論議呼ぶオバマ前大統領夫人肖像画
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視 」
【まとめ】
・ミシェル・オバマ前米大統領夫人肖像画の表情やドレスに批判。
・画家は夫人の人間像を加味、あえて似ていない肖像画を描いた。
・ドレスも夫人を象徴するような黒人の芸術を生かしたもの。
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■ミシェル夫人の肖像画への賛否
アメリカの首都ワシントンの国立肖像画美術館に前大統領のバラク・オバマ氏と夫人のミシェルさんの肖像画が2月中旬、展示された。歴代大統領夫妻の肖像を公式に描いて、飾ることは米国政府の規則でも決められた伝統的な習慣だが、今回はミシェル夫人の肖像画に対してさまざまな意見が巻き起こった。
▲写真)ワシントン 国立肖像画美術館 出典)クリエイティブコモンズ
一つには肖像画は本人に似ていない、という批判だった。もう一つは彼女が着たドレスがあまりに強烈すぎるという批判でもあった。だがこの画を賞賛する側からは、これでこそよいのだという強い声もあがり、ちょっとした論争を生んでいる。
▲写真)ミシェル・オバマ前大統領夫人の肖像画 出典)photo by Amy Sherald
■あえて”似ていない”肖像画!?
アメリカ合衆国第44代大統領のオバマ氏とミシェル夫人の肖像画はそれぞれ個別だが並んで、2月12日に国立肖像画美術館の展示室に飾られた。屈折した論議を呼んだミシェル夫人のポートレイトは薄いブルーの背景に白地の大きく広がったガウンを着用して、イスに座った彼女が右手を顎の下に、左手を膝の上に、それぞれ軽くあてた姿だった。
▲写真)オバマ前大統領夫妻の肖像画 出典)youtube The Smithsonian’s National Portrait Gallery
オバマ氏が大統領職を辞めてからちょうど1年と20日ほどのこの肖像画展示はアメリカのメディアでも映像つきで大々的に報じられた。政治、美術の専門家をはじめ一般アメリカ人からも多数の意見や印象が寄せられた。批判と賞賛と、多様な反応だが、批判的な意見では「肖像画の女性はミシェル夫人に似ていない」というのが多かった。絵のなかのミシェル夫人は実物よりも肌の色が明るく、顔の印象も柔らかく女性っぽすぎる、という声が表明された。
この肖像画は、ミシェル夫人と同じ黒人女性の前衛的な画家、エイミー・シェラルドさんにより描かれていた。大統領とその夫人の公式肖像画を黒人画家が描くのは今回が初めてだともいう。
▲写真)画家のエイミー・シェラルド氏 出典)amysherald.com
シェラルドさんは、人物画ではそのモデルの人間像全体を社会、政治、文化という背景までも加味して、その本質部分を自分なりに特徴づけてまとめるという作風で知られている。だから今回の場合も「絵が実物にそれほど似ていなくても、実物の本質部分をそれなりに表現することの方が大切」(ワシントンの政治新聞「ポリティコ」の評)だというわけだ。要するに画家が独自にとらえたモデルの特徴が本物そっくりという写実主義に優先してもいいではないか、という姿勢だといえる。
■黒人の芸術を象徴するドレス
ミシェル夫人の肖像画でもう一つ多様なコメントを引きつけたのは絵の下半分を埋め尽くすような巨大なガウン風のドレスだった。この点に「人物よりもドレスが目立ちすぎる」というような批判がインターネット上でもあふれた。
このドレスは、ミシェル夫人とはとくに親しいファッション会社「ミリー」の女性経営者で、著名なデザイナーのミシェル・スミスさんの作品だった。
スミスさんはこのドレスにミシェル夫人の体現する「愛国心、行動主義、伝統、近代性などを象徴するメッセージをこめた」と語っている。ドレスには南部アラバマ州の黒人地域で長年、特産されてきたキルトがふんだんに使われていた。「アメリカ製、黒人の芸術」というような点で、欧州のブランド品を使うトランプ大統領のメラニア夫人への政治的批判もこめられているとい見方もある。
▲写真)デザイナーのミシェル・スミス氏 出典)MILLY HP
スミスさんは政治的にも熱烈な民主党リベラル派で、オバマ氏を選挙戦でも活発に応援してきた。トランプ大統領嫌いでも知られ、そのための抗議活動に頻繁に参加している。このへんにもミシェル夫人との共通項があるわけだ。
そんな政治面でも同志であるスミスさんがミシェル夫人のために特別に提供した衣装は、歴史に残る肖像画でも大きく強調されたことは、ある意味ではごく自然だともいえるようだ。それが一般の趣味と異なっても、不思議はないということだろう。
※トップ写真)Michelle Obama portrait 出典)Flickr Victoria Pickering
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。