続く国際テロ、世界は予測不能な時代へ
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー ♯1(2017年1月2日-8日)」
謹賀新年、今年も本コラムを宜しくお願い申し上げる。希望に満ちた2017年になればと言いたいところだが、新年早々、トルコとイラクでテロが起きてしまった。本年も中東でこの種のテロ攻撃が続くだろうことは容易に想像できる。問題はこのような想像可能、予測可能な事件ではなく、予測不能な事象を如何に予測するかだろう。
振り返ってみれば、昨年は予測不能と思われたことが次々と発生した。BREXIT然り、トランプ候補当選然り、だ。曲がりなりにも国際情勢分析を生業としている以上、自らの予測が外れたら、その理由を詳細に分析し、将来に備えるのが職業人の最低限の責任だ。という訳で、今年のテーマは如何に「Unthinkable」を考えるかである。
要するに、Unthinkableとは結局、人間の「五感」で把握できないことを言うのだろう。一般に五感とは視覚、聴覚、触覚、味覚、臭覚をいう。されば、今年の命題は、将来起こりそうもないが起こり得ることを見たり、聞いたり、触れたり、味わったり、匂いを嗅いだりすることで、何とか予測できないかということだ。これを第六感というのだろう。さてどうしたものか。一年かけて考えてみたい。
〇欧州・ロシア
4~8日に日本の防衛相がベルギー・仏を、5~11日には外務大臣が仏、チェコ及びアイルランドをそれぞれ訪問し、6日には日仏外務・防衛担当閣僚協議、いわゆる「2+2」がパリで開かれる。しかし、これで欧州が新年明けで仕事を再開すると思ったら大間違いだ。
欧州ではまだクリスマス休みが続き、EU関係の会議は始まらない。何故なら、いわゆる「正教会」系のキリスト教では1月7日がクリスマスだからだ。ちなみに、この日程はエジプト等のコプト系クリスチャンも同様である。これだけ見ても、欧州の統合が如何に困難かが分かるだろう。
〇東アジア・大洋州
6日にキルギス大統領が訪中し、中国・キルギス・ウズベクを通る鉄道建設計画のルートと融資について中国側と話し合う。6~8日には本年最初の党中央政治局会議が開かれ、今年10月の党大会に向けて政策と人事が動き出す。中国でのUnthinkableとは何か、今からよく考えておく必要があるだろう。
〇中東・アフリカ
3~7日にトルコの議会が大統領権限の拡大に関する憲法改正案について審議を始めるという。エルドアン大統領がプーチンのような統治を目指しているのだとしたら、年頭のようなテロ事件が終焉する可能性はほとんどない。トルコでのUnthinkableはエルドアン失脚だろうが、昨年のクーデター事件でその芽はなくなったのか。
〇南北アメリカ
トランプ次期大統領が相変わらずツイッターで情報を流している。大統領就任後もこれが続けば、米国政府の方針の対外発信はいったいどうなるのだろう。既存の官僚組織に対する不信は理解できるが、このままで大丈夫なのか。また、情報機関と新大統領との関係も微妙だが、こんな状態でトランプ政権は機能するのか、心配だ。
一方、7~15日の日程で台湾の総統がグアテマラ、ニカラグア、エルサルバドルとホンジュラスを訪問し、乗り継ぎでヒューストンとサンフランシスコを訪れる。普通なら何も起こらないだろうが、今年はどうだろうか。トランプ大統領就任の直前だけに、トランプ陣営の動きが気になるところだ。
〇インド亜大陸
2~8日、インド国民議会派がモディ首相の急激な通貨改革に反対し抗議デモ等を行うという。モディ首相としては状況の打開を目指して思い切った挙に出たのだろうが、まだ混乱が続いているらしい。インドの安定を期待したい。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。