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.国際  投稿日:2017/8/8

北朝鮮、次は核実験 制裁の効果乏しく


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2017#32(2017年8月7-8月13日)

【まとめ】

・北朝鮮制裁決議が国連で採択さる。

・ヒトモノカネの動きは完全には止められず効果は期待できず。

・このままでは北朝鮮は核実験に動くであろう。

先月末の北朝鮮による2度目のICBM発射実験を受け、NY時間で8月5日の午後に安保理公式会合が開催され、従来の制裁措置を強化し北朝鮮との間のヒト、モノ、カネの流れを更に厳しく規制する決議第2371号全会一致で採択された。今回は中露が日米間に歩み寄った結果とされるが、本当だろうか。

同決議採択につき河野太郎新外務大臣は6日夜マニラで、「前回と比べ早く採択できた、日米が緊密に連携を出来た成果だ、実行されれば北朝鮮ミサイル開発に流れていた資金を相当止めることが出来る、各国の完全実行が大事だ」などと述べたらしい。まあ、公式見解としてはそんなところなのだろう。

それよりも決議の主要項目を具体的に見ていこう。まずはカネとヒトだ【括弧内は筆者の独り言】

資産凍結の対象として新たに9個人と4団体、入国・領域通過禁止の対象として新たに9個人を追加指定する。【北朝鮮人ばかりで中国人は対象ではない】

②北朝鮮の「国民」に発給する労働許可の総数が決議採択時の総数を超えることを禁止する。【今働いている北朝鮮人は国外追放しないということか】

③北朝鮮の団体・個人との合弁企業等の新規設立及び既存の合弁企業に対する追加投資を禁止する。【これまでの膨大な投資は不問に付すということか】

続いてモノと海上輸送だ。

北朝鮮からの石炭、鉄及び鉄鉱石の輸入を禁止する。【どうせ密輸される】

⑤北朝鮮からの海産物、鉛及び鉛鉱石の輸入を禁止する。【同上】

⑥制裁委員会が指定する船舶による加盟国への入港を禁止する。【ロシアがちょっと困るかな】

この程度なら北朝鮮はまだ生きていける。中朝間の長い国境を跨いだ密輸にメスを入れるには制裁対象の個人・団体を北朝鮮人以外にまで広げる必要があるだが、そんなことを共産党党大会が開かれる2017年に中国ができる訳はない。恐らく、北朝鮮は次に核実験を本気で考えているだろう。

 

欧州・ロシア

欧州大陸は開店休業、完全にサマーバケーションモードだが、ロシア外相は仕事をしている。8日までにマニラで米国務長官らと会談した後、9-10日にインドネシアとタイを訪問する。

12日にロシアが肝いりで始めたInternational Army Gamesが終了する。各国軍同士の国際競技会のようなものだ。今回は第三回目、アゼルバイジャン、ベラルーシ、カザフスタンと中国が主催国で、28カ国が参加したという。同日、ジョージアとNATO諸国の共同演習も終了する。勿論偶然ではなかろう。

 

東アジア・大洋州

5-8日にマニラで恒例のアセアン外相会議アセアン地域フォーラムなどが開かれる。米国務長官は8日からタイとマレーシアを訪問する。9日にはカンボジア首相が訪日する。12日にはグアムのアンダーセン空軍基地を中心に2週間行われた対潜作戦演習が終了する。日米・NZ三国が参加した対潜水艦共同訓練だ。

 

中東・アフリカ 

7-8日にアブダビでOPEC・非OPEC産油国が減産合意について話し合う。同時期、カタルではトルコ軍とカタル軍の共同訓練が行われる。8-9日にはロシア、イラン、トルコ三国がシリアについて話し合う。この暑い時期にご苦労様であるが、シリア問題で解決の糸口は全く見えない。

 

南北アメリカ

ロシアゲートを捜査している特別検察官が3日ワシントンで大陪審を選出した。日本ではあまり大きなニュースになっていないが、米国では更にトランプファミリー包囲網が狭まったという印象を与える事件だろう。

そもそも、大陪審とは一般市民から選ばれた陪審員で構成される組織だが、彼らは日本のような裁判員ではない。陪審員の仕事は有罪か無罪かの審判ではなく、検察官が提出した証拠を審査し、被疑者が「起訴に値するか否か」を決めるだけだ。

それでも、必要があれば、事件に関わる人物や資料などにつき召喚状を出したりすることもできるはず。そうなれば、ロシアゲートは増々1972-74年のウォーターゲート事件に酷似してくる。これからワシントンには暑い暑い夏がやってくるかもしれない。

 

インド亜大陸

パキスタンで8月1日、前石油・天然資源相が首相に選出されたが、これは最高裁判所から汚職疑惑で議員資格を剥奪され辞任したナワズ・シャリフ前首相に代わり、同前首相の実弟が首相就任失格を得るまでの繋ぎ的措置らしい。確かに、前首相率いる与党は下院で圧倒的多数を占めているのだが、これって何か変ではないか。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ画像:北朝鮮制裁決議を採択する国連安全保障理事会(2017年8月5日) UN Photo/Kim Haughton

 


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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