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.国際  投稿日:2018/5/20

仏、救急要請無視で女性死亡


Ulala(ライター・ブロガー)

フランス Ulala の視点」

【まとめ】

救急医療サービスが緊急電話を無視、22歳女性が死亡。

・地元紙が衝撃的なオペレーターの会話録音を公表。

労働環境の問題か、個人の過ちか。裁判の結果が注目される。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=40106でお読み下さい。】

 

「何度聞いても、まったく変わらない恐怖感が沸き上がる」

フランスで急病を発症し、死亡した女性と公営救急医療サービス(SAMU)のオペレーターの会話の録音に対する、フランスの番組司会者の感想だ。

去年12月、フランス東部ストラスブールの自宅でナオミ・ムセンガさん(22)が激しい腹痛に見舞われ、救急車を呼ぼうとSAMUに電話をかけた際の会話。この録音が、ストラスブールの地元紙HEB’DIで公表された後は、あっという間に大手のメディアで取り上げられ、フランス全体に怒りが広がった。

「どうしましたか?」(オペレーター)

「(小さい声で)助けてください…」(ムセンガさん)

「どうしましたか?」(オペレーター)

「助けてください…」(ムセンガさん)

「よし、どうしたのか言えないなら、切るわよ」(オペレーター)

「…とても痛いんです」(ムセンガさん)

「じゃあ、お医者さんに電話してください。わかった?」(オペレーター)

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▲写真 SAMUのオペレータースタッフ 出典:SAMU Twitter

この録音はまだまだ続く。どこが痛いのかを聞かれるが、ムセンガさんはとても弱々しい声でお腹が痛い、全身が痛いと説明するも聞いてもらえず、公的緊急医療サービス(SOSメドゥサン)か主治医に電話をかけてくださいと一転張りの返答が続く。

「SOSメドゥサンに電話してください」(オペレーター)

「むり…」(ムセンガさん)

「できないの?救急には電話できてるのに、できないんですか。はい、死にそうなんですね。いつかは死ぬわよ。みんなと同様にいつの日か。」(オペレーター)

「お願いします。マダム助けてください…」(ムセンガさん)

この後、オペレーターはSOSメドゥサンの電話番号を繰り返し電話するようにいうが、ムセンガさんは承諾の返事の代わりに「うう。。」とうめき声しかあげてない状況だ。それでもオペレーターはそのまま「さようなら」と電話を切ってしまう。

明らかに弱々しく苦しんでいるムセンガさん。SOSメドゥサンにも電話をかけようとしたものの、電話番号を正確に打てなかったようで成功せず、それでもなんとか知り合いへの電話は成功して来てもらうことに。しかし知り合いがたどり着いた時には、血に汚れたシーツの上で横たわっていた状態であり、その後病院の運ばれた時にはすでに手遅れで亡くなってしまった。「出血性ショックによる多臓器不全」との診断だ。緊急電話をかけて約4時間後のことである。

ムセンガさんは22歳の若さで、2歳の子供の母親でもあった。いつも笑顔でまったく問題も起こさない健康的な女性だったと友達たちは口々に答える。

亡くなる2週間前には、高校時代の友達のスタイリストに頼まれてパリの洋服のファッションショーにモデルとして参加していた。美しいムセンガさんが着ると洋服がとても映えるためいつも頼んでいたと言う。しかしその時の姿が生前の最後の映像となり、2017年12月29日に亡くなることになるとは誰も想像もしていなかっただろう。

病院で亡くなった後、2018年に入り、死後5日後の1月3日に解剖が行われ死因の調査が行われた。しかし、ようやく病院から両親に説明されたのが2月。ムセンガさんの両親はまったくその説明に納得がいかない。そこで知り合いのすすめでSAMUとのやりとりの録音を入手依頼した。

4月15日にようやく、「聞く人に衝撃を与える可能性があります」と記されたSAMUの録音を受け取る。そしてこの音声を聞いて卒倒するのだ。驚いた家族は友だちや知り合いと相談したうえ現地の新聞HEB’DIと連絡を取り、4月27日に記事が発表された。

両親は集まった報道陣の前でこう語る。

「なぜ死んだのか、あのオペレーターの女性はいったい誰なのか知りたい。どうしてそんなことをしたのかを知りたい。」

そして、病院とオペレーターを相手取り、訴える準備に入った。

日本でも同様に救急車に来てもらえず亡くなった事例がある。死亡したのは山形大理学部2年だった大久保祐映(ゆうは)さん=当時(19)だ。大久保さんが山形市消防本部に119番通報したのは2011年10月31日午前5時11分。しかし、同市消防本部に自力で病院に行けると判断され、救急車は来なかった

通報を受けた通信指令課職員2人は「歩けるのか」「タクシーで行けますか」という問いに、大久保さんが「動ける」「タクシー…の番号がわかれば自分で行けると思います」と答えたやりとりから「緊急性がないと総合的に判断した」(市側の準備書面)という。

大久保さんの声を音声で確認すると、ろれつが回っておらず、軽い意識障害があるのではないかと思える箇所もある。呼吸も荒く嘔吐もしていると本人が答えているので、医者であれば何らかの症状を発見できたかもしれないが、もちろんオペレーターは医者ではない。決められた確認事項に該当する場合のみ救急車を送るが、この時は本人が「タクシーで行ける」と答えていたため救急車派遣に該当しないと判断されたのだ。

しかし、この日本のケースと比べてみても、今回のフランス・ストラスブールのオペレーターの対応には違和感を覚える。事情もほとんど聞かず、事情どころか、患者の様子(意識混濁などの)を見るための会話もなされてない状態で、SOSメディサンに電話をかけるようにと即答している。しかも本人が本当に電話をかけられるかどうかの確実な返答も聞かずに電話を切っているのだ。

最初ムセンガさんは助けを求め警察の電話番号に電話をかけた。そこで警察からSAMUに電話を転送したのだが、警察のオペレーターが状況の引継ぎの際「死にそう」と言ってると伝えたときに、すでにSAMUのオペレーターは、「確かに彼女は死ぬでしょうね。誰でもいつかは死ぬんだもの」と軽口を言っていた。

「もうその時点で、診断がされていて、答える内容が決まっていたのではないだろうか。」

と、記事を書いたストラスブールの地元紙HEB’DIの記者は語る。

このようなずさんな対応になった理由としては、オペレーター自身は、「悪列な仕事環境が招いた惨事」だと主張している。

現在一時的な停職処分として自宅で待機し沈黙を守っていたが、5月13日(日)、彼女はフランスメディアM6のプログラム66分の放送の電話インタビューでこう答えた。

「システムの責任を負わされるのはもう十分です。私たちは常にストレスにさらされているんです。12時間連続して仕事しています。そんなひどい労働条件なんです。2時間~3時間ぐらいしか電話から離れている時間はない。みんな忙しくて立ち上がる時間もありません。手順に落ち度が発生するのは、処理しきれる以上の多くの電話がきて、対応しきれないからです!

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▲写真 SAMUのオペレーター 出典:SAMU

20年、救急職員と勤務し、その後緊急電話のオペレーターとして4年間働いており、勤務状況はおおむね良好な職員だったという。オペレーターの弁護士によると、平均2000件、多い日は3000件の電話があり、いつもストレスにさらされている仕事であり、彼女は、もう二度とこの仕事をやらないつもりだと語っているそうだ。

しかしながら、ストラスブールの病院長はこう答える。

「この日は、普通の日で、特別電話数が多かった日ではありません。オペレーターは働き始めて2日目。その前は15日間の休暇も取っている。当日の仕事開始時刻は7時半。電話を取ったのは11時半なんです。よってこれは個人の過ちではないかと推測しています。」

オペレーターの仕事はストレスのかかる仕事には間違いないだろう。システムには改革も必要かもしれない。しかしだからと言ってこの件のオペレーターの態度は適切だったのだろうか。

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▲写真 ムセンガさんの死に抗議するデモ 2018年5月17日 Justice pour Naomi Musenga / Facebook

こういった状況でフランスではどのような判決が下されるのか。労働条件が問題だったのか、個人の責任がどう問われるのか。今後行われる裁判の結果が気になるところだ。

トップ画像/亡くなったナオミ・ムセンガさん Justice pour Naomi Musenga / Facebook


この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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