トランプ政権 ウイグル問題で中国に抗議
古森義久 (ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視 」
【まとめ】
・中国、新疆ウイグル自治区のイスラム系住民を大量拘束。
・米国務省ケリー・カリー大使、議会公聴会で証言。
・トランプ政権、中国の人権弾圧に対し抗議や圧力を表示していく構え。
【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全てが掲載されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトでお読み下さい。】
中国政府が新疆ウイグル自治区のイスラム系住民に対して80万人以上という大量拘束をして、年来の宗教や文化の放棄を迫っていることは重大な人権弾圧だから、ただちに停止せよ――アメリカのトランプ政権が中国政府に正面からこうした抗議をしていることが明らかとなった。中国のこの大規模な弾圧は「一帯一路」構想の円滑な推進にとって同自治区での不安定な情勢が大きな障害になるため、という動機も強いようだという。
トランプ政権の中国への抗議は7月末のアメリカ議会での公聴会で同政権の国務省のケリー・カリー大使によって全体図が明らかにされた。カリー氏はトランプ政権を代表して国連で人権や社会問題を担当する特別大使である。
写真)ケリー・カリーKelley E. Currie大使
出典)米国国連ミッション
この公聴会は議会と政府が一体となった「中国に関する議会・政府委員会」によって開催された。アメリカの立法府と行政府が合同で中国の社会や人権について調査し、報告し、対中政策の指針とすることを目標としている。
同委員会は上院共和党のマルコ・ルビオ上院議員を委員長として、議会の超党派議員に政府の関連機関代表を含めて構成され、中国政府の人権弾圧を非難することが多い。同委員会は中国政府が昨年春ごろから新疆ウイグル地区でのイスラム系のウイグル人を組織的に弾圧し、年来の宗教や文化、言語を強制的に放棄させようとしているという認識を深め、種々の抗議活動を続けてきた。
画像)上院共和党のマルコ・ルビオ上院議員
7月末の公聴会ではトランプ政権の代表としてカリー大使が証言した。同証言の骨子は以下のようだった。
・中国政府は2017年4月ごろから新疆ウイグル地区でのウイグル人への「中国化」を強め、同地区内に多数の強制収容所を新たに設けて、これまでに合計80万、あるいは100万人にも達するイスラム系住民を強制的に拘束してきた。
・収容所ではイスラム教への信仰、ウイグル語 の保持、男性のひげ、女性のベール着用など、ウイグル人としてのアイデンティティー(自己認識)を放棄させ、無宗教の共産主義思想を信奉させる洗脳作業が強行されている。
・共産党政権に少しでも批判的な言動をとるウイグル人は正規の法的手続きを経ずに逮捕され、拘束され、厳しい尋問や拷問にかけられるケースが多い。強制収容所での拘束以外にも数万単位の住民が連行されて、行方不明の状態となっている。
・中国政府は中国の国外にいるウイグル人の活動への反発を強め、「世界ウイグル会議」の最高指導者のラビア・カディール女史やワシントンでアメリカ政府系の報道機関で働くウイグル人記者たちのウイグル地区在住の家族たちを逮捕、拘束している。
画像)「世界ウイグル会議」最高指導者のラビア・カディール女史
出典)世界ウイグル会議(WORLD UYGHUR CONGRESS)公式HP
・トランプ政権ではポンぺオ国務長官が中心となって中国政府に直接、この大規模な弾圧を止めることを求めるとともに、国連の各種関連機関を通じても中国政府への圧力や抗議を強めている。
・中国政府はウイグル人弾圧の理由として「イスラム過激派のテロ対策」などをあげるが、実際には大規模なインフラ建設構想の「一帯一路」の推進にあたり、陸路の出発点にあたる新疆ウイグル地区の完全な「中国化」を図るという動機もあるようだ。
カリー大使はトランプ政権の見解として以上の趣旨を証言した。トランプ政権はいま中国への安全保障や経済の政策を基本から変えて、中国の無法な膨張を力を行使してでも断固、抑えるという姿勢をみせ始めたが、これまで非難の大きな比重をおかないようにみえた中国の人権弾圧に対しても、今後、強固な抗議や圧力を表示していく構えのようだ。
海外在住のウイグル人たちはこれまで同胞の窮状の救済には日本の助けをも熱心に求めてきた。今回の未曾有のウイグル民族の危機にまた日本の助力を期待する動きもすでにワシントン地区では起きている。日本の官民がこの異様なほどの人権弾圧にどう対応するか、注視されるところである。
トップ画像)ウイグル族を弾圧する中国警察
出典)ウイグル・オランダ財団
あわせて読みたい
この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。