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.経済  投稿日:2017/4/20

変われるかギンザ 試される集合知


安倍宏行(Japan In-depth 編集長・ジャーナリスト

「編集長の眼」

【まとめ】

・銀座地区でエリア最大の商業施設「GINZA SIX」開業。

・脱百貨店を標ぼう、不動産事業に注力。

・周辺地区との連携や情報発信機能強化が課題。

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■圧倒的な規模と「脱百貨店」

20日、銀座にエリア最大の商業施設が誕生する。その名も「GINZA SIX(ギンザシックス)」。もともと老舗デパート松坂屋(注1)があったところだ。銀座中央通りに面する銀座6丁目が名前の由来だ。J.フロントリテイリング、森ビル、L キャタルトン リアルエステート、住友商事の4社が出資したGINZA SIX リテールマネジメントが運営する。

目玉は、このエリア最大規模約47,000㎡の再開発であること、老舗デパート「松坂屋」の名前が消えたことであろう。確かに道路をまたいだ2つの街区約1.4haを一体的に再開発、訪日外国人旅行者を想定した観光バス乗降所も設置され、規模感は誰の目にも明らかだ。

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さて2つ目だが、敢えて「GINZA SIX」という名前に変えたことについて、J.フロント リテイリング株式会社の山本良一社長はかつて、「松坂屋跡地の再開発にあたり、百貨店をやらない、という決断を致しました。時代と共に変革を遂げてきた銀座の地において必要なのは、今の百貨店を進化させるのではなく、誰もが見たこともない、新しい商業施設を作ることだと確信しております。」と述べている

「新百貨店モデル」、「脱百貨店」などと言われるが、241の世界ブランドが出店していることや、6つのラグジュアリーブランドのフラッグシップ店が2~5層の大型メゾネット店舗を構えていることなどを見る限り、従来のデパートと何が違うのかよくわからないというのが正直なところだ。

■森ビルが参画している意味

ただ、本プロジェクトに森ビルが参画していることで、幾つか脱百貨店的な特徴は垣間見ることができる。建物内の巨大な吹き抜けの天井から吊り下げられた前衛芸術家草間彌生氏作の巨大アートは否が応でも目を引くし、日本の伝統文化を発信する文化・交流施設として「観世能楽堂」が地下に設置されたことなどがそれだ。アートを中心とした情報・文化発信機能が都市の魅力につながることを理解し、実践してきた森ビルならではの提案だ。また、非常用発電設備や帰宅困難者3,000名の受け入れに備えた防災備蓄倉庫の整備などにも六本木ヒルズや虎ノ門ヒルズで磨いた森ビルの防災ノウハウが活きている。

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■求められる情報発信機能

三越伊勢丹ホールディングスの苦境などを見るにつけ、確かに従来の百貨店モデルの限界は明白だ。だからこその「脱百貨店モデル」だろうが、大艦巨砲主義でどうにかなるものでもあるまい。「GINZA SIX」施設内には都内最大級の1フロア貸室面積(約6,140㎡)を有する大規模オフィスが入る。不動産業に重点を置いたビジネスモデルと言え、確かに収益性は改善するだろう。しかし、入居した各テナントの売り上げが伸びることが大前提であることには変わりはない。

通りを隔てて反対側にはユニクロやGU、新橋寄りには家電以外に時計やジュエリーなども扱う、ラオックス銀座本店もある。もはや銀座はかつての銀座ではなくなっている。“ラグジュアリー”だけで客を引きつけるのは年々難しくなっている。訪日外国人旅行客の数は増え続けているが、一人当たり消費客単価は下がっており、売り上げ確保は簡単ではない。

だからこそ六本木地区で気を吐く森ビルは、芸術・文化などを核に情報発信機能を長年かけて磨いてきた。多くの若者や家族連れが多数詰めかける「六本木アートナイト」などはその最たるものであろう。人を集めるには「モノ」だけでは不十分で、「コト」消費が重要なのだ。まるで引き寄せられるように人々が集い、楽しみ、消費する。そうした街作りが今求められているのだが、銀座地区に欠けているのはそのために鍵となる“情報発信機能”である。

具体的に見ると、デパートが集中する銀座中央通り沿いと、有楽町マリオンや有楽町イトシア、東急プラザ銀座などがあるJR東日本有楽町駅・数寄屋橋交差点周辺は連携しているとはいいがたい。さらに言えば、日本橋地区、丸の内周辺などとの面連携も不十分だ。虎ノ門から新橋方面に整備中の通称“東京のシャンゼリゼ”「新虎通り」なども今後整備が進むが、銀座地区とどう繋げるか、具体的なアイデアはまだ見えてこない。こうした他地区と銀座地区を世代を問わず、人々が自由に回遊できるようになったら大きな経済効果が生まれるだろう。

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おりしも、3年後の2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催され、会場が近い銀座には今以上の訪日外国人観光客が詰めかけるだろう。世界中の人々を今以上に“GINZA”に引き付けるため、「GINZA SIX」の果たすべき役割は大きい。しかし、単独でそれを成し遂げることは不可能だろう。銀座地区全体がどうコラボレーションして街全体の魅力を高めていくか、各プレーヤーの集合知が試されている。

(注1)2007年に(株)大丸と(株)松坂屋ホールディングスが共同持株会社「J.フロントリテイリング(株)」を設立し、経営統合した。2010年には(株)大丸と(株)松坂屋が合併し、(株)大丸松坂屋百貨店が誕生している。

TOP画像:GINZA SIX4月20日開業(外観)GINZA SIX オフィシャル画像

文中画像:上から、行列の様子 GINZA SIX オフィシャル画像

観光バス乗降所、草間彌生の新作インスタレーション、観世能楽堂、meat & green 旬熟成、パティスリー パブロフすべてⓒJapan In-depth 編集部 画像

 


この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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