日米首脳会談、サプライズ無し
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー#06(2017年2月6-2月12日)」
今週のハイライトは2月10-11日の安倍首相の訪米だろうが、その頃、筆者はロシアのモスクワからエストニアのタリン、更にはフィンランドのヘルシンキに出張しているはずだ。申し訳ないが、今回の日米首脳会談に大きなサプライズはないと思う。トランプ氏の世界観、戦略観が朧気ながら見えてきたからだ。
それでも、気は抜けない。トランプ氏が今後4年間、これまで通りの「選挙モード」を続け、かつ、民主党系の友人が言うようなNPD(Narcissistic personality disorder:自己愛性パーソナリティ障害)的傾向を持ち続けるのだとすれば、その衝動性、直情性が故に、貿易問題などの文脈で日・中を等しく批判する可能性は今後も十分あるからだ。
しかし、ある米国の戦略家は「戦略の基本は同時に二つの敵と対峙しないことだ」と言った。トランプ氏が中露のどちらを第一の仮想敵国と見るかは不明だが、東アジアで日中二国と同時に敵対する選択肢はない。トランプ政権の対中警戒感がオバマ政権以上だとすれば、日米関係を悪化させる可能性は低い。
先週のマティス国防長官の訪日でもサプライズはなかった。米側は従来通り、言うべきことを言い、日本側も従来通り、然るべく答えただけ。日本側は「安堵した」と報じられたが、「安堵」よりは「予想通り」だろう。やはり、トランプ氏の選挙中の発言は世界中の同盟国にとって「トラウマ」のようだ。
〇欧州・ロシア
今週も欧州諸国の動きは活発だ。6日にはイスラエル首相が訪英、8日にはドイツ首相がポーランドを訪問する。ポーランドは、万一、トランプ氏の主張通り、シリアでの米ロ協力によるイスラム国掃討作戦の引き換えに米国が対露経済制裁の解除に動けば、真っ先に影響を受ける国だ。ドイツの動きも要注意だろう。
〇東アジア・大洋州
6日から韓国大統領に対する検察の尋問が始まる可能性がある。それにしても、韓国外交は機能停止ではないか。トランプ氏が当選し、世界が大きく動き始める中で、韓国だけが動かない、というか、動けない。現在の韓国は、民主主義というシステムの運用が如何に難しいかを示す好例ではないかと思う。
〇中東・アフリカ
6日、ロシア代表団がシリアを訪問する一方で、シリアの反体制派がトルコを訪問する。同時に、アスタナではロシア、イラン、トルコの代表がシリア停戦問題を議論する。しかし、アスタナ会議に欧米諸国は参加できない。ロシアとイラン主導のシリア停戦にトルコが乗る構図だが、米国も足元を見られたものだ。
〇南北アメリカ
トランプ氏とその周辺は相変わらず「キャンペーン」を続けている。イスラム系7か国からの入国を制限する大統領令について、連邦下級審が差し止めを命じたのに対し、トランプ氏はツイッターで当該裁判官に対する個人攻撃を行った。これまでの米国の常識が崩れていくのか、それともトランプだけの現象なのか。
〇インド亜大陸
特記事項なし。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。