.社会  投稿日:2018/3/18

里親制度 英国新ビジョンに学ぶ

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Japan In-depth 編集部(佐藤瑞季)

【まとめ】

16日午後、日本財団で里親制度に関する記者懇談会が行なわれ、長野大学の上鹿渡和宏教授をはじめとする専門家3名が参加した。

・日本の里親親委託率は19パーセントだが、イギリスでは73パーセントであり、仕組みなど学ぶことができる点も多い。

・海外事例のよい点を活かし、社会全体で社会的養護について考え、子どもの未来を考えていかなくてはならない。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=38975でお読み下さい。】

 

社会的養護」という言葉はどの程度世の中に浸透しているのだろうか。役所の定義を見てみよう。

「社会的養護とは、保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童を、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うことです。社会的養護は、「子どもの最善の利益のために」と「社会全体で子どもを育む」を理念として行われています。」(出典:厚労省

では、日本では本当に「子どもの最善の利益」の為に「社会的養護」が行われているのだろうか。3月16日午後、日本財団で「社会的養護:乳幼児影響研究、イギリス、新ビジョン」と題して行われた記者懇談会では、イギリスの最新の取り組みから日本は何を学ぶことが出来るのか、議論された。

■ 乳幼児の不適切な養育の影響

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▲写真 資料の説明をする上鹿渡教授 ©Japan In-depth編集部

はじめに、長野大学社会福祉学部教授の上鹿渡和宏教授が「乳幼児期の不適切な養育がもたらす子どもの発達への影響とその改善について」の報告を行なった。

上鹿渡氏は、ルーマニアにおける孤児に関する研究結果を発表、以下の2点を報告した。

大規模施設での不適切な養育によって子どもの発達に大きな悪影響がある

②出来る限り早期、特に生後半年~2年までの間、養子縁組や高い里親養育など良好な家庭環境へ移行することで改善しうる

この調査が行なわれたルーマニアでは2005年に2歳未満の乳幼児は施設入所を認めず、緊急養育里親養護に託置されていた。また、里親なのか、施設なのかという養育の形式よりも、その内容、個別の養育、ケアの質が重要だと報告した。日本ではこうした研究は、都道府県や児童相談所の許可が必要なため進んでおらず、海外の研究しかデータがないという。

■ 日本の里親制度の問題点

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▲写真 左が奥山氏、右が高橋氏 ©Japan In-depth編集部

次に、国立成育医療研究センターこころの診療部部長の奥山眞紀子氏が「新しい社会的養育ビジョン」に関する説明を行なった。

2016年の児童福祉法改正では、「子どもの権利」を基盤とし、家庭養育の優先を原則としている。日本では代替養育のうちの里親の委託率は17.5%。自治体や国などから、子ども1人あたり毎月、乳児院では50万~60万円、児童養護施設でも30万~35万円程度の費用が支払われるのに対し、里親家庭では里親手当と養育費を合わせても13万円~18万円程度だという。

「コスト面から考えても、子どもへの影響から考えても、幼いうちは特に里親家庭で育てることが良いのではないか」と話した。また、児童相談所への相談件数は、近年12万件程度まで増加しているのに対し、施設の受け入れの定員は20年前から今に至るまで4万人程度で変わらない。「これらに鑑みても里親制度へ期待できるのではないか」との述べ、里親制度の活用に期待感を示した。

また、里親や養親による虐待事例に関しても触れ、それらのケースでは、「里親の認定に関する調査が不十分で、SOSを出せない状況にあったことが原因で、1つ1つの事例を十分検証し、里親が孤立しないような状況を作っていくことが大切」と述べた。

 

■ 英国の新ビジョン

続いて、日本財団福祉特別事業チームのチームリーダー高橋恵理子氏によって「イギリスの里親養育の現状」をテーマに昨夏のイギリスでの視察報告が行なわれた。

イギリスでは乳児院は現在閉鎖され、里親委託率は73パーセントに上る。自治体は里親サービスに対して、平均で子ども1人あたり月32万円程度の金額をかけている。また、里親にいる期間の平均は1年程度と短期間の委託の子どもが多いようであった。充実した研修が行なわれているほか、Staying Putという、子どもが18歳になった時、双方の希望があれば、里親への支給金額は下がるものの、21歳まで里親の元で生活できる仕組みもある。

イギリスの養護施設の特徴は、年長者もしくは障害等を抱えるなど里親ではケアの難しい子どもが入所しているという点で、4分の3程度が14~17歳だ。イギリスをはじめとする里親制度が進んでいる国から学ぶ点は多いだろう。

 

■ 里親制度の在り方

最後の質疑応答では、里親経験のある参加女性が、小学2~5年生まで育てた里子の不調経験を元に、「不調となる原因は様々で一概に里親が悪いとは言えないケースも多くあるように感じる。その原因をより丁寧に調査する必要があるのではないか」と話した。

上鹿渡教授は、「乳児院では人手不足などから、家庭では当たり前のことが当たり前に出来ないという現状もある」とした一方で「施設も里親もケースによってまちまち、1つ1つのケース、施設ごとに考えていかなくては」と話した。

また、日本では、比較的問題のない子どもが施設で、問題があり年の大きい子どもが里親に預けられるというイギリスとは逆の状態になっており、仕組みそのものの再構築も含め、考えていくべき、との指摘がなされた。

里親制度そのものがまだまだ知られていない現状で、里親を活用した社会的養護の質の向上はまだ端緒に就いたばかりとの印象を持った。こうした研究を研究のままで終わらせず、海外事例も良いところは取りいれて大胆に日本の制度改革へとつなげていく必要性があろう。そうした変化が「子どもの最善の利益のために」なることが必要なのは言うまでもない。「社会全体で子どもを育む」大切さを今一度私たちは思い起こさねばならない。

トップ画像:©Japan In-depth編集部

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