法人税引下げ後税収増→「不正確」
山口一臣(「THE POWER NEWS」主宰)
自民党の安倍晋三総裁が10月8日午前にNHKの「日曜討論」で放送された「党首討論」で「法人税を引き下げましたが、法人税収は増えています」と発言し、「いわば企業が活性化し、新しい企業も興り、法人税収が増えたことは申し上げたい」と続けた。立憲民主党の枝野幸男代表の「法人税を下げているという状況で、(消費税を)上げられるのか」という問いかけを受けてのことだった。
この安倍氏の発言を翌9日付のしんぶん赤旗が〈“法人税収増えている” 首相が偽りの発言 白書でも指摘“税収下押し”〉という見出しで報じている。
▲しんぶん赤旗 2017年10月9日付け (2面)
記事は〈テレビの党首討論で一国の首相のウソがまかり通るのは許せません〉という書き出しで、安倍氏の発言を〈事実ではありません〉と断定した。根拠として、〈2016年度の法人税収は前年度よりも5000億円減少し、10兆3288億円になりました〉という事実をあげ、さらに、平成29年度版「経済財政白書」に〈(法人税の)実効税率の引き下げが税収の下押しに効いている〉という記述があることも指摘している。
安倍氏の発言は、赤旗がいうように「ウソ」なのだろうか。
法人税の基本税率は、第2次安倍政権が発足した2012年度にこれまでの30%から段階的に引き下げられて、16年度には23.4%になっている。この間の法人税収の推移を見てみる。
12年度=9.8兆円(前年度比0.4兆円増。法人税の基本税率は30%から25.5%へ)
13年度=10.5兆円(基本税率は25.5%)
14年度=11.0兆円(同23.9%へ引き下げ)
15年度=10.8兆円(同23.4%へ引き下げ)
16年度=10.3兆円(同23.4%)
財務省「法人税率の推移」
財務省「一般会計税収の推移」
(16、17年度については未確定の数値)
16年度の税収実績については産経新聞記事
上の数値のとおり、法人税の基本税率を引き下げた12年度から法人税収は増え、段階的に税率を引き下げている最中の15年度からは減少に転じている。16年度は赤旗の記事にあるとおり、5000億円減少して10.3兆円となっている。
以上の事実から、赤旗の記事は不正確なことがわかる。15、16年度の法人税収が減っているのは事実だが、基本税率を下げた12年度に法人税収は増えているし、再引き下げをした14年度も増収となっている。
一方で、安倍総裁の発言も十分な説明かどうかは疑問の余地がある。法人税率を下げ始めた12年度と直近の16年度を比べれば、税収は増えているが、3回目の引き下げをした15年度からは2年連続で法人税収は減っているからだ。説明不足だったと言わざるを得ない。
赤旗が引用した「経済財政白書」には、次のような記述もある。
〈歳入の1割を占める法人税収は、好調な企業収益を背景に2010年度以降前年度比でおおむね増収傾向にあるが2015年度、2016年度は減収となった〉
選挙になると、各党はあらゆるデータを、自分たちの都合のいいように解釈し、演説の材料に使うということなのだろうか。有権者としては注意が必要だ。
【修正】 2017年10月13日(金)10時05分
タイトルに間違いがありましたので修正しました。
修正前: どちらも「不正解」
修正後: どちらも「不正確」
【追加】2017年10月16日(月)15時45分
文中に、しんぶん赤旗の記事(2017年10月9日付け)を追加致しました。
【Japan In-depthは、FactCheck Initiative Japanの総選挙ファクトチェックプロジェクトに参加しています。】
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この記事を書いた人
山口一臣「THE POWER NEWS」主宰
情報発信集団「THE POWER NEWS」主宰。元週刊朝日編集長。記者歴約27年。2016年11月末退社、起業。