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.政治  投稿日:2017/1/3

朝日新聞と久米宏の天皇発言政治利用 その3


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

■久米氏の幼児めいた独善

久米宏氏は「日本国憲法がいまの日本が世界に誇れる唯一のものだ」と語る。「日本という国があってよかったな、と世界の人が思ってくれる要素」が日本の憲法なのだという。「ウォークマンは作ったりしたけれど、こういう憲法が世界への自慢のタネの宝もの」なのだという。

久米氏の言に従えば、いまの日本国憲法はいかにも日本が独自の叡智により、ウォークマンを作ったように、自分たちで作りあげたかのような印象になる。だが現実には日本国憲法は日本を占領していた米軍司令部の将校たちにより10日間ほどで作られたのである。しかも当時のその最大目的は日本を永遠に非武装として、半国家の状態につなぎとめておくことだった。

久米氏はさらに全世界が日本の憲法を礼賛するかのような言葉を連ねているが、現実には自国の防衛の権利や義務を曖昧にしたままの日本憲法を模範にしたいと願っている国など世界のどこにも存在しない。たとえばイスラエルが日本国憲法が意図するのと同じ事実上の非武装という選択肢を選んだとき、その前途は周辺のアラブ諸国に滅ぼされての亡国であろう。

もちろん久米氏でも誰でも、自分の政治主張を述べることは自由である。だが天皇陛下のご発言が自分の持つのと同じ政治主張なのだと断じればプロパガンダとなる。いや証拠もなく、理屈もなく天皇の発言を自分の政治主張の拡散に利用するという点ではデマゴギーとさえいえるだろう。

久米宏氏はいま自分の持つ民放ラジオの番組で天皇のご発言を憲法改正への反対表明がその本当の意図だったのだという「解説」をしたようである。

そう推測して久米氏のそのラジオ番組を検索してみたらすぐに判明した。

久米氏がTBSラジオで毎週土曜日に放送している「久米宏ラジオなんですけど」というトーク番組だった。その8月27日分の「改めて天皇陛下のお言葉について」というコメント部分で前記の趣旨を確かに語っていた。久米氏自身の言葉として以下のような内容があった。

「僕の勝手な解釈ではあるが、天皇はこの発言で『いまの憲法を守って欲しい』『憲法改正には反対だ』『戦争には反対だからいまの新しい憲法を守って欲しい』ということを(国民に)伝えたかったのだと思います」

「このご発言で天皇は『象徴』という言葉を八回も使われた。『象徴』というのは明治憲法にはなく、いまの憲法で初めて出てきた言葉だから、その言葉を何度も使ったことはいまの憲法を守って欲しいという意味でしょう」

久米氏は明白に天皇の発言を「憲法改正に反対」という意思表示だと断定しているのである。つまり天皇は安倍晋三政権や自民党の憲法改正への動きには反対だと断じるのである。

久米氏本人もその断定の根拠は前記の推測ゲームのような思いこみしかないことを認めてはいた。それにしても天皇が「象徴」という言葉を何度も使われたから憲法改正には反対だ、という理屈はあまりに幼児めいて響く。

同時に「戦争に反対」だから「いまの憲法を守れ」という結びつけも、日本共産党もどきの虚構の政治プロパガンダを思わせる。日本の自衛の必要は一切、無視しているからだ。防衛力の強化が戦争の抑止につながるという国際安全保障の現実を無視しているといえる。 

久米氏のレトリックはそのうえで憲法改正は日本がしなくてもよい侵略戦争を始めることがその動機であるかのように断じるのである。

久米氏はこうしたいかにも偏向した憲法への独善的な自分の意見を天皇の発言がそれと同じなのだ、と事実をねじ曲げているのだった。

ラジオはいうまでもなく公共の電波としての国民共有の公共財である。特定の機関が政府からの認可を得て独占使用するわけだ。だから、その使用には当然、公共性を守ることの義務がともなう。放送法の規定がその一端だろう。そんな公共のコミュニケーションの手段をこんな政治的プロパガンダの拡散に利用してよいはずがない。

久米氏の場合、公共財のラジオと、天皇陛下のお言葉と、その両方の政治利用ということになる。自分の政治的な主張の宣伝に利用していることが明らかだからだ。

(その4に続く。毎日18時配信。全4回。この記事は月刊雑誌「WILL」「久米宏の『妄言』ダシに 朝日の姑息な『天皇利用』」2017年1月号掲載からの転載です)


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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