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.国際  投稿日:2017/12/24

次期首相候補にマハティール氏浮上


大塚智彦(Pan Asia News 記者)

「大塚智彦の東南アジア万華鏡」

【まとめ】
・2018年8月までに予定されるマレーシア総選挙。与党はナジブ首相の再選目指し、野党はマハティール元首相指名する方針。
・しかし、野党連合の足並みが乱れており統一候補を決定に時間がかかっている。
・総選挙に向けてマレーシア政局は本格的に流動化。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明や出典のみ記載されていることがあります。その場合はJapan In-depthサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=37533で記事をお読みください。】

2018年8月までに実施が予定されているマレーシアの総選挙でナジブ首相の再選を目指す与党連合「国民戦線」に対抗して、政権交代を目指す野党連合「希望同盟」がこのほど総選挙対策会合を開催し、総選挙で勝利した場合の首相候補としてマハティール・ビン・モハマド元首相を指名する方針を固めた。
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写真)ナジブ・ラザク首相
出典)NAJIB RAZAK.com

しかし、野党連合を構成する野党4党のうち、最大勢力である国民正義党(PKR)がマハティール氏の首相候補指名に難色を示すなど足並みの乱れが早くも露呈するなど、大型汚職疑惑を交わし再選で政権基盤の盤石化を狙うナジブ政権に追い風となりかねない状況となっている。

野党の国民正義党(PKR)と国民信託党(PAN)、民主行動党(DAP)にマハティール元首相が結成した新党「統一マレーシア人民党(PPBM)」を加えた4党からなる「希望同盟」は12月初めに開催した4党幹部会合で次期総選挙対策を検討した。

その結果、総選挙で勝利し政権獲得が可能になった場合、首相候補としてマハティール元首相、副首相候補としてPKRのワンアジザ代表を指名する方針や各選挙区での4党候補の選挙協力を行うことなどでほぼ合意に達した。

ところが現地紙「スター」などによると、正副首相候補の選定に関してはPKRを除く3党の間では一致、合意に達したものの、PKR内部では不満が多く、「野党連合としての完全合意はまだ得られていない」と報じた。

PKRはワンアジザ代表が副首相候補に挙げられているものの、党内には「なぜ副首相候補なのか、独自に首相候補を出すべきだ」との意見が根強く、さらに「マハティール氏はすでに過去の人である」「過去の経緯を考慮すればマハティール氏の支持は難しい」との声も出ているというのだ。

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写真)ワンアジザPKR代表
出典)flickr:Prachatai

■ 根強い仇敵マハティールへの感情論

 ここでいう「過去の経緯」とは、1981年から2003年まで22年間という長期政権を維持したマハティール元首相の最側近で最も有力後継者といわれたアンワル・イブラヒム元副首相兼財務相が1998年9月に突然、マハティール元首相によって罷免され、その後汚職と同性愛容疑で有罪判決を受け服役、完全に政治生命を絶たれたことを指している。

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写真)アンワル・イブラヒム元副首相兼財務相
出典)flickr:Eddie CHANG
 
その後刑期を終え、政界復帰を果たして野党のシンボルとして活動を開始したアンワル氏を長年支えてきたのが妻のワンアジザPKR代表なのだ。

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写真)アンワル氏と妻のワンアジザPKR代表
出典)flickr : ada sandiwara

 マハティール元首相は首相在任当時から子飼いだったナジブ首相が政権掌握した後、汚職や親族重用などが目に余るとして反ナジブに転向するとともに与党UMNOを脱退して野党勢力と手を結び始めた。

 その象徴となったのが2016年9月5日のマハティール氏とアンワル氏の突然の会談だった。18年の怨念を超えてこの日2人は固く握手して約30分間密談、ナジブ政権打倒で手を携えることになったのだった。

 しかし、アンワル支持者の中には「仇敵マハティールは許さない」との雰囲気も強く、「憎しみは消せても、どうしてまたマハティールが首相候補なのだ、高齢者(92歳)の出番ではない」と納得できない勢力が存在するのだ。そしてマハティールを(首相候補)担ぐくらいなら「ワンアジザ代表、さらにかつて首相候補でもあったアンワル氏を擁立するのが筋だ」というのが根底にあるとされる。

■ 野党連合、候補統一で足並みそろうか

 PKRは12月末までに4党による選挙協力に関する会議を再度開催して候補の絞り込みを協議するとしているが、それまでに党内で再度「正副首相候補」の再検討をしたい、としている。そして、PKRとしてはPKRが推す候補が他の連合3党の合意を得ることが難しい場合には、腹案として首都クアラルンプールを囲むセランゴール州のアズミン・アリ首席大臣を首相候補に推すことも検討している報じられている。

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写真)アズミン・アリ首相大臣
出典)photo by Rehab junkie

 もっともこうしたPKRの正副首相候補に関する思惑に他の3党が合意して野党連合として正式に統一候補を出せるかどうかはまだ予断を許さない状況といわれ、統一候補が実現しない場合には与党連合に有利な状況で総選挙に突入する可能性がある。

 ナジブ首相は、マレーシア政府系投資銀行である「ワン・マレーシア・デベロップメント(1MDB)」を舞台にした総額約2500億円ともいわれる巨額の汚職事件への関与疑惑が依然として払拭されておらず、野党勢力や欧米から厳しい指摘を受けている。

■ 総選挙のタイミング計るナジブ首相 

 こうした逆風の中でナジブ首相は、総選挙に打って出るタイミングを計っているとされ、早ければ年明け早々にも、あるいは2018年の5月半ばから1カ月のイスラム教の断食月の前後などの時期を狙っているといわれている。

 ナジブ首相が野党連合などの状況を見ながら、「勝利が見込まれる」と判断すれば即座に総選挙実施となる可能性が高く、野党側もこうした動きに対応するため、正副首相候補、選挙協力を早急に進めているのだ。

 ナジブ政権側は、長年首相の座を務め信奉者がいまだに地方などに多いマハティール元首相の影響力に警戒を強めている。このため、最近はマハティール元首相の集会での発言や現職時代の事件に関して謝罪や訂正を求める動きが相次ぎ表面化している。

 いずれもナジブ政権批判を強め、野党連合の結束を強めようと画策しているマハティール元首相の動きをけん制するための、ナジブ首相側の反転攻勢とみられており、来年8月までという限られた時間の中で総選挙に向けてマレーシア政局の流動化はいよいよ本格的になってきたといえる。

トップ画像:マハティール・ビン・モハマド元首相 出典)flickrWazari Wazir


この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト

1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。


 

大塚智彦

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