っていた。

◆国内初のデジタル変電所――千葉印西変電所の実像

最初に案内していただいたのは、東京電力パワーグリッドの千葉印西変電所である。電力需要増に対応するために2024年6月5日に運転を開始した。同社にとって超高圧変電所の新設は24年ぶりとのことである。基幹送電線の通る船橋市の新京葉変電所から電気は送られてくる。ここ千葉印西変電所では27万5000ボルトで受電し、6万6000ボルトに下げて印西市周辺に送電している。変圧器容量は運転開始時に60万キロボルトアンペア(600MVA)。2026年5月に30万キロボルトアンペアを増設し、2027年2月にさらに30万キロボルトアンペアを増設して、最終的には120万キロボルトアンペアとなる計画である。これで原子力発電所1つ分に相当する大電力を扱うことができる。(注1~3)

数字だけを聞くと巨大な設備を想像する。だが、実物は思ったよりもこじんまりとしていた。敷地は約6ヘクタールであり(注4)、だいたい東京ドーム1つ分であるが、それほど巨大ではない。中にある建築物もせいぜい2、3階建て程度の高さである。何より印象的だったのは、外観が実にすっきりしていることである。

私がこれまで見てきた変電所は、鉄骨、碍子、電線などがむき出しで、魚の骨や内臓まで見えているような姿だった。ところが千葉印西変電所では、主要な機器が金属製の容器に収められている。骨や内臓ではなく、魚の形だけが見えている感じである。この千葉印西変電所は、超高圧変電所として国内初のデジタル変電所であるとのことだ。工場マニアの私としては、見た目がすっきりしすぎていて、どうも物足りないが。。。そんなマニアックな感想はどうでもよい。このような現代的な設備では、メンテナンスの手間が大幅に軽減されるという説明であった。なるほど。(注1)

◆地下20メートルの突貫工事――電力洞道を歩く

写真)千葉印西洞道
出典)東京電力パワーグリッド株式会社提供

次に、変電所から地下へ降りた。新京葉変電所から千葉印西変電所までは、27万5000ボルトの地中送電線で結ばれている。主要区間は約10.5キロメートルで、当初2回線で運転を始め、その後2回線を追加し、2027年2月までに計4回線となる計画だ。(注2)

地下20メートルほどまで階段を下りると、真夏なのにひんやりしていた。抱えるほどの太さのケーブルが、薄暗いトンネルのはるか先まで延びている。トンネルの外径は約4.6メートルで、ちょっとした地下鉄を思わせる大きさである。今後はさらにケーブルが増強されるとのことで、これが本格的に送電を開始すればその発熱で内部の温度が上がるため、人が保守作業に入れるように冷却設備も必要になるとのこと。そのための建屋の建設が変電所敷地の一角で行われていた。

この規模のトンネル(電力洞道と呼ばれる)は、通常なら調査・設計に2〜3年、施工に6〜7年ほどかかるという。ところが今回は、設計を1年、施工を3年3カ月に短縮した。5台のシールドマシンを投入し、調査、設計、施工計画を同時並行で進めた結果である。地下深く見えないところで、急激な電力需要の成長に間に合わせるための突貫工事が行われていた。(注5)

地上に戻ると、変電所からの音は殆ど聞こえない。周囲のセミの声や建設工事の音に紛れていたのかもしれないが、変電設備からの騒音を感じることはなかった。

◆物流倉庫群に溶け込むデータセンター

変電所の周辺には、大和ハウス工業が開発した約42ヘクタールの工業団地「D-Project Industry千葉ニュータウン」が広がる。そのうち約27ヘクタールが、14棟、総延床面積約33万平方メートルのデータセンターを整備する計画の「DPDC印西パーク」である(注6、7)。Googleも2023年に、日本で初めての自社データセンターを印西市に開設した。(注8)

近隣のデータセンターを外から見ると、数階建ての巨大な建物で、窓は少なく、外壁には空調設備などが並んでいる。見るからに現代の工場である。しかし、周囲には同じように巨大な物流倉庫がずらりと並び、大型トラックが出入りしている。データセンターだけが突出しているわけではない。

米国では、データセンターの電力・水使用や騒音への懸念から、地域住民の反対が強まっている。(注9)日本でも住宅地や駅前に巨大施設を建てれば摩擦は起こりうる。だが印西では、巨大な物流倉庫が並ぶ地域の中に、データセンターも変電所も溶け込んでいる。この立地ならば特に問題はなさそうだ。

◆成長する電力需要と「失われた30年」からの転換

私たちは毎日、検索をし、クラウドを使い、ネットで買い物をする。家に居ながらにして、この便利さを享受している。だがその舞台裏には、データセンターがあり、商品を動かす物流倉庫があり、それに電気を届ける変電所と送電線がある。

東京電力パワーグリッドによれば、千葉ニュータウン地域の2027年度の電力需要は2017年度の6倍に達する見通しである。さらに同社管内全体では、データセンター新増設に伴う契約電力(見込みを含む)が2034年度に約1040万キロワットに達する見込みで、今後も変電所の新設などの増強工事を行うとしている。(注1、10)

日本では「失われた30年」と言われ、工場については閉鎖や海外移転の話ばかりを聞いてきた。ところが印西では、至る所で建設が進み、新しい産業のための設備が次々に誕生している。AIの利用が広がれば、データセンターの需要はさらに増える。それを支える電源と送配電網への投資も必要になる。

巨大な物流倉庫群、データセンター、変電所、そして地下を走る超高圧送電線。印西市で私が見たのは、日本の経済成長が起きている、そのど真ん中の、わくわくする現場であった。

参考文献

注1 東京電力パワーグリッド株式会社「世界を魅了するINZAIの激増する電力需要を支える挑戦」『東京電力報』2024年7月30日。 https://www.tepco.co.jp/toudenhou/pg/1668074_9043.html(最終閲覧日:2026年7月27日)

注2 東京電力ホールディングス株式会社「主要な送変電設備整備計画」(2024年度末現在)。 https://www.tepco.co.jp/corporateinfo/illustrated/electricity-supply/network-facility-plan-j.html(最終閲覧日:2026年7月27日)

注3 電力広域的運営推進機関『2026年度年次報告書 供給計画の取りまとめ』2026年3月30日。 https://www.occto.or.jp/assets/houkokusho/2026/2026_nenjihoukokusho/nenjihoukokusho_2026_kyoukyuukeikaku_260330.pdf(最終閲覧日:2026年7月27日)

注4 千葉日報「東電、印西に新設変電所 データセンター需要増に対応 トンネル10キロ突貫工事 6月稼働へ」2024年5月16日。 https://www.chibanippo.co.jp/articles/1225345(最終閲覧日:2026年7月27日)

注5 日本建設業連合会「千葉印西エリア洞道新設工事」『日建連表彰2025 第6回土木賞』。 https://www.nikkenren.com/doboku/prize/award/assets/2025/bJueeoNqhUOvFwGGxriGwxd/main.pdf(最終閲覧日:2026年7月27日)

注6 大和ハウス工業株式会社「D-Project Industry千葉ニュータウン」。 https://www.daiwahouse.co.jp/business/jigyo/chiba.html(最終閲覧日:2026年7月27日)

注7 大和ハウス工業株式会社「データセンターブランド『DPDC(ディープロジェクト・データセンター)』始動」2022年3月30日。 https://www.daiwahouse.com/about/release/house/20220329190642.html(最終閲覧日:2026年7月27日)

注8 Google Japan「千葉県印西市にデータセンターを開設」2023年4月13日。 https://blog.google/intl/ja-jp/company-news/inside-google/data-center-in-inzai-city/(最終閲覧日:2026年7月27日)

注9 Jeffrey M. Jones, “Americans Oppose AI Data Centers in Their Area,” Gallup, May 13, 2026. https://news.gallup.com/poll/709772/americans-oppose-data-centers-area.aspx(最終閲覧日:2026年7月27日)

注10 東京電力パワーグリッド株式会社『東京電力パワーグリッド株式会社の現状と今後について』2026年4月、20頁。 https://www.tepco.co.jp/about/ir/bond/pdf/PG260406-j.pdf(最終閲覧日:2026年7月27日)

【よくある質問(FAQ)】

Q1:「デジタル変電所」とはどのようなものですか?
A:変電所の主要な機器を金属製の容器(GIS:ガス絶縁開閉装置など)に収め、鉄骨や碍子、電線がむき出しになる従来型の変電所と異なり、外観がすっきりとした構造を持つ現代的な変電所です。機器を保護することでメンテナンスの手間が大幅に軽減されるとされています。

Q2:「電力洞道」とは何ですか?
A:地下深くに掘られた、送電ケーブルを収めるための大型トンネルのことです。記事で紹介されている洞道はトンネルの外径が約4.6メートルあり、地下鉄のトンネルに近い規模を持ちます。将来的にはケーブルの発熱による温度上昇に対応するため、冷却設備も必要になります。

Q3:「シールドマシン」とはどのような機械ですか?
A:地下にトンネルを掘削するための大型の掘進機です。円筒形の刃で地盤を掘り進めながら、トンネルの壁面を同時に構築していきます。今回の工事では5台が投入され、調査・設計・施工計画を同時並行で進めることで、工期の大幅な短縮につながりました。

Q4:「キロボルトアンペア(kVA)」とはどのような単位ですか?
A:変圧器などが扱うことのできる電力の容量(皮相電力)を表す単位です。記事の千葉印西変電所では、運転開始時に60万キロボルトアンペア(600MVA)の容量を持ち、増設を経て最終的に120万キロボルトアンペアとなる計画です。数値が大きいほど、より多くの電力を扱えることを意味します。

Q5:記事に出てくる「契約電力」とは何を指しますか?
A:電力会社と需要家(企業など)との間で、あらかじめ契約によって定められる最大使用電力のことです。記事では、東京電力パワーグリッド管内のデータセンター新増設に伴う契約電力(見込みを含む)が2034年度に約1040万キロワットに達する見通しであるとされ、今後の電力インフラ増強の規模を示す指標として使われています。

(本稿のポイント、リード、中見出し、FAQの文責:Japan In-depth編集部)

■シリーズ紹介

エネルギー・環境問題の現場と政策の最前線を、鋭い視点で切り取る杉山大志によるコラムです。私たちの暮らしと社会の行方を左右するエネルギー・環境をめぐる動きを、わかりやすく読み解きます。

▶︎[杉山大志氏による記事バックナンバーはこちら

トップ写真)印西変電所(空撮)

出典)東京電力パワーグリッド株式会社提供




この記事を書いた人
杉山大志キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

【学歴】


1991年 東京大学 理学部物理学科卒業


1993年 東京大学大学院 工学研究科物理工学修士了


【職歴】


1993年~2017年 財団法人 電力中央研究所


1995年~1997年 国際応用システム解析研究所(IIASA)研究員


2017年~2018年 一般財団法人キヤノングローバル戦略研究所 上席研究員


2019年~ 一般財団法人キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹


2019年~ 慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 特任教授

杉山大志

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