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.国際  投稿日:2018/3/30

仏のパン屋、働きすぎで罰金


Ulala(ライター・ブロガー)

フランス Ulala の視点」

【まとめ】

・仏、週休1日の条例違反でパン屋に3000ユーロ(約39万円)の罰金

・同情した住民らがパン屋を擁護、法改正求める署名運動も。

・労働は働く時間だけではなく全体のバランスが成り立っていることが重要。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真の説明と出典のみ記載されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=39233で記事をお読みください。】 

 

フランス中央北東部にある小さな村・リュジニー=シュル=バルスでパン屋を営むセドリック・ヴィルヴィレさんが、休みを取らず毎日働いたと言う理由で、3000ユーロ(約39万円)の罰金が科せられたことが話題となっています。

この地域では1994年と2000年に定められた地方の条例で、「パン屋は1週間に一日は休まなくてはならない」と定められており、休みを取らず連続しての営業はこの条例に違反するというのがその理由。

このニュースを受けた日本では、日本において長時間労働による過労死や過労自殺が後を絶たず深刻な社会問題となっていることから、「フランスでは働きすぎると罰金」と言う事実に「素晴らしいですね。残念ながら日本では考えられない。」「さすが先進国」「最高だ。そして、これくらいやっても国は崩壊しない。」など賛美するコメントが相次いでいました。

しかしながら、このフランスの労働規制は、本当に手放しに礼賛できるものなのでしょうか?

フランスのニュースでは日本とは違ったニュアンスで伝えられており、日本とは反対に「こういった法律は時代遅れだ」と言う声もあがっています。というのも、フランスのパン製造に関する細事にも及ぶ関連法律は1920年頃のパン屋という職業規定にさかのぼるとも言われており、現在にはそぐわない内容であるというのです。

現在フランスでは、営業している個人のパン屋の数が年間1200件ペースで減少しています。パンの消費量が1900年頃に比べると五分の一になったということもありますが、大型店の増加、重労働な仕事な上、週35時間の重圧もあり、若者がパン屋を開業する自体減少しています。そんな中、小さな村になればなるほど採算が取れず撤退するパン屋が近年増加し、この村にもパン屋はたったの一軒だけ。

さらに隣村では昨年の10月にパン屋が閉店し、現在では隣村の住人までが7、8Kmの距離をかけて買いに来ている状況であり、連日営業して他の競争相手の店に悪影響を及ぼしているというよりも、むしろ、営業してくれていることに感謝されていると言ってもいいでしょう。

このパン屋がある村は2000人程度の小さな村で、住民しかいない冬季は営業していてもそれほど多くの売り上げはありませんが、夏のバカンス時期にはこの地域にある湖に多くの観光客が訪れ、一年の収入を大きくカバーする売り上げがあがることで生計を立てています。こういったバカンスによる収入の変動は観光地では珍しくはなく、小さな村のレストランでは7月と8月のみの収入で年収の60%を占めるという話も普通です。バカンス時期に可能な限りお店を開くことは人口が少ない村の観光地にとっては、なくてはならない大切な収入源になっているケースが多いのです。

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▲写真 フランスパン photo by nsummer

夏季のバカンス時期に観光客にしてみても、もしこの店が営業してなければ、他の村に10Kmほどかけてパンを買いにいかなくてはなりません。ちょっと歩けばいろんなお店がそこら中に存在する日本では想像もできないかもしれませんが、フランスではこういった小さな村にはお店もないことも多く、毎日食べるパンが近くで買えることはかなりありがたいことなのです。

そんな状況の中、夏季の間は、毎日営業を認めてもらう例外許可の申請をしながら営業をしていました。しかしながら2015年と2016年の年には許可を得ることができましたが、2017年は思いがけず不許可となったのです。そこでパン組合に電話して相談したところ、口頭で夏季のみなら認められると言われたこともあり、起業時の借金や従業員への年間の給料の支払いのためや、村の人の要望もあり、背に腹を変えられず、いずれ許可が下りるだろうという見切り発進でそのまま夏のバカンス中には例年通りお店を毎日営業しましたが、結果的に認められることはなく12月に労働局から罰金の通知が来たという展開です。

罰金の通知を受けたパン屋のヴィルヴィレさんはこう主張します。

一生懸命働く労働者にペナルティーを科す世の中であってよいのでしょうか。」村長も「パン屋が閉店してしまうよりも、毎日開いていてもらった方がいい。ここは小さい村なのですから、大きい村と同じ基準で規則を設けられても困ります。」とパン屋を擁護。同情した住民を中心に、村では法律の改正を求める署名が集められ労働局に嘆願書も出されました。手書きでの署名はすでに400件。ネット上では3000件以上の署名が集まっています。

▽ネット署名のサイト

https://secure.avaaz.org/fr/petition/INSPECTION_DU_TRAVAIL_ET_PREFECTURE_DE_LAUBE_AIDONS_NOTRE_BOULANGERIE/

しかしながら、パン屋協会の代表アミオ氏は、それでも週1度の休みを守ることを強調します。「労働局は人手が足りなかったのか今まではあまり対応しなかったけれども、ようやく最近違反している店を取り締まるようになただけの話でしょう。週1度の休みを取ることについては、会員にアンケートを取ったが多数の意見で賛成を得ていることです。」

アンケートでは126人に手紙を送り、34人が返信した中、27人が週1度の休みに賛成という結果だったと言います。

労働時間が長すぎる場合に、ある程度の規制を行ったりするなどで恩恵を受ける場合ももちろんあると思います。しかしこのパン屋のように制限を設けることにより自由を制限され、苦痛を強いられるケースも存在するのです。やはり労働は全体のバランスが成り立っていることが重要であり、よかれと思っても単純に一律に制限を設けることがよい影響ばかりを与えるとは限りません。働く時間だけが満足に労働するための優先項目なのか?他に優先すべき項目も考慮にいれるべきではないか?と言うことを改めて考えさせられます。

現在、ヴィルヴィレさんは、罰金を払わないことを決意し、嘆願書がどのように処理されるかを待っているところ。今後、どのような結果になるか気になるところです。

トップ画像:フランスのパン屋さん photo by fs999


この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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