中国の映画内容にミャンマー抗議〜自国の実情を貶める内容と抗議〜
大塚智彦(フリージャーナリスト)
「大塚智彦の東南アジア万華鏡」
【まとめ】
・ミャンマー、中国でヒット中の映画がミャンマーのイメージを損なうとして中国に抗議。
・持ちつ持たれつのミャンマー・中国関係ながら、中国映画への抗議は文化的側面が強い。
・「一か八の賭け」は凶とでるのか吉と出るのか、今後が注目。
ミャンマーの国営メディアは9月29日、中国が制作し中国国内でヒットを続けている映画の内容がミャンマーのイメージを損なっているとして中国側に抗議するとともに上映中止を求める事態になっている。
ミャンマーが槍玉にあげているのは中国映画「孤注一擲(英語タイトル・No More Bets)」で、映画の中では国名を特定しない東南アジアの国のある国に人身売買で連れてこられてオンライン詐欺に強制的に従事させられる中国人コンピュータープログラマーを描いている。
東南アジアの某国が舞台だが、中国人によるオンライン詐欺やネットカジノはミャンマー北東部に点在する中国資本の娯楽施設やホテルで実際に行われている犯罪で、ミャンマー軍事政権も中国治安当局もその存在を認知しており、中国側はミャンマー当局に摘発、関係する中国人の強制送還を求めている。
これに対しミャンマー軍政は最大の後ろ盾である中国への配慮から徹底的な摘発には乗り出すことを控え、時々象徴的な摘発を行い大々的に報道することで中国の要求に応じる姿勢をみせている。
こうした持ちつ持たれつのミャンマー・中国関係ながら、今回の中国映画への猛烈な軍政の抗議は政治経済軍事という関係とは異なる文化的側面が強いことを見極めて軍政は抗議という手段に訴えたものとみられている。
★中国では今年3番目のヒット作
映画「孤注一擲」は2023年8月に中国国内と海外で一斉に公開され、中国国内では今年3番目のヒット作となり、興行収入は公開6日間で15億元(約300億円)以上を記録し、最終的には38億元(約760億円)となっているという。
「孤注一擲」はニン・ハオ氏が制作し、シェン・アオ氏が脚本と監督を務めた作品で、主人公のコンピュータープログラマー藩(レイ・張芸興)とモデルの安娜(ジン・チェン・金晨)が海外からの高額の報酬という触れ込みの仕事を紹介され人身売買組織のルートで東南アジアの某国に連れていかれる。
そこでのネット詐欺で2人は大金を稼ぐもののネット詐欺のボスでマネージャーの陸(ワン・チュエンジュン)と阿才(スン・ヤン)によりネット詐欺から抜け出せない罠にはめられてしまい監禁されるという窮地となる。
そこへギャンブラーの阿天(ダレン・ワン)とその恋人である小雨(ジョウ・イエ)を引き込んで脱出を試みる、というのがストーリーである。
★中国人がミャンマー訪問を懸念とも
ミャンマー国営メディアによると、中国南西部広西チワン族自治区の南寧市にあるミャンマー軍政の領事館は「中国が国内で撮影し、中国および世界中で公開された映画でミャンマーのイメージが傷ついた。映画のストーリーはミャンマーに関連しており、中国人がミャンマーを訪問することを懸念しているとの報告がある」として映画に関連して中国人がミャンマー往来を心配する事態になっていると指摘している。
★どうなる「一か八かの賭け」
「孤注一擲」は海外ではカナダ、マレーシア、シンガポール、オーストラリアなど9カ国での上映が予定されアフリカや中東でも順次公開されるという。しかし当然のことながらミャンマーでは上映禁止となっている。
「孤注一擲」とは中国のことわざで「一か八の賭けに出る」という意味という。
国際社会で孤立しているミャンマー軍政にとって中国は最大の後ろ盾で、経済的、軍事的支援に全面的に頼っている。
しかしそんな状況にも関わらず中国に対して映画の内容に関して抗議したミャンマー軍政、中国側からの反応はこれまでのところ伝えられていないが、この「一か八の賭け」は凶とでるのか吉と出るのか、今後が注目されている。
トップ写真:2023年トロント国際映画祭の「In Conversation With… Andy Lau」に出席するアンディ・ラウとニン・ハオ(2023年9月16日 カナダ・トロント)出典:Photo by Mathew Tsang/Getty Images
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この記事を書いた人
大塚智彦フリージャーナリスト
1957年東京都生まれ、国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞入社、長野支局、防衛庁担当、ジャカルタ支局長を歴任。2000年から産経新聞でシンガポール支局長、防衛省担当などを経て、現在はフリーランス記者として東南アジアをテーマに取材活動中。東洋経済新報社「アジアの中の自衛隊」、小学館学術文庫「民主国家への道−−ジャカルタ報道2000日」など。