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.国際  投稿日:2024/4/23

パリオリンピックに向け厳戒態勢 


Ulala(著述家)

フランスUlalaの視点」

 

【まとめ】

・4月21日、パリで「人種差別とイスラム嫌悪に反対するデモ行進」が行われた。

・中東紛争の影響でイスラム教徒に嫌がらせをする人が増加。

・厳戒体制をとったとしても、何があってもおかしくない。

 

 4月21日、フランス、パリで「人種差別とイスラム嫌悪に反対するデモ行進」のデモ行進が行われた。このデモは、一時はパリ警察によって禁止されたものの、翌日にその禁止命令を裁判所が却下することでデモ行進がようやく可能になったという、かなり物議を呼んだデモとなった。

 では、なぜここまで警察は警戒したのであろうか?デモに参加する団体の中には過激行動をするグループも含まれており、警察に対する暴力を誘発する可能性があったことに加え、現在の中東情勢が緊迫している中、パレスチナ活動家の暴徒化と、イスラム嫌悪による抗争が懸念されていたからである。

 最近では、デモ隊に紛れ込んだ暴徒が破壊をくりかえすことが多くなり、このような「公共秩序を乱す危険性が高い」デモは、警察から禁止命令がでることが多くなってきた。しかしパリの行政裁判所は、すぐに「デモの自由に対する深刻かつ明らかに違法な攻撃」と判決を下し、デモする権利を尊重し許可したのである。

 しかしながらこの厳重な警戒が功を奏してか、デモ当日は「警察は人殺し」などという声を張り上げながらデモが行われたが、そこまで大きな問題が起きることはなかった。それよりも前日に行われたアフガニスタン移民によるデモの方が酷かったぐらいだ。反対に気になったのは、前日のアフガニスタン移民によるデモもそうだが、今回の「人種差別とイスラム嫌悪に反対するデモ」についてもフランスのメディアではほとんど報道されていなかったことである。テロ警戒レベルも最高度に引き上げられているフランス。オリンピックという大きな大会を目前にして、イスラム教徒を刺激するような報道は控えられているようにも見える。イスラム関連の話題にはさらに中東情勢が加わり、フランスにとっては大きな問題を起こす火種になることは間違いなく、厳戒態勢が敷かれている。 

 イスラム教徒とフランス(ヨーロッパ)の確執

 フランス(ヨーロッパ)における、イスラム教徒への偏見はかなり根強い。その理由はあまりにも多すぎてすべての出来事をここで説明することはできないが、思想的には、特に15世紀ぐらいから始まったヨーロッパのキリストの軍とオスマン帝国軍の衝突の影響が大きい。この戦いの中、ヨーロッパの人々の中には「イスラム教徒は異質で略奪的」という思想がしっかりと定着した。

 その後、イスラム教徒の土地を植民地化する時代を経て、イスラム教徒がヨーロッパに移民としてやってくることになったが、偏見に満ちたヨーロッパで劣悪な環境下におかれるなど、常に多くの問題を抱えて生きていくこととなり一部は過激化していった。

 イスラム過激派はテロなどで多くの人の命を奪ったが、フランスの理念をも暴力で捻じ曲げようとしている。もっとも象徴的な事件は、2020年に起こった「中学の歴史教師サミュエル・パティさんが首を切断されて殺害事件」だ。(参考:https://japan-indepth.jp/?p=54341、https://japan-indepth.jp/?p=57870) 教師が担当した「表現の自由」の授業中に「シャルリー・エブド」に掲載されたイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を使ったことが原因で、イスラム教徒から大きな反発が起りSNSで拡散。その結果、まったく学校とも関係ない人物に首を切られて殺害されたのである。

 それだけでは終わらない。殺害までは至らないが、イスラムに関することで脅迫されることもしばしばだ。今年3月にも、パリのある学校で女子生徒がイスラム教徒がかぶる髪を隠す衣類(ヒジャブ)をかぶってきたため、校長が注意をしたところSNS上で殺害予告が出された。そのため身の安全を確保するために校長は退職を早めることを余儀なくされたのである。

 フランスにはライシテという規則があるため、公共施設、特に学校内での宗教に関する物を身に着けることが禁止されている。ライシテとは、政教分離の原則であり、(国家の)宗教的中立性・無宗教性および(個人の)信教の自由を保障した基本原則の一つだ。よって、学校ではイスラム教の宗教にのっとった服装であるヒジャブを身に着けることは禁止されている。それにもかかわらず身に着けてきたうえ、規則を守らないことを教師が注意したら殺人予告が行われるとあれば、フランス国内なのにもかかわらずフランスの規則が暴力によってないがしろにされていることになる。それは、宗教を介しての内政干渉であり、フランスとしては容認できることではない。フランスとしては断固とした態度をとっていこうとしているのも理解できるだろう。

 しかし、問題を複雑化させるのは、このライシテの意味をはき違えた単なる偏見、差別からくる嫌がらせをする輩がいることでもある。先日も、スポーティなナイキ製のヒジャブを身に着けた若い女性に、「なぜそんなものを着ているのか理解できません。無理です!無理です!無理です!どこの国にいるのですか?我慢できません」と嫌がらせしている動画がSNSで拡散されて問題となった。

 またほぼ同じ時期に、インスタグラムで約40万人にフォローされているマドリード(スペイン)在住のインフルエンサーが、友人とフランスでヒジャブを着てパリのエッフェル塔の近くを歩いていたところ、フランス語を話す男性に二度も唾を吐きかけられる事件も起こった。

 ライシテでは、学校などの公共施設内ではヒジャブの着用は禁止しているが、屋外での一般道路での着用は禁止していない。よって、これらの2件の事件はあきらかにただの差別行為といえるだろう。そのように規則ではなく、個人の感情にのっとっての執拗な嫌がらせはイスラム教徒の増悪をさらに増長させる。しかしながら、中東に広がる紛争の影響で故意にイスラム教徒に嫌がらせをする人物が増加しており、だからこそ報道にも慎重さが求められているとも言える。

 移民法改正と国外追放

 そういった状況の中、安全なオリンピックを迎えるために、ジェラルド・ダルマナン内務大臣が中心となって活動が行われている。例えば、オリンピック関係者の身元調査もその一つだ。現段階で、オリンピックにかかわる人は合計100万人。そのうち19万5000件の検査が実施され、161人が危険人物とされた。その内訳は、「イスラム過激派が105件、極右が35件、極左が18件、外国からの干渉をした人物が3件」だそうだ。オリンピックで働く28万5000人の民間警備員全員も検査され、すでに問題があるとされた1392人がリストから外されている。

 同時に危険思想を持っていたり、フランスに不利益をもたらすとされる外国人を次々と国外退去させている。今年に入り移民法が改正されたことで、さらに強制退去させることがたやすくなった。1月から3月までにすでに38人の外国人が追放されており、これは前年同期と比較して +110%増加したとフランスのテレビ局BFMTVは伝えている。その中には、トルコの少数民族クルド人の非合法武装組織、クルド労働者党(PKK)のメンバーも含まれていた。送還時には、シャルルドゴール空港に反対するクルド人の集団が押しかけ一時、空港は騒然となった。もし、このような混乱がオリンピック開催中に行われていたらもっと大きな問題へと発展した可能性もある。

 また、新しく改正された移民法により、少なくとも、二人のイスラム教の「指導者」であるイマムも追放された。この二人は、反フランスをよびかける説教や、ユダヤ人コミュニティに対する憎悪と暴力を誘発したことで知られていており、フランスの治安を悪化させる原因を作っていた人物たちと言ってもいいだろう。それぞれ、チュニジアとアルジェリアに送還された。

 その外にも、パリのノートルダム大聖堂でテロを計画していたイスラム過激派のエジプト人を拘束したりなど、次々と危険の芽を潰すことに力を入れ、パリには警備の人数も増やしたが、さらに増やすことも可能な体制をとっている。

 一方で、オリンピックの警備に必要な警備員の人数が現時点では十分ではないという心配の声が上がっており、積極的に求人しているところでもある。

 厳戒態勢が敷かれているオリンピック

 火種が多いヨーロッパ。しかも複数の紛争が周辺で起こっている現在の社会情勢で均衡を保っていくのは並大抵なことではない。これだけ警戒し、考えられるすべてのことをやっても予測しないことが起こる可能性もある。オリンピックは大人数が集まるイベントだ。たとえできるかぎりの厳戒体制をとったとしても、何があってもおかしくないことは肝に銘じておきたい。

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トップ写真:パリで行われた「人種差別とイスラム嫌悪に反対するデモ行進」の様子。2024年4月21日。出典:Photo by Remon Haazen/Getty Images




この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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