スポーツ  投稿日:2018/7/1

承認を求める対象をどこにするのか

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 為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)

 【まとめ】

・承認欲求により頑張れる事もあれば守りに入ってしまう事もある。

・誰に承認されたいのかの設定によって人生は大きく変わる。

・承認される対象をどこにするのかによって自分の程度も決まる。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真の説明と出典のみ記載されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=40755で記事をお読みください。】

 

承認欲求は時々厄介者扱いされるが、自分の人生を振り返っても必ずしも悪いことばかりではなく、そのおかげで頑張れることも多々ある。ただ、承認欲求によって守りに入ってしまうこともあり、その違いを考えてみるとそれは対象の差なのではないだろうか。

私は陸上の中でさらにマイナーとされるハードルを飛びながら、ずっと野球やサッカーを羨ましがっていた。お金持ちになり、有名になり、アナウンサーと結婚なんかしてていいなあと思っていた。とにかく広島からみていれば華やかに見えた。

大人になり、とある人と食事をした時に、ハードルのものすごくマニアックな技術と工夫の話を興味をもって聞いてもらったことがあった。そこで言われたのは“やっぱり孤独でシビアだから陸上の世界が一番いいですね”だった。ああ、別に有名にならなくてもみてくれている人はいるんだと、なんだかほっとしたのを覚えている。

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▲写真 イメージ図 出典:pixabay photo by annca

何かをやり続けた職人や、ある本を書いた著者など、人生で聞いたことがなかった人が尊敬されているコミュニティがある。そこでは世間一般の評価とは違う軸で、いやむしろ何かに特化し世間からそっぽを向かれている人の方が評価されていたりする。私は恥ずかしながらそれまで、そのことを知らなかった。だから、ずっと世間の方を見ていた。

承認欲求は対象により善にも悪にもなりうる。一体誰に、どのコミュニティに承認されたいのかの設定によって人生は大きく変わる。地元のクラスコミュニティの中で認められたければそれなりの、世間に認められたければそれなりの、ノーベルプライズの審査員コミュニティで認められたければそれなりのやり方がある。

承認欲求で守りに入るタイプは、今いる場所の承認を求めている。一歩先の世界で尊敬される姿勢は今のコミュニティから見ればバカに見えることもある。

私の人生の目的は、尊敬する人が本気の話をしてくれることで、これを失うことが一番怖い。難しいのは、いくらお金を持っていても、権力を持っていても、相手が本気で話してくれるとは限らないことだ。賢い人は話はしてくれても、この人が理解できるだけの素養があるかどうかを見極め、手加減する。だから、こいつに本気で話してもいいかと思われる状態でいたいし、また少しでも理解できるような能力を高め続けていたい。

承認欲求は対象の程度に集約させる効果がある。政治家が民度を超えられないように。そして全ての人が認めてくれるなんてありえない。対象をどこにするのかによって、自分の程度も決まる。

(この記事は2017年10月18日に為末大HPに掲載されたものです)

トップ画像/イメージ図 出典:pixabay photo by rawpixel

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この記事を書いた人
為末大スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役

1978年5月3日、広島県生まれ。『侍ハードラー』の異名で知られ、未だに破られていない男子400mハードルの日本 記録保持者2005年ヘルシンキ世界選手権で初めて日本人が世界大会トラック種目 で2度メダルを獲得するという快挙を達成。オリンピックはシドニー、アテネ、北京の3 大会に出場。2010年、アスリートの社会的自立を支援する「一般社団法人アスリート・ソサエティ」 を設立。現在、代表理事を務めている。さらに、2011年、地元広島で自身のランニン グクラブ「CHASKI(チャスキ)」を立ち上げ、子どもたちに運動と学習能力をアップす る陸上教室も開催している。また、東日本大震災発生直後、自身の公式サイトを通じ て「TEAM JAPAN」を立ち上げ、競技の枠を超えた多くのアスリートに参加を呼びか けるなど、幅広く活動している。 今後は「スポーツを通じて社会に貢献したい」と次なる目標に向かってスタートを切る。

為末大

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