蘭総選挙・与党右派阻止に疑問符
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2017#12(2017年3月20-26日)
今週は安倍晋三首相の欧州歴訪が予定されている。今回ほど欧州諸国首脳が、「日本の首相は何を言うか」に強い関心を持つことはなかったのではないか。混乱する米トランプ外交の中で、対アジア、対日外交だけが大きなサプライズもなく、まともに動き出しているように見えるからだ。
だが、個人的には先週15日のオランダ総選挙の結果の方に関心がある。日本の有力紙は蘭現与党が下院第一党を維持したことで、「オランダ『寛容』守る」、「右派阻止、EUから賛辞」などと手放しで評価していた。本当にそうなのか。先週指摘したように、オランダ与党はトルコとの軋轢を政治的に利用した。
あれだけの「劇場政治」をやったにもかかわらず、ルッテ首相率いる自由民主党は議席数を7も失った。逆に言えば、先週トルコが騒がなければ、もっと極右が台頭していたかもしれないのだ。政権与党は辛うじて主導権を維持した、と言えないこともない。事態はより複雑かつ深刻なのではないのか。
選挙といえば、26日に香港行政長官選挙が投開票される。中国指導部のお気に入り「本命」の前政務長官キャリー・ラム女史に反対する人が学生を中心に増えつつあると報じられた。気持ちは判るが、今の香港で真の民主的選挙が行われる可能性は限りなく低い。恐らく状況は今後更に悪化するのではないか。
〇欧州・ロシア
20日に日露2+2会合が開かれた。この数週間で米国の国防長官、国務長官が相次いで訪日し、今度はロシアだ。これで日露関係が進展するとは思えないが、こんな会合が開かれること自体、時代の流れを大いに感じる。領土問題とは別に、こうした日露対話を積み重ねることは、やはり重要だろう。
〇東アジア・大洋州
今週はアジアの域内外交が活発だ。19-22日にフィリピン大統領がミャンマーとタイを訪れ、イスラエル首相と5閣僚からなる代表団が訪中する。21-24日にはシンガポール首相がベトナムを訪問し、22-29日には中国の国務院総理がオーストラリアとNZを訪問、23日からは中国海南省でボーアオ会議が開かれる。
〇中東・アフリカ
25-26日にOPEC諸国が会合を開く。前回の会合で決めた減産を継続するか否かを議論するというが、シェール革命後の原油グラットの中で価格を高値安定させるのは難しい。このことは1980年代の経験で分かっている筈なのだが、大丈夫なのだろうか。
一方、22日には米国務長官がイスラム国打倒のため関係国との会合を主催するそうだ。それにしても、国務省職員は可哀想だと思う。副長官も次官も決まらず、国務省予算は大幅減。報道によれば、一部外国は国務長官をバイパスして、トランプ氏の娘婿に会おうとしているそうだ。国務省は未だ正常ではない。
〇南北アメリカ
今週はCNNを見ながらこの原稿を書いている。間もなくFBI長官が議会下院の情報委員会で証言し、その後、次期最高裁判事候補の議会承認手続きも動き始めるからだ。トランプ氏が「オバマ大統領がトランプタワーの盗聴を命じた」とツイートしてから2週間経った。米国内政の混乱はまだまだ続きそうだ。
〇インド亜大陸
中国国防部長がネパールとバングラデシュを訪問するが、一体何が目的なのだろう。ちょっと気になるところだ。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。