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.国際  投稿日:2017/2/14

日米関係「出だしは上々」


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー#07(2017年2月13-19日)」

あの前例のない日米首脳会談関連行事がワシントンとフロリダで行われていた頃、筆者はバルト三国の一つエストニアの首都タリンにいた。前回書いた通り、首脳会談でサプライズは予想しなかったのだが、トランプ氏があれほど上機嫌に振舞うとは思わなかった。関係者の努力の賜物だ。本当にお疲れ様!

それでも北朝鮮がミサイルを発射した後の12-13日には、東京から何本か電話取材が入った。普通なら情報不十分とお断りするところだが、今回はCNNがトランプ氏の「偉大な同盟国日本を100%支持する」発言を何十回も報じていたので、違和感なくコメントすることができた。これまた異例というしかない。

今回の首脳会談のポイントは三つある。詳しくは読売新聞電子版に掲載されているが、第一は日米同盟、特に安保条約第5条の防衛義務の尖閣諸島適用を首脳レベルで確認したことだ。米国の中国に対する厳しい姿勢を暗示するような重要な流れである。

第二は自動車など二国間個別経済事項で麻生副総理とペンス副大統領が主導する新たな経済対話の枠組みを作ったことだ。ここで貿易問題を粛々と協議することができれば、トランプ氏の衝動的発言による影響が少なくなり、経済問題でも不確実性の低下が期待されるだろう。

最後は首脳レベルの意見交換が親密かつ長時間にわたって行われることだ。初の公式会談としては前例がないほど長い。通常であればじっくり話せないような世界各地の政治経済情勢についても、突っ込んだ意見交換を行うことが十分可能だ。日米首脳会談の過去を知るものにとっては隔世の感すら感じる。

少なくとも日米関係について、トランプ氏は「選挙」モードから徐々に「統治」モードに移行しつつあるのだろう。結構なことだ。日米首脳会談直前の米中首脳電話会談も歓迎すべきである。新政権の対アジア政策が予想よりはサプライズの少ない、より現実的なものとなりつつあるのなら大歓迎だ。

もちろん、トランプ政権の対外政策が今後とも「選択的」である続ける可能性はある。衝動的、直感的な発言を続けるトランプ氏に振り回される可能性も排除されない。しかし、他国に比べれば、トランプ政権下での日米関係の「出だしは上々」といえるのではないか。

 

〇欧州・ロシア

16-17日にG-20外相会合がドイツで開かれる。ティラーソン国務長官にとってはデビュー戦となる。17日からはミュンヘンで恒例の安全保障会議がある。ここでトランプ政権が NATOについて何を言うかが焦点となる。エストニアにとっては正に自国の安全保障にも直結する話だ。

一方、ロシアは着々と手を打ちつつある。14日にはトルコと外務次官級の協議を行い、15日にはアフガニスタン関係の国際会議を、15-16日にはアスタナで再びシリア問題に関するトルコ、イラン、ロシアの会合が開かれる。トランプ政権が動き出す前に既成事実を作ろうとしているのだろうか。

〇東アジア・大洋州

14日に香港の次期行政長官選びが始まる。とはいっても完全な公選ではなく、職域組織や業界団体代表による制限的間接選挙であり、最終的な任命権は国務院が持っている。一方、香港といえば、最近中国出身の資産家が香港中心部の豪華ホテルから拉致されたという。まだこんなことがまかり通っているのか。

〇中東・アフリカ

シリア問題をめぐってはトルコ外交も活発だ。12-15日にトルコ大統領がサウジ、バハレーン、カタルを歴訪するのもその一環だろう。また、15日にはイスラエル首相がワシントンを訪問する。トランプ政権下で初めての会談だが、米大使館のイェルサレム移転問題が具体的に動けば、どこかで血が流れるだろう。

〇南北アメリカ

イスラム系7カ国からの入国制限に関する大統領令が確かサンフランシスコの連邦控訴審で「違憲」とされたことを受け、トランプ政権は新たな措置の導入を考えているらしい。内政では相変わらず「選挙モード」を続けているようだ。一方、外交面では12日にカナダの首相がトランプ氏と会談する。

〇インド亜大陸

特記事項なし。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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