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.政治  投稿日:2017/11/9

朝日、ナチスで安倍叩きの愚


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・朝日新聞のコラムが、ドイツの「国家元帥ゲーリング」を安倍首相に重ねて批判を展開。

・安倍首相は「票が増える」とみて実在しない「北朝鮮の脅威」を訴えた、との批判であった。

・そうした態度は、民主主義の審判への冒涜、少数派の独断専行的な認識と呼ぶのが適切だろう。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真の説明・出典のみが残っていることがあります。その場合はhttp://japan-indepth.jp/?p=37038のサイトで記事をお読みください。】

 

 朝日新聞がその独自な主張を発信する際にナチスをよく引用することは、すでに広く知られている。目の前の自分たちが嫌いな政敵を絶対悪とされているナチス・ドイツやヒトラーに重ねて、読者に同一視させようとする狡猾だが幼稚なレッテル手法である。

 

 その朝日新聞が同じナチス・ドイツでもこんどは「国家元帥ゲーリング」を持ち出して、安倍晋三首相に重ねるという極端な筆法をとってきたのに、呆れ果てた。あまりに非現実的、あまりにゆがんだ「安倍叩き」だからだ。こんな手あかのついたナチス利用の方法以外にもう少し説得力のある自民党や安倍氏への批判はできないのか、ともいぶかった。

 

写真)独ニュルンベルクの刑務所に拘置されている

ヘルマン・ゲーリング 1945年12月21日

2 

出典)Harvard Library 

United States Army Signal Corps

 

 朝日新聞の「安倍首相=ナチス」定番の今回の記事は10月30日朝刊の「政治断簡」というコラムだった。見出しは「『脅威』に屈しないリベラルを」とあり、筆者は編集委員の松下秀雄記者となっていた。その趣旨はもちろん自民党非難、とくに安倍晋三首相への悪口雑言に近い非難である。その松下記者のコラム記事のハイライトを紹介しよう。

 

 ≪ナチス・ドイツの国家元帥、ゲーリングはこう語っている。「我々は攻撃されかけている」と訴え、「国を危険にさらしている」と平和主義者を非難すれば、人々は意のままになる。このやり方は、どんな国でも有効だ――

 

 自由な社会でも、狂気の指導者がいなくても、不安に働きかける手法は通用する。

 

 衆院選の光景をみて、この話を思い出し、胃液が逆流するような苦さを感じた。安倍晋三首相は各地の街頭で、真っ先に「北朝鮮の脅威」を訴えた。こんな演説、時の首相から聞いた覚えはない。

 

 むろん戦争をしたいのではなく、票が増えると踏んだのだろう。麻生太郎財務相は自民大勝の選挙結果には「明らかに北朝鮮のお陰もある」と吐露している≫

 

 ゲーリングというのはナチスはナチスでも、100年も前の1918年に終わった第一次世界大戦でドイツ帝国軍のパイロットとして活躍した軍人である。その後、ナチスに加わり、ヒトラー政権の中枢となったが、とにかく古い。

 

だが松下記者はいまの民主主義の日本の安倍首相の言動はそんな100年近く前の帝国ドイツやナチスの軍人と同じだと断ずるのである。

 

 松下記者は今回の総選挙で安倍首相の演説を聞いて、そのゲーリングの言葉を思い出し、「胃液が逆流するような苦しさを感じた」というのだ。本当だろうか。同記者はいつもゲーリングの言葉を胸にして、目の前の日本の政治をみているのだろうか。そしてなによりもこのゲーリングと安倍晋三との重ねあわせが愚の骨頂である。

 

 ヒトラー時代のドイツと、いまの日本と、時代も環境もあまりに異なる。共通項などなにもない。なんの関係もない二人の人物をいま重ねあうのは、ひとえに松下記者の頭の「安倍憎し」のオブセッション(妄念)と思えてくる。安倍叩きのためなら、悪魔でも引き合いに出すという、記者としてのゆがみの結果だろう。

 

写真)第四次安倍内閣発足記者会見を行う安倍首相 

平成29年11月1日

3

出典)首相官邸

 

 しかも松下記者が引用するゲーリングの言葉は自国への「攻撃」や「危険」は実在しないのに、ただ戦争をしたいために煽るのだという意味である。そして安倍首相の説く「北朝鮮の脅威」も実在しないと示唆している。実在しないのに「票が増える」とみて、その脅威を訴えている、というのだ。

 

 松下記者は日本にとっての北朝鮮の脅威は実在しないのに、安倍氏が得票のために、いかにも実在するかのように、ウソをついていると述べているのに等しいのである。だからこそ「胃液が逆流する」というのだろう。

 

 松下記者は日本にとって北朝鮮の核兵器や長距離弾道ミサイルの脅威は存在しない、というのか。自民党が今回の総選挙で大勝したのは、存在しない脅威を存在するとして虚偽の主張を続けたからだというのか。

 

 松下記者のコラムはさらに以下のようなことを結びとして述べていた。

 

 ≪狙いはどうあれ、首相が「北朝鮮の脅威」を叫べば、在日コリアンが敵視されないか。彼らを忘れているのだろうか≫

 

 ≪世界に「自国優先」、白人至上主義に類する「多数派優先」の自己中心政治が広がっている。

 

日本も似たようなものだ。こんな時こそ、多数派か少数派かにかかわらず、一人ひとりの生、自由、人権を大切にしなければ! 不安にあおられ、手放さないようにしなければ!≫

 

 上記もまた混乱した独善の記述と呼ぶしかない。日本全体に迫る「北朝鮮の危機」を在日コリアンなる存在への思惑のために、口にしてはならない? 冗談ではない。在日コリアンといっても韓国系の人たちが多いだろう。いまの「北朝鮮の核の脅威」は日本在住の朝鮮系の人たち全体にも脅威である。しかもその朝鮮系には北朝鮮と韓国系とがあり、韓国がいまの北朝鮮の核武装に脅威を覚えると同様に、在日の韓国系の人たちも懸念を覚えているだろう。

 

 「白人至上主義に類する多数派優先」が日本にも広がるから、個人の自由や人権が侵されると断じる記述も噴飯ものである。日本のどこに白人至上主義の類似があるというのか。そして松下記者は民主主義の基本である多数決の原則をも排してみせる。国民の多数派の意思で国や政府が運営されるという現代の民主主義政治の鉄則が自動的に少数派の個人の自由や人権の弾圧につながる、とも意味しているのだ。多数派を無視して、少数派を優先せよ、と主張するにも等しいのである。

 

 要するに松下記者も朝日新聞も、日本国民の多数派が今回の総選挙で安倍首相の率いる自民党に票を投じ、政権の継続への願望を明示したことがどうにも受け入れられないのだろう。そんな態度は民主主義の審判への冒涜、少数派の独断専行的な認識と呼ぶのがやはり適切のようである。

トップ写真)朝日新聞東京本社 東京中央区

Photo by PRiMENON

 

【訂正】2017年11月11日11:10

本記事(初掲載日2017年11月9日)中、以下の部分を修正致しました。

松下記者は今回の総選挙で安倍首相の演説を聞いて、そのゲーリングの言葉を思い出し、
誤:「胃液が逆流するような苦しさを感じた」とうのだ。

正:「胃液が逆流するような苦しさを感じた」というのだ。

 

 


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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