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.国際  投稿日:2024/8/20

デンマーク裁判所、シー・シェパード創設者の身柄拘束延長決定


Ulala(著述家)

フランスUlalaの視点」

【まとめ】

・シー・シェパート、ポール・ワトソン容疑者の拘束期限が9月5日まで延長。

・フランスの著名人ら即時釈放求める請願書に署名、マクロン大統領介入。

・日本への引き渡しを巡り、デンマークとフランスで議論が続く。

 

7月21日、反捕鯨団体シー・シェパード(SS)の創設者である、ポール・ワトソン容疑者(73)がデンマーク領グリーンランドの警察当局に拘束されたが、拘束期限であった8月15日、グリーンランドの裁判所は9月5日まで拘束を延長することを決めた。

延長が決まった同じ日に弁護側はオンラインで記者会見を開き、「日本の主張は虚偽だと裏付けるビデオがある」と主張し、日本への身柄引き渡しを阻止するために控訴した。

ポール・ワトソン氏は、2010年に日本の調査捕鯨の監視船の航行を妨害するよう仲間に指示し、器物損壊、傷害をおこした容疑がかけられている。そのため日本の手配により、国際刑事警察機構(インターポール、ICPO)から「赤手配書」を発行されていたため、立ち寄り先の グリーンランド で拘束されたのだ。

シー・シェパードの関連団体「キャプテン・ポール・ワトソン財団(CPWF)」によれば、乗っていた反捕鯨船は日本の捕鯨船を「妨害」するため北太平洋に向かっており、その途中で給油するためにグリーンランドに寄港したということだ。

日本政府がポール・ワトソン氏の身柄の引き渡しをデンマーク司法省に求めたことをうけて、グリーンランドの裁判所で協議が行われ、デンマーク司法省の判断を待つため勾留期限を9月5日まで延長するとした。

この環境活動家の拘束は、世界をこえて波紋を呼んだ。特に、ポール・ワトソン氏が一年以上住んだフランスでは国会の中にも活動家を支持する議員も現れただけではなく、インターネット上ではポール・ワトソン氏の即時釈放をデンマークに働き掛けるようマクロン大統領に訴える請願書がインターネット上で発表された。

■ フランスが介入

ポール・ワトソン氏の即時釈放を訴える請願書がインターネット上で発表されてから、たったので3日間で47万人超の署名が集まった。署名した人物の中には、フランスのラジオおよびテレビの司会者ナグイ氏、動物保護活動家の女優ブリジット・バルドー氏、テレビ番組の制作・司会で知られるステファン・ベルン氏、フランスのロック・バンド・アンドシーヌの歌手ニコラ・シルキス氏、実業家のマルク・シモンチーニ氏、ルノー元会長ルイ・シュバイツァー氏など、フランスに影響を与える著名人の名前も含まれていた。

NGOシー・シェパードフランス支部も、逮捕状の理由はばかげていると主張している。だいたいインターポールがこんな要求を受けたこと自体が間違っており、デンマークに対して日本に引き渡し拒否の圧力をかけることが当然だと考えている。それと共に、日本の司法制度と刑務所制度が厳しいため、「ポールにとって日本への引き渡しは死刑宣告に等しい」とし、フランスの「政治的・外交レベルでの」動員を求めた。

しかしながら、当初は、エマニュエル・マクロン大統領も対応には慎重になっていた。大統領は、この問題を「個人的に」そして「緊密に」追っているとだけしていたのだ。また、デンマーク政府からも、フランス政府が介入することはできないとも言われていたという。

だが、水面下では活動が続いていた。パリオリンピック期間中に外国政府が到着する期間を利用して、外務省とエルベ・ベルヴィル海洋大臣により根回しが進められていた。そして最終的には、ポール・ワトソン氏が日本に引き渡しされることを回避するために「状況を注意深く監視」しながらも、エマニュエル・マクロン大統領がデンマーク当局に介入していることが7月23日に報じられたのである。

ただし、この行動がフランス国内で批判されていないわけではない。7月24日付のLe Poinの記事では、マクロン大統領の判断が危ういことが危惧されている。というのも、シー・シェパードはすでに過去に日本への妨害行為を禁止されていたからだ。

シー・シェパードは2012年に、米連邦高裁から今回と同様の仮処分命令を受けた。しかしその後も妨害活動を継続したため、それが法廷侮辱に当たるとされ、鯨研と調査船を所有する共同船舶に賠償金計255万ドル(当時のレートで約3億円)を支払った過去がある。

その後、2016年8月の調停により、この賠償金の一部が和解金としてシー・シェパードに返還されるが、シー・シェパードおよび、ポール・ワトソン氏、または彼らと協力して行動する者が日本の捕鯨船を「物理的に攻撃することを永久に禁止する」とされた。

にもかかわらず、今回、CPWFが発表した情報が正しければ、ポール・ワトソン氏は署名した協定に反して北太平洋に向かっていたことになる。フランス大統領の外交顧問らは大統領に説明する時間がなかったかもしれないが、協定はまだ有効であり、拘束力があることは間違いない。

■ 日本の捕鯨最大手、共同船舶社長、所英樹氏の主張

フランスのメディアfranceinfoには、日本の捕鯨最大手、共同船舶社長、所英樹氏の主張も掲載されている。所英樹氏の言葉には、こういったフランスの対応に失望している言葉が並んでいる。

「もちろん、私たちは彼の引き渡しを望んでいます。彼は私たちの乗組員を攻撃し、ボートを沈めようとしました。それは殺人未遂です。民間企業としてフランスに対して怒りを感じています。殺人未遂を犯した男に国家が正当性を認めるなんて、正気の沙汰ではありません。」

それ共に、日本の共同船舶は、日本政府が定めた漁獲枠に従って日本の領海と排他的経済水域でのみ漁をしており、国家から要請があった場合の研究任務以外には、どこへも行くつもりはないことを明言している。

日本国が許可した範囲内のことであれば、それは日本国が世界と対応していく問題ではないだろうか?

「日本には世界に向けて我が国の立場をもっと説明してもらいたい」と所英樹氏は言う。

日本政府にとって割り当てに従って捕鯨することは有害ではなく、クジラの皮や肉の搾取はさまざまな伝統の一部であると記事には書かれている。

■ デンマークにとっては頭痛の種

一方、グリーンランドのあるデンマークでは、ポール・ワトソン事件は、頭痛の種でしかない。

デンマークのラース・ロッケ・ラスムセン外務大臣は、「デンマークとしては国際法秩序の原則を徹底的に守りながら、この環境活動家の身柄引き渡しを拒否するのは非常に難しい」と、述べている。

にもかかわらず、身柄引き渡しを拒否して欲しいという圧力を受けている。フランス政府が介入してきたのもその一つだ。ポール・ワトソン氏の支援者からも、メディアや著名人と協力しながら手強い主張をしてくる。しかし、現時点ではうまくは行っていない。

ポール・ワトソン氏の弁護士は、すでにこの時点で「日本の主張は虚偽だと裏付けるビデオがある」としていたが、8月15日のグリーンランド地裁での協議では、そのビデオを見せることが許可されなかった。そのため、グリーンランドのメディアに対して、裁判官と検察官への不満を表明していた。

また、依頼人を弁護士の監視下にあるホテルで勾留するように要求もしたが、それも却下された。なぜなら、2012年にもドイツの司法当局に拘束されたが、日本がドイツ政府に身柄の引き渡しを要請したことを知り、日本に引き渡されれば2度と釈放されないという理由で保釈中に逃亡したことが判明したからだ。すでに前歴がある人物を監視がゆるいホテルに滞在させることを許可できない。

しかも、弁護士の監視下におくという条件で、アパートに勾留されて脱走された例は近年すでに起こっていたことは多くの人が知っていることだろう。そう、現在はレバノンに逃亡している日産自動車・前会長のカルロス・ゴーン容疑者の話だ。

さらに、今回、ポール・ワトソン氏の弁護士団の中には、なんと、ゴーン氏を担当したフランスの弁護士も名前を連ねている。このことをグリーンランド地裁が知っていたかはわからないが、用心するに越したことはないことは間違いない。

■ ワトソン氏の弁護士の一人はゴーン氏の弁護士

ゴーン氏を担当し、ポール・ワトソン氏を担当しているフランスの弁護士は、フランソワ・ジメレー氏である。ゴーン氏のフランス側の弁護士団には、フランソワ・ジメレー氏、ジャンイブ・ルボルニュ氏という二人の弁護士が活躍していた。当時は、この弁護士団により、日本の司法に対する風評被害が広められ、日本が人権侵害国であるという印象を植え付けられたが、その功績が認められたのか、その後もフランス国内の日本に関する事件にはよく名前が聞かれる弁護士となった。そして、そのたびに日本の印象を悪くするために同じ主張がされてきたが、その手法が、今回のポール・ワトソン事件にも応用されている。

フランソワ・ジメレー氏は、グリーンランド地裁での協議が行われたときに、次のように弁護した。

日本は、「死刑を執行し続けている国」であり、「日本では有罪推定があり、検察は有罪率が 99.6%であることを誇らしげに発表している」、また、「人権に関する国際条約を尊重しない国で、公正な裁判を受ける権利を持てないリスクがある」、と。

こういった弁護と協力者の主張も含め、「ポール・ワトソン氏が日本に行くということは、それは死を意味する」といった文面、またはそれを匂わす言葉が、フランスの記事に多く書かれる結果となっている。

■ 日本のイメージにも大きく影響

「日本に行くことは死を意味する」と書かれて、他の解釈をする人が出てくることが心配だ。

実際の話、現在73歳のポール・ワトソン氏が有罪になれば懲役15年と予想されていて、もし本当に15年間、刑務所で過ごすことになれば出所するときは88歳だ。年齢を考えれば、日本でその人生を終える可能性は確かにある。

しかし、そのことをゆがめて解釈され、その言葉通りに「日本に行くことは死を意味する」と広められるのは酷い話である。この結果、デンマークから日本に無事に引き渡しされたとしても、ポール・ワトソン氏が日本で亡くなれば「やはり死につながった」と批判されたあげく、ポール・ワトソン氏は間違いなく神格化され、その後も日本を非難する格好の攻撃材料をとなっていくだろう。

かといって、ここで引き渡しが却下されることにも問題がある。日本にポール・ワトソン氏が引き渡されない場合は、一般の人々に「日本に対する暴力行為は許される行為」とみなされたり、日本の司法に対する風評被害が事実なので引き渡しが却下されたと受けとられる危険性があるからだ。

こういったことを考慮して、今後は、どういった方法が最善の策かを十分に検討していくべきだ。少なくとも、風評被害を広げるフランスを含む各国のメディアにできるかぎり反論していくことは必須だろう。

慎重な対応が求められるポール・ワトソン事件、今後どう対応されていくのか。まずは、9月5日までの判断が待たれる。日本および関係者各国の対応に注目していきたいところだ。

-参考リンク-

Arrestation de Paul Watson au Groenland : le Japon demande au pays l’extradition du militant – Libération

(グリーンランドでのポール・ワトソンの逮捕:日本が活動家の引き渡しを要求 – リベラシオン)

Arrestation de Paul Watson: Emmanuel Macron «intervient» pour que le militant ne soit pas extradé vers le Japon

(ポール・ワトソンの逮捕:エマニュエル・マクロンが活動家の日本への引き渡しを阻止するために「介入」)

Soutenir Paul Watson, encore une décision périlleuse d’Emmanuel Macron

(ポール・ワトソンを支援すること、エマニュエル・マクロンのまた一つの危険な決断)

“C’est une tentative de meurtre” : le patron du baleinier visé par Paul Watson souhaite l’extradition de l’activiste au Japon

(「これは殺人未遂だ」:ポール・ワトソンに狙われた捕鯨船の船長が活動家の日本への引き渡しを望む)

Affaire Paul Watson : le casse-tête du Danemark

(ポール・ワトソン事件:デンマークの頭痛の種)

Arrestation de Paul Watson : “Les militants environnementaux ne sont pas violents”, assure Michel Forst | France Inter

(ポール・ワトソンの逮捕:「環境活動家は暴力的ではない」とミシェル・フォルストが主張 | フランス・アンテル)

«Ma crainte, c’est que le public minimise les risques encourus par Paul Watson en cas d’extradition vers le Japon», s’inquiète l’un de ses avocats – Libération

(「私の懸念は、ポール・ワトソンが日本に引き渡された場合のリスクを公衆が軽視することだ」と彼の弁護士の一人が心配 – リベラシオン)

https://www.icrwhale.org/121218ReleaseJp.html

(財団法人日本鯨類研究所・共同船舶株式会社:シー・シェパード及びポール・ワトソンに対する妨害差止め請求裁判について

トップ写真:駐ベルギーデンマーク大使館前で、ポール・ワトソン容疑者の釈放を求めて抗議する支持者ら(2024年8月2日ベルギー・ブリュッセル)出典:Thierry Monasse/Getty Images




この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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