[宮家邦彦]クリミア併合は今後10年、20年間の欧米対ロシア関係を左右しかねない戦略的意味合いを持つ[連載20]外交・安保カレンダー(2014年3月10日-16日)
宮家邦彦(立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表)
先週一週間はワシントン出張だったので、この原稿は成田行帰国便の中で書いている。帰国直前に米国で幾つか見た日曜朝のトークショーは、案の定、ウクライナ問題ばかり。但し、オバマ外交の詳細に触れる識者は少ない。問われているのはオバマ大統領がプーチンのロシアに対し「強いリーダーシップ」を発揮したか否かだからだ。
識者たちの関心は、クリミア併合問題でヒラリーが何を言うか、共和党保守派の集会で2016年の同党立候補予定者が如何にオバマ大統領を扱き下ろすかに集中していた。
関心はウクライナ情勢の行方ではなく、あくまで秋の中間選挙と次の大統領選挙。内政は外交に優先する。やはり米外交は変わっていないようだ。他国のことは言えないが…。
今回、米国で感じたことは、ウクライナ問題が持つ戦略的重要性についての認識が欧米と日本ではかなり異なるのではないか、ということだ。日本はG7の一員としてロシアを非難する一方、ロシアとの関係悪化は避けたいと考えている。誤解を恐れずに申し上げれば、それ自体は問題ではない。問題は戦略的危機感の有無である。
欧米、特に米有識者は今回のロシアの動きを「ウクライナ政変に対するプーチンの気紛れな対応」などとは考えていない。今回のクリミア併合は今後10年、20年間の欧米対ロシア関係を左右しかねない戦略的意味合いを持つ。このことを日本は正確に理解した上で対応する必要があるだろう。
もう一つ気になるのが先週消息を絶ったマレーシア航空機だ。情報があまりに不足しているため、単なるメカニカル・トラブルではないとの見方を誰も捨てきれない。盗難旅券を使った二人のアジア系旅行者の話が独り歩きし始め、やれテロリストだ、いや麻薬の運び人だ、などといった噂が喧伝されている。実に困ったものだ。
現時点ではウイグル自治区関係者は勿論、イスラムのテロリストの関与を示唆する証拠どころか、情報すら十分得られていない。報道の要請と知的正直さとのバランスは常に難しいものだ。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
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